冷静に戦中をふりかえる作品
2019/01/28 12:34
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦後、戦犯容疑で拘留されていた作者がそのことを題材にして書き上げた芥川賞受賞作が表題の「プレオー8」なのだが、受賞したのは1970年で終戦から25年も経過していた。その経過した分だけ作者には冷静に当時の日本軍を描写することが可能だったのかしれない。幹部候補生になれずに入隊した主人公の周りにはインテリが存在せず、慰安所に入り浸ったり、かわいい兵隊を女性にみたてて可愛がったりと品性下劣な男ばかりだが、それが本当のことだと思えるし、当時のことを作者が冷静に振り返る中で、占領地での非戦闘員の殺害や強姦などは日常茶飯事だったろうことはある程度予想できる。インテリではない兵士のレベルを考えると無理もないことかもしれない
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安岡章太郎さんの『悪い仲間』に出てくる藤井高麗彦が古山高麗雄さんのことだと知り、古山さんを読んでみたくなった。
そして古山さんを読み終わってから、もう一度『悪い仲間』も読んでみた。
古山さんの作品を読んでから『悪い仲間』を読んでみると、
最初に読んだ時の「藤井」は、棘と毒気と高慢みたいな感じを多めに感じたのだが、
今回の「藤井」は、弱くて真面目なところが強く引き出されているように感じた。
それは、古山さんの作品を読んで、古山さんが弱くて真面目で人のために尽くす人に思えたからだ。
もちろん、そもそもそういう風にして描かれている作品なのだと思う。私が間違って捉えていたのだ。
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何日も前に読み終わって、感想を書かなくてはと思っていた。しかし、どうにも何を書いていいのかわからなくて書き倦ねていた。
悪くはないし、良かったとも思う。でもこれまでのいつもの読後感とはちょっと違って、感想が思い浮かばなかった。
『白い田圃』と『プレオー8(ユイット)の夜明け』と『蟻の自由』が良かった。
どれも戦争記で、『白い田圃』と『蟻の自由』はビルマでの話、『プレオー8の夜明け』はサイゴン刑務所での話。
どれも戦争記としては読んだことがないようなものだった。
とくに『プレオー8の夜明け』のような、戦犯として刑務所で暮らすというシチュエーションは珍しいと思う。
いつ外に出られるのかわからず、自分達の未来を描けない。生きるためにその日々を明るく過ごそうと芝居をやり、妄想をする。
おもしろおかしく書かれているその奥に深いところがある。
真面目に感想を書くとなったらもう1、2回は読まないと本当の感想は書けないと思う。
いや、何度読んでも感想なんて書けないかもしれない。
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感想を書くまでにすこし時間が空いてしまった。9篇あるなかで、どれも戦争を題材にし、フィリピン、ビルマ、カンボジア等の戦場での戦いの様子や戦犯容疑で拘留されたという自分の経験を書いている。作品のうち経験の重なっているものがあり、実体験を小説に落とし込むときの取捨選択というものを、九作品を読んだからこそ見れた気がした。戦争当時に自分の見た戦場の風景をこんな風に整理して書けたのはすごい。
プレオー8の夜明けがやはり一番よかったように思われる。戦犯容疑で拘留されている主人公たちの監獄での様子を描いたもので、戦争を古山高麗雄が描こうとするときに一番適した枠組みだった気がする。
結婚して四十年経った妻との七ヶ宿村という作品が最後に載っていて、作品としてはすらっと読んだものの、中に描かれている夫婦の関係がおもしろかった。ここに焦点を当てた古山高麗雄の作品が他にもあったら読みたい。