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著者が知人から偶然もらい受けた『維新の頃より明治のはじめ 大江戸趣味風流名物くらべ』なる番付。
浅草、日本橋、上野周辺を中心に東京の特長ある店や庭園、人物を記したもので、それは関東大震災や戦災で今や失われた江戸時代の趣を今に伝えるものだった。
著者はそこから10年近くを費やし、各店などがどのようなものであったか、今はどうなっているか等を実地検証。原稿用紙にして実に千五百余枚を費やし現代に甦らせたものがこちらの『大江戸趣味風流名物くらべ』だ。
「うなぎ 霊岸ばし 大國屋 / 柾目下駄 さかひ町 六門屋 / 表附 かや町 香取屋 / 団扇 堀江町
伊せ惣 / 扇子 寳扇堂 / ざしきてんぷら 扇夫 / 池ノ端 蓮玉庵 / そば 布屋太兵衛永坂更級 / 道かん山 虫声 / 御いん殿 水鳥」
目次の始めの方を引用してみたが、これだけでも胸が踊る。
さて内容はというと、番付とあるがミシュランのような星をつけて品評するといったものではなく、書かれるのはあくまで各店の成り立ちや歴史、物語である。
これがめっぽう面白い。人情話を聞くようなとでも言うべきか。
気になる方は、本書110ページ「海老天ぷら ぎんざ 天金」の項だけでも立ち読みしてほしい。
※ちなみに「天金」は国文学者の故池田彌三郎氏のご実家である。
文庫本とはいえ600ページを超える大著なので、一気呵成に読了するような本ではなく、むしろ散歩のお供に、事典のように長く長く楽しみたい。
このような本を出してくれた平凡社に感謝。
余談だが、この本の著者は作家・吉村昭氏の実兄である。
家業の製綿製糸会社を経営する傍ら、『ふとん綿の歴史』、『綿の郷愁史』、『綿づくり民族史』を著す等、在野研究者としての顔も持っていたようだ。
さぞ多忙だったろうと思われるが、その合間を縫い、『大江戸~』の文献探索から関係者への聞き取り調査・記録まで全て1人で成し遂げたというのだからただただ驚く。