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このタイトル自体がセルフ・パロディなんです。解ります?その感じ。
2008/09/05 22:09
12人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yama-a - この投稿者のレビュー一覧を見る
自分のホームページに以前書いたことがあるのですが、僕は清水義範は僕の双子の兄弟だと思っています。僕と似ているというようなものではありません。僕が普段から考えているのとほとんど寸分違わないことを書く作家だという感じなのです。だから読んでいて「へえ」とか「なるほど、確かに」とか「目から鱗が落ちた」なんて思うことまずありません。「この人は僕だ」という感覚なのです。
ただ、今回この本を読んでみてよく解ったことは、この人は僕より遥かにたくさんの本を読んでいるということです。この本は、お題がお題だけに数多くの世界の古典文学を取り上げています。一方、僕はといえば過去の名作よりも今を生きる同時代の作家の労作を読みたいという気持ちが強い分、古典を読むのは自ずから疎かになります。しかし、だからと言って、この本に取り上げられている小説を僕がほとんど読んでいないのは、僕と彼との読書傾向がずれているということを物語っているのではないはずです。多分清水は僕が読んでいる現代小説もたくさん読んでいて、僕が読まない時代小説や古典文学も同じくたくさん読んでいて、全体的に僕より遥かにたくさんの量を読んでいる人なのでしょう。でなければこんな本は出せないはずです。
今回も書いてあることはまことにすんなり僕の頭の中と心の中に入り込んできます。非常に説得力があるとか文章が上手いとかじゃなくて、単純に「同感」の2文字なのです。
「そういうふうにひとつの小説を読むだけで、簡単に言うと、自分以外の人間にも心の動きがあるのだということを、小説は教えてくれるんです。(中略)小説をひとつも読んでいない人というのは、そういうところがね、何か、多分、欠けているのではないかと思うのです。他人も他人で生きているとか、私とは別の心があるのだ、ということについ想像力が及ばなかったりするわけです」(79ページ)。
「私の作文教室では『なんでも書け』と言っているわけです。(中略)世の多くの学校の先生は、子供が『昨日、私は道で困っている人がいたので(中略)助けてあげました』と書くと、『いいことをしましたね』と書くんですよ。ところが、『いじめました』と書いたら、指導のところに『友達同士は仲良くしましょう』と書くんですね。それというのは、作文の指導じゃないんですよ、実は。作文の指導の時には、『そのなぐりたい気持ちがよく伝わってきたよ』という点を評価すべきでしょう?」(148ページ)
どうです? こんな調子でパロディ/パスティーシュ論、ユーモア小説論、読書論、作文論、そして、「私が決める世界十大小説」が語られるんです。あなたにとっては双子の兄弟ではなく赤の他人ですか?
いや、この本を読んで親近感が持てるかどうかはタイトルを見た時にどう感じたかで瞬時に判別できるはずです。僕はこれをみてニヤッと笑ってしまいました。この一見もっともらしいタイトルは、安直な出版物ばかりが好まれる世間の風潮に対する揶揄であり、同時に作家本人に対するセルフ・パロディでもあるのです。
こんな本を読んでも世界の文学が一気に解ったりはしません。ただ、「もうちょっと本を読んでみようかな」なんて気になってくれる人が出てくれば、それこそ著者の狙い通りと言って良いのではないかと思います。
by yama-a 賢い言葉のWeb
読むことと書くことの幸福
2008/04/26 22:36
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:けんいち - この投稿者のレビュー一覧を見る
清水さんは、作家なのだけれど、いわゆる想像力でオリジナルな小説を紡いでいく、というタイプの作家ではない。そうではなくて、すでに世の中に存在する小説やら常識やらの素材を用いて、それをまねたりいじったりすることで、とても面白い、新たな小説を書いてしまうタイプの作家である。本書は、そんな清水さんの作家としてのヒミツが、じつにやさしい言葉で書かれた、いわば清水流文学入門といえるだろう。
ある素材を用いて、それを換骨奪胎、つまりはずらしたり皮肉ったりして新たな小説を書いてしまうこと、それをパロディといい、ある作家の文体をまねすることをパスティーシュというのだけれど、清水さんはそのすばらしさを語るために、世界文学を語る。というのも、作家その人が、ゼロからオリジナルに創り上げたもののほうが、なんとなく価値があるように世の中では思われていて、逆にいえばパロディやパスティーシュは、価値が低いもののようについつい思われがちだからである。しかし、世界文学の名作の数々が、実はパロディでありパスティーシュであったとしたらどうだろう。よく知られているように、シェイクスピアのお芝居だって、もとになった素材があるものがほとんどだし、本書でも述べられるように、近代小説の大ボス的な存在であるセルバンテスの『ドン・キホーテ』だって、パロディなのだ。そして清水さんは、世界文学を駆け抜けながら、パロディやパスティーシュの豊かな文学的魅力について、軽やかに語ってくれるのだ。
そしてもう1つ、本書が改めて気付かせてくれる重要なメッセージは、小説を読むことと書くことの幸福な関係について、である。はっきりいえば、小説というものは、とても自由な形式で、多かれ少なかれ作家が読んだものをベースにして新たに書かれるということだ。「なぜ小説を書くのか」と自問して、「小説を読んだからだ」と答えたのは後藤明生だが、清水さんのいっていることも、要はそういうことだ。だとしたら、パロディやパスティーシュこそが、自由であるべき小説の、本来の姿なのだ。だから、一般読者もまた、例えば清水さんの小説を楽しく読んで、新たに想像力をふくらませていく時、それは新たな小説を、清水さんの小説を素材にして、書いていることと同じことなのだ。そしてそれは、幸福な文学のありかたにちがいない。
斎藤美奈子さんは清水のことをクソミソに言いますが、私は清水の文章論、好きです。普通の人が文章を書くには清水の案内が実に親切でわかりやすい
2008/07/18 19:59
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
文章読本の書き手として、現在もっとも適切な人材と思っているのが清水義範で、出版社もそれを認めているのでしょう、最近、清水の文章の書き方についての本が矢継ぎ早に出ています。僕が読んだだけでも
『早わかり世界の文学』『独断流「読書」必勝法』『小説家になる方法』『日本語のレトリック』『はじゅめてわかる国語』『創作力トレーニング』『大人のための文章教室』『わが子に教える作文教室』『スラスラ書ける!ビジネス文書』
とかなりの量に上ります。当然、それらの本に同じ話が出てきてしまうのはやむをえないところで、今回の本にも、以前どこかで読んだような、というものもあります。例えば、清水がやっている作文教室の添削の話などがそうですが、でも日本の国語教育に問題点について、実例のあげ方は微妙に異なります。
あるいはパロディについての話ですが、基本は変わりませんが、それを映画と関連付けて整理したのは、今回が初めてではないでしょうか。言われれば肯いてしまいますがあの「フーテンの寅さん」をドン・キホーテと結び付けるあたりは、慧眼というか凄いというか、ともかく個性的です。
名作として、自分が読んでいない本はあげない、というのは当然ですが、読んだものについては、その解説がいいです。源氏物語も、ここまですっきり解き明かされれば、読みたくなります。ただし、世界中で読まれている、というのは疑問。日本がどこにあるかも知らない人が沢山いるのに、どこを調べればそういう言葉が出てくるのか。学者・文学者に読まれるのではなく普通の主婦、高校生や大学生に読まれて初めて、そういえるはずです。
しかし、噂は聞いていましたが、光文社版『カラマーゾフの兄弟』が五巻合計で五十万部も売れ、その読者の70%が20代、30代で、彼らが「カラキョー」と略して呼んでいる、というのには驚きました。カラマーゾフはフカキョンか?っていうの。親しまれるのと愚かさは紙一重、じゃあ、『源氏物語』に愛称はある?とまあくどいような疑問が・・・
でもそれは、あえて言えばの小言で、全体としては楽しく読書。ちなみにカバーの言葉は
・・・・・・文学というのはパロディのような形で引用されたり模倣されたりして、喜ばしく継承されていくのではないか。・・・・・・今まである文学に対する、「イエス」と「ノー」と両方もっているのがパロディであって、そのような形で次の作品が生まれてくる。それで文学史がつながっていく。・・・・・・
カバー折返しの言葉は
作家・清水義範の小説スタイルは「パスティーシュ(模倣芸
術)」と呼ばれてきた。さかのぼれば、『旧約聖書』の「ノアの
方舟」の話は『ギルガメシュ叙事詩』からの引用だと言われる。
スタインベック『エデンの東』は『旧約聖書』のカインとアベルの
物語から作られた。また、デフォーの『ロビンソン・クルーソ
ー』に腹を立てて生まれたのがスウィフトの『ガリヴァー旅行
記』である。世界の文学はつながっている。膨大な読書体験と
創作の方法をひもとくことで、それがそのまま文学案内となる
面白くて便利な一冊。
となっています。もくじを補足して写しておきましょう。
まえがき
講義1 パロディで文学はつながっている:2006年1月 青山学院大学での講演:パロディは昔からやってきたこと/芸術は模倣である/『聖書』はパロディの宝庫/『エデンの東』も『アルマケドン』も/「寅さん」もドン・キホーテ/『坊ちゃん』の秘密 など
補講1 パスティーシュの正体は何か:書き下ろし
講義2 読書で学べること:2005年9月 北海道名寄高校での講演:小説家になるまで/焼き芋を買うシーンにハラハラ、ドキドキ/「読む子」は「書ける」/長男が大事だった時代の次男の気持ち/田舎の悪口が小説になる/『漱石はあだ名を付ける名人 など
補講2 私が決める世界十大小説:書き下ろし:『オデュッセイア』/『源氏物語』/『ハムレット』/『ドン・キホーテ』/『ファウスト』/『ゴリオ爺さん』/『ボヴァリー夫人』/『罪と罰』/『魔の山』/『失われた時を求めて』
講義3 作文教室と創作方法:1998年11月 近畿大学での講演:作文を教えるコツは何か?/「いいこと」を書かなくても誉めてあげる/パスティーシュの方法/楽器と同じように練習する/海外旅行での日本人の行動を観察/日本国憲法もパロディにしちゃった など
補講3 ユーモア文学論:書き下ろし
あとがき
文学作品・著作者名索引
以上、軽い気持ちで読めるのがありがたいです。
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