「不平等な平等」にどう対峙すべきかを考えさせられる、著者渾身のデビュー作。(2009年度本屋大賞受賞)
2010/05/13 10:42
12人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:惠。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者デビュー作にして2009年度本屋大賞受賞作である。
まず、本屋大賞とは書店員が「面白かった」、「売りたい」、「読んでもらいたい」と思った作品に投票して決定する賞だと聞いて驚いた。(わたしは文学賞をついての知識は持ち合わせていない。)
だって本作、後味はあまりよろしくないのだもの。
「面白い」か否かの判断は個々人の価値観によるものだからいいとして、「読んでもらいたい」作品として本書が挙げられたことが純粋に面白いな(興味深いな)、と思ったのだ。
物語の舞台は中学校。女性教師は終業式のホームルームで生徒たちに辞職を告げる。その数ヶ月前、シングルマザーである彼女は学校のプールで愛娘の愛美を亡くしていた。自身の監督不行届を認めた上で彼女は、生徒たちに対してこう言う―――
―――「(略)わたしが辞職を決意したのは愛美の死が原因です。しかし、もしも愛美の死が本当に事故であれば、悲しみを紛らわすためにも、そして自分の犯した罪を悔い改めるためにも、教員を続けていたと思います。ではなぜ辞職するのか?
愛美は事故で死んだのではなく、このクラスの生徒に殺されたからです。」
全6章から成る物語は全て、独白形式で進行する。章ごとに独白者はひとり。各人物の独白に耳を傾けることで、愛美という少女の死の真相が少しずつ浮彫になってくる。
第一章は先にも引用した女性教師の独白だ。ホームルームで彼女は、娘を殺した犯人を暗にほのめかし、彼女なりの罰を与えたことを生徒たちに「告白」する。そしてその「告白」が原因で、クラスは不穏な空気に包まれることとなる。
事故として処理された愛娘に対する殺人。女性教師は裁きを法に委ねず、自ら下すことにした。それは決して許されることではない。それでも彼女はそれを決行した。その最たる理由は、犯人の年齢にある。
この世の中、ことあることごとに「平等」がうたわれるが、不思議なことに「完全なる平等」は時と場合によって疎まれる。平等が素晴らしいことであるならば、全て「完全に」平等にしてしまえばいいはずだ。しかしわたしたちの実社会に「完全なる平等」は馴染まない。
例えば所得税。完全なる平等を求めれば定額制にすべきだろう。しかしそれでは人によっては生存権を脅かされかねない。ならば定額制の税金額を極小にすればよいかというと、それでは国が潰れてしまう。
このように、わたしたちの世界は「不平等な平等」の上に成り立っている。そしてその「不平等な平等」は刑法においても用いられる。例えば心神喪失者は犯罪不成立となるし、心神耗弱者は刑が必ずに軽減される。そしてもうひとつ、刑法上の責任能力なしと定められる身分がある。それは14歳未満者だ。
辞職した女性教師が担任したクラスは中学一年生。スキップ(飛び級)が認められない日本では、中学一年生のクラスに14歳以上の者はいない。それは、愛娘を殺した生徒を警察に突き出しても科刑されないことを意味する。だからこそ彼女は自ら裁きを加えることを選んだ。しかも間接的な方法で。
なんて平等なひとなのだろう。彼女は刑事不可罰犯罪者に対して、完全なる平等を追究し続けた。しかし彼女がとった行動は許されることではない。とは言いながら、もしもわたし自身が彼女の立場に立たされたと仮定したら、その怒りを、その哀しみを、鎮める方法がわからない。
ネタばれになるから詳しくは書けないが、愛美の死亡事件も女性教師の復讐も、何かひとつ、たったひとつだけ違うことが起こっていたら、避けられたのではないだろうか。全てのことは紙一重―――そんなことを感じた作品だった。
注意:後味ははっきりいって良いものではありません。
ハッピーエンドが好きな方は読まれないほうがよいかもしれません。
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投稿者:ミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
イヤミスの女王こと湊かなえさんのデビュー作。各章の語り手が違うことでいろいろな視点から事件を見られる。
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投稿者:てくちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
子供を殺された母親の気持ちがよく分かった。未成年の殺人について考えさせられました。
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現代社会を浮き彫りにしている。
それぞれの立場に立てばそれなりの行動の理由があるのは肯けるが、それが正しいことかどうかは別の問題だ。
内容は時にリアルで残酷ところもあるのだが、淡々と客観的な語り口でまとめているので、さらりと読み進められる。
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我が子を校内で亡くした女性教師が、
終業式のHRで犯人である少年を指し示す。
ひとつの事件をモノローグ形式で
「級友」「犯人」「犯人の家族」から、それぞれ語らせ真相に迫る。
物語とは言っても、全てが一人一人による告白なんですね
いろんな視点からの独白で構成されてる一冊です
続きが気になる事もあり、あっという間に読み終わりました
さすがに本屋さんが推薦するだけありますね~
人間のエゴも垣間見れ、愛情も垣間見れ。。。。。
作家さんが主婦だからでしょうか・・・
女性側の告白の気持ちがリアルです
最後は噂どおりの「後味の悪さ」も残りますがとても面白い作品でした
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我が子を校内で亡くした中学校女性教師の復讐。淡々と語られる教師の話が、罪を犯した子供を追い詰める。
ある子は追い詰められ、ある子は・・・
結果的に教師の復讐へと繋がるのだが、あまり後味のいい小説ではなかった。
映画化されたものがどのように作られたのか、それを見たいと思う。
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2010.5.26読了
前から興味あり、知人から借りたので一気に読みました。
出だしの話し口調が読みづらかったですが、慣れてきたら止まらなくなるほど、引き込まれました。
それぞれの立場から語る事件の詳細が悲しいほどリアル。
AIDSの描き方がやや疑問でしたがそこも敢えてなのかと。
読後感は人それぞれだと思いますが、自分としてはありでした。
映画にも期待。
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なんかもうひたすらすごかった。
友達に借りて読んだけど、サクサク読める半面ずっとドキドキもしてました。
衝撃的な結末だよって言われてたけど、いい意味でそこまで驚かなかったかな。
委員長の切なさに胸が痛くなったり、森口先生のカッコよさにグサッときたり。
映画でどんな風に演じられてるのかすごく興味がわきました。
CMでちらっと見た松さんの語り方をイメージして読んでしまったので、見に行きたいなぁ。
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第6回本屋大賞受賞作。
人間の泥臭い、とっても嫌な「負」の部分を感じさせる点は『鈴木先生』を
彷彿とさせる。
事件の関係者によるモノローグの章仕立ての進行は、読み進めるに従って、
直前まで感じていた同情の念をコロリと変えさせられる。
ばっさり切り捨てる多乗化どんでん返しの末の終章には思わず「ほう」と。
著者の術中に見事に嵌ってしまった、というところだろうか。
負の連続ながらも、読後感は悪くなし。
ただ、抱えたテーマの重さをつい考えさせられてしまう。
あくまで「エンタテイメント」として割り切って読んだ方が良かったかも。
(ちょっともったいないことしたな)
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とても面白かった。数時間で一気読みした。先生の語り口調とか、好き。映画をみた今ではもう松さんの顔になってしまうけど、みないで読んだらどんな顔に思えていただろう。文章や構成の無駄がそぎ落とされて想像の余地が意外とあるので、いろいろ妄想が膨らむ。救いようがないとか色々な感想はあると思うが、この小説に関してはむしろ人間の人間らしい面をみれてよかった。それは悪い意味ではなく。
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例えば車を運転している時は鈍い歩行者に苛つき、歩行者となってみると運転手の傲慢さに怒りを覚える。
どちらが正しいのかだけでは物事は前に進まない。人間は立場によって正義があるという身勝手さがありありと書かれていた。
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同じ事件についての告白なのに、視点が変わると微妙に見えること、
感じることが違ってくるんだなぁ・・・と。
それって当たり前なことだけど、改めて突き付けられた感じがした。
ぐいぐい読めたのは、怖いもの見たさだったのかな。
とくに先生。静かに怖い。
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「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」我が子を校内で亡くした中学校の女性教師によるホームルームでの告白から、この物語は始まる。語り手が「級友」「犯人」「犯人の家族」と次々と変わり、次第に事件の全体像が浮き彫りにされていく。衝撃的なラストを巡り物議を醸した、デビュー作にして、第6回本屋大賞受賞のベストセラーが遂に文庫化!“特別収録”中島哲也監督インタビュー『「告白」映画化によせて』。
読んでいて怖くなった。
一つの事実でも見る者が変われば違う事実が浮上する。一人の人間が全てを正しく把握しているとは限らない。
人間の心の闇が怖いくらいに反映されていた。
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シングルマザーの担任教師、その愛娘の死は事故ではなく生徒に殺されたものだった。そして、担任教師はその生徒たちに対して制裁を与えたという衝撃の告白から始まる物語です。
すべて一人称なので、どこまでもが本当なのかもわからない。そして、決して後味は悪かったのですが……容赦ないラストは怖かったです。
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女性教師の告白から始まり、6つの章、5人の視点から構成させているが、それぞれがテンポの良く一気に読めてしまった。
各章ではシンプルな語りであるにも関わらず、それぞれの人格・性格などが浮き彫りにされていて見事な表現力。更に「救い」のない重みのある結末なのに、軽やかさを感じさせる文章力とくれば本屋大賞受賞も頷ける。
ストーリー的には母を慕う愛情故にダークサイドに堕ちてしまう生徒A、その犠牲となり娘を殺された憎しみからダークサイドへ堕ちた教師、そしてそれらの振り回されて悲劇に陥った人々たちの物語といったところだろうか。
まぁ、あくまで小説なのでダークサイド面での行きすぎ、やりすぎは仕方のないだろうし、それ以外でも若干異常性のあるキャラクターを許容範囲とすれば、それぞれの主張も理解できる(共感はしないが…)ものであり、現実味を帯びた事件として親子の向き合い方や少年法のあり方について考えさせられる。
…本作ではあくまで母と子供との立場で3組の親子が登場するが、同様の事件に巻き込まれた場合に父としての自分はどう振る舞うのだろうか。。。。
蛇足的なツッコミではあるが、「世直しやんちゃ先生」が癌と偽ったのは何故だろう?
これほどの方であればHIVについて正しい理解を求める啓蒙活動をしててもおかしくないと思うのだが。。。
しかも、森口先生の所業は知ってた訳だし…