紙の本
一青年の成長を自然界と人間との関わり合いの中に据えた力作。
2020/09/27 13:35
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ナミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
一青年の成長を自然界と人間との関わり合いの中に据えた力作。特に後半の自然のなかで生き抜くための戦いと、青年の成長過程の描写は手に汗握る迫力。文系出身の著者が自然の成り立ちや野生動物の生態などもしっかりと勉強した姿勢には、羊飼いを止めて専業作家に転向した気概が放射されていて好感が持てる。動物と人間の両方の視点からの作風で登壇した作者。更に自然、動物に切り込んだ作品に期待したですね。
紙の本
これこそファンタジー小説ではないだろうか
2024/02/23 07:31
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第21回大藪春彦賞受賞作。(2019年)
ちなみに大藪春彦賞は、『野獣死すべし』や『蘇える金狼』などで知られる
ハードボイルド作家大藪春彦さん(1996年死去)の功績を讃え、
優れたハードボイルド小説や冒険小説に与えられる賞で、1999年に始まっている。
2024年に第170回直木賞を『ともぐい』で受賞した河崎秋子さんにとっては、
書き下ろし作での受賞である。
この『肉弾』を読み終わって思ったのは、
これは「ファンタジー小説」なのではないかということだった。
ファンタジーの定義は色々あるが、妖精や魔法使いが活躍するだけでなく、
超自然的であったり、幻想的であったりということであれば、
北海道の森林の奥深くで、その生い立ちがイレギュラー過ぎる熊と
人間世界から捨てられ運命を狂わされた犬たちと、
「死んでもいいがただ死ぬのは嫌な人間」である青年が繰り広げる
土と血と獣の臭いに満ちたこの小説こそ、
ありうることのない超自然のものではないだろうか。
最初は剛毅な父とひ弱な息子の父子物語のように展開するが、
北海道の奥地に二人が踏み込んで、
荒らぶれの熊に父親が殺されていくところから物語は急速に狂暴になるが、
合間あいまに仕掛けられた犬や熊、あるいは人間そのものの生きてきた歳月の姿が
その狂暴性を文学として高めているように感じた。
最後、人間に救出されるのは青年だけだ。
青年とともに熊と闘った犬たちは森の奥に消え、
人間たちはそのことに気がつくことはない。
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『颶風の王』も『肉弾』も、生き物の体温と場所の寒さが印象に残った。
食べる食べられる、人間とそれ以外の動物、父と息子、庇護するものとされるもの。
いろいろなものの対比があるなかで、自分はどちらかに属さないといけない場合、その決断の難しさを感じた。
そして、否応なしに所属させられる場合の覚悟。
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人生に自暴自棄な青年が、横暴な父に連れられ北海道のカルデラの森に。鹿狩りのはずが熊を撃つよう父に命ぜられる。そこへ異様な熊が、野犬が……。
熊、おっかなかった!
犬は健気だな。
迫力ある内容で、ため息をもらしながら読んだ。
命に、手を合わせたくなる。
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キミヤと熊の戦い、まさに肉弾戦!ボクは現実的な話が好きだが、人間が熊と戦う非現実的な話でも没頭して読んでしまった。人間だって、捨てられた犬たちだって、熊だって、動物たちはみんな必死に生きている。必死に命を繋いでいる。キミヤは、遭難中、体力的に過去にやっていた陸上が活きているといっていた。父親が目の前で熊に殺され、絶望…。この描写はグロテスクだった。キミヤは自分で命を絶とうとすることもあったが、左脚を熊に傷つけられそうになった時、体は反射的に回避。心は死のうと思っても、体は生きようとしている。生きようと思えた発端が陸上をやっていたことだと思うと、辛い過去があっても、やっていた意味は多いにあった。
生きることについて、人間と動物たちそれぞれの目線で描き、読んでいてとても惹きつけられた。
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多少無理のあるストーリーだけど生きるか死ぬかをかけた戦いには惹きつけるものがあった。
後半にいくにつれて良くなってきた。
前半はちょっとなんの物語か見失いそうになったときもあった。
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舞台は北海道。
茨城からきた父と引きこもりの息子キミヤが狩猟に出かける。
引きこもりがちの息子は銃器の資格を取ったものの初めての猟。
豪放磊落な父は強引に禁猟地に入り込み熊を狙うも、
運悪く鉢合わせたヒグマに襲われる。
ヒグマと揉み合ううち野犬の群れも絡んできて
なんとか逃走することに成功
キミヤは父への屈託があったものの、
自殺を思いとどまり、父の仇のヒグマを倒すことを決意。
襲ってきた野犬のリーダーの喉に噛みつき屈服させ、群れの仲間と認められ
野犬と共にヒグマに対峙する。
父の遺体の土饅頭から遺体を掘り出して熊の怒りを買うが、
野犬と知恵と武器、自分の身体でヒグマに立ち向かう。
傷を負わせて負ってきたヒグマを木の上からナイフを持って喉元に飛び降りると、足場にした枝が熊に刺さり、内臓を破壊、暴れた末に絶命する。
キミヤは熊を解体し、肝臓を喰らい、野犬に分配する。
事情あって捨てられた犬たちと共に生きていくことを考えるキミヤだったが、
父親が依頼した救助要請によりヘリで助け出される。
犬たちは遠吠えしてその様子を見送り、山はまた元の静寂に包まれた。
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銀河流れ星銀のファンとしては胸熱な話。
ヒグマが倒せるわけないと思いつつ、死ぬ気になれば知恵や生きるための勘も取り戻せるかもしれないと読み進めた。
歯が折れてしまうくだりが生々しい。
エキノコックスが怖いので、生水とか飲んで大丈夫かなと思った。
その後のキミヤはどうなったろう。強く生きていったと思うが。。
安易にペットを飼い、捨てる人、連れてくる人への蔑視を感じた。
私も覚悟なしに動物を飼うことはできない。
命を考える話だった。
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野犬と熊との闘い。摩周湖のカルデラ。
河﨑秋子らしく狩猟の事など詳しく生々しい。歴史ものでない点が河﨑秋子らしくない。
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02月-12。3.5点。
大学を中退し、引きこもりの主人公。建設会社を経営する暴君のような父親に、北海道での狩猟へ連れ出され。。。
一気読みした。高校時代の確執もあり、父親が苦手な主人公、成長物語でもある。著者の動物に対する描写が秀逸で、非常にリアル。