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投稿者:ヤマキヨ - この投稿者のレビュー一覧を見る
目の見えないプロ野球選手をアシストする野球盲導犬。意表を突いた設定にまず驚かされます。女性の水原勇気がNPBでプレーできるのかという「野球狂の詩」以上にユニークな設定です。
それ以上に驚くのが、江川投手が「空白の一日」を利用し、横車を押して巨人入りした頃を舞台として、徹底的に巨人中心のプロ野球を草氏ていることです。これは野球盲導犬の物語なのか、プロ野球のフィクサー批判のための物語なのかとも思ってしまいます。
ただ、その時代につながる分権や、幅広い野球の資料などを徹底的に読み込んで、随所に挟み込まれているエピソードと、円実にはありえないレベルの成績を上がている盲目のバッターとの不思議な取り合わせが、すべてをある種おとぎ話の寓話のようにさせてもいます。
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伝説の天才打者、横浜大洋ホエールズの田中一郎選手。昭和54年度は本塁打56本、打率4割7分4厘という驚異的な記録を打ち立てた彼は、実は盲人だったのです。
その彼を先導したのが、盲導犬でした。
この物語は盲導犬チビの目線で描かれています。田中一郎もスゴいけど、このチビがまたスゴい!野球のルールを知りつくしているばかりか、プロ野球の歴史にも精通、世の中の情勢にも詳しく、まるで井上ひさしが取り憑いたような(笑)、博覧強記の知識犬なのです。99%は完璧な盲導犬ですが、1%は色っぽいメス犬によろめいたり、残飯のラーメンに食らいついて捕まったり、妙に人間っぽくて憎めないチビなのです。
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『最後のクジラ 横浜大洋ホエールズ 田代富雄の野球人生』からの流れの読書。
盲目の天才スラッガーがプロ野球界に現れた…!というユニークな題材で、しかもそれを盲導犬の視点から描くという構造。とても面白かった。
当時の(これは今も続いているのかな)ジャイアンツを中心とした野球界を批判する内容が作品の軸のひとつになっていて、それもかなりハッキリ書かれており、意外だったが、それゆえにかえって著者の野球愛を感じた。
天才田中一郎がバットを握って、野球界と無理解な政治と戦う姿と、筆を握ってすこしでも世界を変えようとする井上ひさしの姿が重なって映る。
この作品が書かれた1978年からすれば、セ・パの様相はすっかり変わった。巨人一党政権という権力図も昔のことのように思われる。裏側はわからないが。ジャイアンツ対ほか5球団という頃が懐かしい。2023年3月現在、WBCでの日本代表の優勝で盛り上がったばかりだ。
戦後、大下弘のホームランの偉大さを綴った一節が、模写するほど好きで、心に残った。
ホームランがスタンドインするまでの放物線を眺める気分は、時代とともに意味合いは変われど、いまも昔も変わらない。