紙の本
本書は、まさに時事エッセイで、ブレグジットで延々議論していた2018年からコロナ禍となった2020年、なるほど英国はこのような状況になっているんだ、と、勉強になる。
2021/04/29 17:01
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投稿者:オオハシ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ブレイディみかこさんの時事エッセイです。2018年から2020年の3年間の英国での様子が描かれている。
ブレイディみかこさんは「ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー」で大変感銘を受け、その後、いくつかの本をオトナ買いしていろいろ読んできている。 地べた地べたと良くおっしゃられているが、緊縮財政に対して明確に批判的なポリシーを持ち、いろいろ活動をなされている。 過激で独特な書きっぷりも僕はとても好意的に受け取っている。
本書は、まさに時事エッセイで、ブレグジットで延々議論していた2018年からコロナ禍となった2020年、なるほど英国はこのような状況になっているんだ、と、勉強になる。
「時事ネタを書くことは、どんどん日付が古くなるスナップ写真を残すことに似ていると思う。」と、あとがきに書かれていたが、まさにここ3年間の英国での状況をスナップ写真で届けてくださった本なのだな、とあとがきにたどりついたときになるほど!と思った、というところでした。
まぎれもない、この3年間の英国での事実、が、残されているんだな、と。
直接本書のレビュとは関係がないかもしれないが、「どこかに派」「どこでも派」の話、観点に関しては、自分が名古屋という地に帰ってきて、昨今『エリア特性』をよく意識するようになってきて、さらにコロナ禍になってずっと自宅にこもっていると、エリア特性を意識しながらも「どこでも派」なオンラインの世界な観点もあって、なんだかぐるぐるするなぁとも思いながらも、なんとなく心に引っかかったからメモとして残しておく。(2027年にリニアが開通して名古屋はもっとさらに「どこでも派」の中での『エリア特性』を出していくんだな、と思ったり)
さらにP197 の引用においては、コロナ禍でずっと在宅勤務しながら見えている世界と、また、明らかに違う世界、ということなんだなと改めて感じた。(日本は、また改めて異なるような気もするが)
本日の感想はそんなところで、以下、引用抜粋
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P36 ウィル・シャープの日本人キャラの描き方は、「愛憎」と言うほどドロドロしていないが、「愛蔑」とでも呼びたくなるような、対象を愛したい気持ちと蔑みたい気持ちが唐突にボコボコと突出し(たぶん彼の中でも)消化不良なので、見る者は予定調和的に笑うことができない。もしもこれを新種のレイシズム・コメディというのなら、異なる人種の両親から生まれた、複数の民族性を持つ人々が活躍する年代に入っている英国では、このタイプはこれから増えていくのかもしれない。
このことは、「確立されているように見える定義をやみくもに信じて判断を下すのではなく、自分でじっくり考えてから判断しろ。なぜならあらゆる定義はこれからまだ変化していく未確定の領域だから」と言われているようでもある。そしていまこうしたコメディが英国で生まれているのは、やはりブレグジットという予定調和的でなかった事象と無関係ではないだろう。
「あとがき」より:裏帯にも抜粋あり
現実も、社会も、歴史も、自分自身も、他者も、人生も、世の中というものはコンピューター上で何かをキャンセルするわけにはいかないもので出来ているのだ。
(中略)だから、ぶつぶつぼやきながらでも続けていくしかない。Keep thinking. Keep writing. Keep talking to each other. この時事エッセイを書いていた数年の間、わたしはそんなことを考えていたように思う。
(中略)暗い時代ほど、書き残しておくべきことはたくさん転がっているのだ。
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紙の本
生のイギリス事情
2021/03/27 21:05
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投稿者:ひでくん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ブレグジット騒動で、大分イギリスの現状に詳しくなったつもりでも、
ここで語られる生のイギリス事情は相当に衝撃的です。イギリスは
サッチャー以来、営々とイギリス病の治療に努め、EUでも優等生だと
思ってきましたが、それも幻想で、いかに疲弊しているかをリアルに
感じられる衝撃の本です。一読をお勧めします。
紙の本
英国の住民としての視点で書かれた本
2020/12/20 16:25
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投稿者:あけみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
2019年に出版された「ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー」でブレイディみかこさんを知った。新刊が出ていたので、気になって購入してみた。英国に住んでいる日本人が見た日本、英国に住んでいる日本人が見た英国のエッセイが難しいと感じるところもあれば面白いと感じるところもあった。
英国も日本と同じ島国で皇室もあり、日本と似ているところもあれば違うところもあるんだと感じた。政治的な知識はほぼなかったが、日本人より英国人のほうが真面目に考えているんだなと感じた。SMSのエモジが日本発祥なのかとかフードバンクの絵本の話も考えさせられた。
時間を置いてまた読めば、新しい発見がありそうな本でした。
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今回も舌鋒鋭いコラムだった。エリザベス女王は安定感のある漬物石のようなキャラ(p88)と言っちゃってるけど、彼女が亡くなったらイギリスはもっと破滅的な国になっちゃいそうな気がする。
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これまでイギリスの社会や政治、文化に馴染みがなかったけれど、未知の話題がどれも面白かった。
この著者の本を読むのは初めてだけれど、ざっくばらんな語り口でユニークな例えが盛り込まれていたから、私でも分かりやすく楽しめたのかも。
UKコメディとコロナ禍の社会における職種の価値観の逆転の話題が特に興味深かった。
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「群像」の連載をまとめたエッセイ集。
ブレグジットから教育から王室から政治からコロナから、労働者階級の地べたからみた英国(イギリスではない。本書参照)が切れ味鋭く、哀愁と哲学をもってつづられる。
文体からしてなで斬りなのだが、独断や上から目線の嫌味を感じないのは、土台としての実体験や社会への愛情や、何より教養があるからだろうか。
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相変わらずクール、でもどこか暖かい語り口で安心のエッセイ。最近の英国英語のカオスっぷりも非常に興味深いな。
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日本と同じく同じ緊縮財政下にある英国の、
ブレグジット前後あたりから最近までの現状を
市井サイドから伝えてくれる一冊。
その状況は所々近かったり、所々遠かったり。
ウィットに富みつつ飄々としている文体が
思考と想像を喚起させてくれます。
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『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』著者の英国に関する時事エッセイ集。日本でニュースを見てる分にはEU離脱とコロナ禍を中心とする情報が断片的に入ってくる程度だが、貧富の格差や政治的イデオロギーの左右、離脱派vs.残留派など今の日本社会にも通じる分断と不信の実情が克明に記されている。もちろん「英国もそういう感じなら日本も大丈夫だ」とは全くならない絶望感(同時に本書もまた著者のフィルターからは逃れられないわけで全部鵜呑みは危険なわけだが)それにしてもキツい時代だ…
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書かれていることは、昨年から今年にかけてものされた作品と同系統。ただ本作は、私的な部分がほとんど抑えられ、公的な視点から描かれている点が特徴。それもあり、馴染みやすさの点では前作に分がある。あと、かの国の時事問題をある程度は知っている前提で話が進むから、その分、やや難解に感じたかも。語り口調はならではで、本作も楽しませてもらいましたが。
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20201217イギリスで何が起きているのか、日本人の視点での解説なので分かりやすい。継続してぶれないところも信用できる。基準になる人なのでこれからも読んでいきたいと思う。
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ブレグジッドからコロナへ.熱く語る歯に絹着せない語り口でロンドンの政情が広がっていく.でも世の中確かに巡るましい変化で,経済も生活もコロナ一色.
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『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で、筆者の視点、考察に感銘を受け、前作と今作を読んだ。しかし特に今作は結構ヘビーな内容で、時事ネタに明るくない私には楽しめなかった。
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私には、難しかった!国や情勢にだいぶ疎いので、最初の方は特に苦しくありましたが、読み進める内にカタカナに慣れ、なんとか、がんばりました。「人間は、誰かのことを考え、知るようになると、同情するようになる。富と権力を持つ人々が下々の者のことを考えないのは、そうする必要がないからだ。つまり、人の顔色を窺って生きていく必要がない階級は、より無神経になる」これ、なるほどと思ったのですが、けっこう前から目につくようになったお偉方の行動理由は無神経ゆえなのかもしれません。こういった本を素直に楽しめる教養がほしいです。
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「ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー」がとてもよかったので、これも読んでみたら、いやいや期待以上に面白かった!英国社会の「今」が、肌感覚で伝わってくる。と同時に、ここ日本でも当てはまるなあということがいろいろあって、考えさせられた。いくつかをあげてみる。
・ネット上では「左翼」や「リベラル」がどんどん侮蔑や嘲笑の対象になっていて、しかもそういう意見を表明する人というのは、従来の枠組みで言えば反体制側に与するのが自然なように思える立場にあることが多いように思う。これには様々な要因があるだろうが、なるほどこういうこともその一つだろうと思えるところが次々出てくる。
<つまり、主流派の考え方に疑問を投げかけ、体制に反逆するアウトサイダーだったはずのレフトが、いまや主流派そのものというか、ふつうに学校で教えていることを主張するのにいまだパンク気取りで奇抜な方法を用いているから「クール」どころか「むかつく」と言われてしまうのである。>
<女性差別的な絵を美術館の壁から撤去するというゲリラ的な行為>も<エリート校の壁からヌード絵画を外す厳格な校長先生みたいに見えて人々の怒りを買うのだ>と。
また、あるコメディアンの発言が引用されている。
<左派には、高みからモラルを振りかざして尊大になりがちな人がいると思う。多くの左翼の人々は、自分は左派だからという理由だけで自動的に偏見がなくて、寛容な人間なんだと思い込む。それは本当に幼稚で嘘くさい政治的価値観の解釈だ。左派の人の中にも、レイシストやホモフォビックな人はたくさんいるよ> 本当にそうだ。胸に手を当ててよーく考えよう。
<ひと昔前までは、「抵抗」や「叛逆」が左翼やリベラルのテーマだったが、現代ではそれが「道徳」にスライドしていると言われて久しい。多様性や包摂などのリベラルな概念がメインストリームになるにつれ、「こんなことを言うのは危うい」「こんなことをするのはダメ」と他者の過ちを指摘し、正しさを説くことがその存在意義に変わってきたからだ。> 私は、倫理的であることがリベラルの本質的な美質だと思っているが、「常に自分たちは正しい」とか言いがちであることも確かで、そりゃ反感を買うよね。
そう!そうだよと膝を叩いたのが「緊縮の時代のフェミニズム」の章。
<ある種の懲罰性を持つフェミニズムは、緊縮の時代の女性たちをさらに生きにくくしているのではないか。元セックスワーカーだったという職員の言葉が印象に残っている。「いま必要なのは、イデオロギーじゃなくて、シスターフッドだよね」>
私は自分をフェミニストだと思っているが、筋金入りのお姉様方の前ではなんとなく「スミマセン。中途半端で」とうなだれるような気持ちになる。「そんな生き方ではダメよ」と言われそうだもの。「懲罰性」という言葉に納得。
・EU離脱をめぐる混沌とした状況が繰り返し述べられている。「物事をよくわかっていない単純な愛国者が、愚かにも離脱に投票した」という文脈の論を結構見かけたが、筆者は(当然ながら)そうした見方には立たない。
<EU離脱は文化闘争などではない。重要なのは労働者階級の価値観ではなく、生活水準なのだ。こういう考え方はあまりロマンティックではないかもしれない。が、食えないところにまず必要なのはロマンではない。>
・英国では、フードバンクにそのまま寄付できるようにパッケージされた商品が、スーパーの棚に普通に並べられているそうだ。一見すごくいいことのようだけど、よく考えればやっぱりおかしい。貧困を扱った映画を作ったケン・ローチ監督が、その映画をきっかけに貧困者支援団体を助成する基金が立ち上げられたときに出した声明に曰く。
<ひとつだけ付け加えたいのは、ともかくチャリティーは一時的であるべきだということ。ともすると、チャリティーというものは不公正を隠してしまいがちだが、むしろ不公正の是正こそが最終目的であることを忘れてはならない> その通りだ。
・身近な話として面白かったのが「エモジ」の話題。日本の絵文字が英国でもエモジとして定着しているとは知らなかった。イギリス人ってそういうことはしなさそうなイメージがある。著者の友人が「エモジ入りのテキストを受け取ると、エモジなしで返事できなくなる」と言っているが、私もまったく同じだ。反対に絵文字を使わない人には「幼稚だなあ」と思われそうで使えない。「エモジという忖度カルチャー」という言葉には大いに心当たりがあるなあ。