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新型コロナのおかげですっかり感染症まわりの一般書が増えたが、本書は歴史家が語る一冊。天然痘、梅毒、インフルエンザ、結核……と日本を襲ってきた疫病がどんな影響を与え、歴史を動かしてきたかを記している。
平清盛のマラリア説はこれまでによく目にしたのだが、歴史的な人物と感染症という切り口はなかなか興味深い。中でも黒田官兵衛の梅毒説はインパクトがあった(詳しくは本書で)。
今回、日本で新型コロナウイルスが感染爆発しなかった要因「ファクターX」の一つとして、「マスク着用や毎日の入浴などの高い衛生意識」が候補にあがっていたが、本書によれば昔はそうでもなかったようだ。
中世だと「京都の貴族たちの生活がどれほど衛生的だったかというと、今日からしてみれば、かなり汚かったのではないかと予想される」「洗髪は一カ月に一回程度という資料もあれば、年に1回だったというものもあり、とにかく今日のように毎日洗うということはなかったのである」というから、夏場なんかそこそこ臭ったんじゃ……。
日本に限った話ではないが、「伝統」とか「文化」とか言われているものって、せいぜい100~300年くらいの習慣だったりするものだ。
もっとも、ついこの前まで、ポイ捨てだけでなくて、あちこちに打ち捨てられた粗大ごみもあった。現代でも公衆トイレで手を洗わないおっさんも3~4割はいたから(コロナ禍でずいぶん減った)、ファクターXの候補”高い衛生意識”には、個人的にちょっと疑問あり
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令和2年の今年は、昨年の新元号制定のお祝いムードがコロナ勃発の影響で吹っ飛んでしまい、私たちの考え方まで変えさせられてしまう一年でした。
この本を本屋さんで見つけて読んだのは、コロナ第二波が到着する前の九月末の頃ですが、今回のコロナのような疾病は日本でも何度か流行し、それが歴史を変えてきたという事実を知りました。
疾病が流行ることは止められないにしても、歴史の節目において疾病が流行り、それが終息した後には別世界が開けているという流れがあることを知ることは良いことだと思います。病気にかからないよう、健康に気をつける、罹患しても克服できるだけの免疫・抵抗力をつけておくことの大切さを痛感しました。
以下は気になったポイントです。
・天平7ー9年(737)の疫病が大流行した頃の日本の総人口は600-700万人暗いと予想される、その25-30%の150-200万人位が天然痘で亡くなっている(p14)
・村と村を仲介する交易地点が誕生する、交易地点は生産しないが多くの人口を抱えたので、町・都市などと呼ばれていく(p20)
・ペストの流行は中世ヨーロッパを根本からひっくり返すような大転換のきっかけとなった、当時はキリスト教カトリックの世界で神に逆らうことは許されなかったが、ペストによって人々の意識が変わった。いくら神に祈っても人が死んでいくから(p25)キリスト教以前のギリシア・ローマ時代の文化を再評価するルネッサンスとなった(p168)
・免罪符を購入すれば全ての罪が許されるとは、キリスト教の原典である聖書には書かれていない。こうした不正が行われたのは、ラテン語で書かれていた聖書を読める信者が少なかった。聖書の教えは聖職者たちの既得権益と化していた(p26)
・東京湾に船が入ってしまうと江戸城を艦砲射撃できるので、横浜を開港地とした。同様に大阪湾と京都は近いので、離れた神戸となった。両者とも深い湾であり港としてのじょうけんは申し分なかった。平清盛が福原(兵庫)を交易都市にしたが港の機能は全て大坂の堺に移っていた(p42)
・平安時代になって天皇家の菩提寺とされる泉涌寺が東山に建立されたあたりから火葬が当たり前になった、明治になり神道が復活すると神仏分離と廃仏毀釈により、土葬が復活して、昭和天皇まで土葬が続いている(p54)
・日本書紀は漢文で書かれているが、現在の感覚で言えば日本史を英語で書くようなイメージ、国際的・対外的に日本の歴史を書き記したものあ。古事記は漢文で書かれていながら、全て当て字で、ひらがなやカタカナの原型である万葉仮名を用いていて、古代の日本語でしっかりと書かれている(p58)
・神道は死の穢れを一番に嫌う、その役割を担ったのが武士で、天皇や貴族は自らの手を血に染めることはなかった、これが日本史の重要なポイントになる(p64)天皇と朝廷にとっても、汚れ役がいなければならなかったので、鎌倉幕府の成立以来、朝廷が放棄した軍事・治安権を幕府が担う形になった、室町、戦国、江戸の時代続き、700年間預かってきた日本の統治権を天皇に返したのが大政奉還である(p67)
・貴族の女性にとって、美とは何かというと顔形の作りではなく、髪の毛出会った。普通、顔は檜扇で隠されているから見ることができない、髪の毛がいかに艶やかで、黒々として、長いかが美人の条件であった(p76)
・神道でいう神とは、「必ずしも人間でなくてもよく、普通ではみられない極めて優れた特質を持っているもの」というもの、優劣ではなく卓越した、尋常な特質を持ったものが神である。なのでいい神もいれば悪い神もいる、人間だったものが神になることもあれば、1000年の樹齢のある杉の木、長年の人々の暮らしに寄与してきた川の流れが神になることもある(p87)
・古来、日本の三大疾病というと、結核・脚気・糖尿病がある(p92)
・朝廷と幕府、貴族と武士が文化と軍事を分担していたように、神道は現世、仏教は来世を担うような棲み分けになっていた(p107)
・明治時代になって神道の神前結婚があるが、江戸時代は基本的には人前結婚式である、仏教では婚礼をあげるのは浄土真宗のみ(p108)
・戦国時代において遊女と関係を持つことはさほど恥ずかしい行為ではなかった、梅毒が入ってくるまで遊女自体を蔑視する風潮がほとんどなかった、現代のモデルやファッションスターのような存在であった(p112)
・欽明天皇は、蘇我稲目と物部尾興に仏教について意見を聞いた、賛成派の蘇我稲目に仏像を託し、寺を建てた。これは日本で最初の寺である。その直後に天然痘で人が死に始めた、物部尾輿は欽明天皇に了解を得て、稲目の建てた寺を焼き払って仏像を川に捨ててしまった。これを見つけて持ち帰った者が建てたお寺を、名前(本田善光)をとって、善光寺という名前がついた(p130)
・天平9(737)ねん、流行していた天然痘に、藤原4兄弟が立て続けに罹患して死んだ、天然痘は全国に波及して総人口の3割(100万人)が死んだ(p136)これは長屋王の祟りと思い、東大寺の大仏建立となった(p137)
・薩長同盟は軍事同盟ではなく、「長州は朝敵ではない、その無実を晴らすために薩摩は全面協力する」という内容で、友好条約に近い。しかし孝明天皇がいる限り「長州は朝敵」という汚名が覆ることはない。孝明天皇が崩御し、後をついた明治天皇の母・中山慶子が長州支持派であり、長州の立場は180度好転する(p139)
・人口が増加しない要因は、飢餓・戦争・疫病である。(p163)
・欧州はコロンブスらによって梅毒をもらうが、アメリカ大陸でペストを蔓延させている、免疫のないアメリカ大陸の先住民たちは、欧州が梅毒に罹患したように次々とペストや天然痘に感染し、現地の半分くらいは入れ替わった(p169)
・カトリック教会へのふしんは、聖書を各国の言語に翻訳することで聖書の教えを確認しようとする動きへとなった。イギリスではジョン・ウィクリフが英訳、チェコのヤン・フスはチェコ語、ルターはドイツ語に翻訳した。これは現教会を否定することになるので、当然異端審問にかけられた。ウィクリフやフスの聖書は写本でしか出回らず、普及したのは活版印刷によるルターのもの(p175)
・欧州人はペストには免疫がありペストにかからない、すると先住民からは欧州の白人たちは神であると信じられるようになった。(p177)
・治療薬が出回るまでに相当な時間がかかるとみられているので、注目されるのは血清療法である。血液を試験官にいれ、遠心分離機にかけると血液の濃い部分と上澄部分に別れる、この上澄部分を血清という(p206)これを発見したのは、北里柴三郎という、2024年からの新千円札の肖像に採用されることが決まっている(p206)
2020年12月28日作成
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自粛期間中に見つけたツイートで
「日本人の清潔好き、土足で家に上がらない、ハグやキスなどの身体接触が少ないといった生活習慣が今回のコロナ感染抑止につながっているのではという説があるけれど、そういった生活習慣はそもそも疫病の歴史から日本人が学びとった結果なのでは」というのがあって
日本における疫病の歴史についての本がないかなと思っていました。
そのときは該当するような本をみつけられなかったんだけど(『疫病の世界史』という本はあった。)、同じことを考える人はたくさんいるらしく、「疫病の日本史」的なタイトルの本がポンポン発売されてます。そのなかの一冊。
「穢れ」を徹底的に忌避する神道の宗教観が結果的に疫病の蔓延を防いだのではとか、内向きの国策によって幸運にも日本ではペストが流行しなかったのではとか、火葬を提唱したのが持統天皇だったとか、いろいろとおもしろい指摘はあるんですが、急ごしらえで作った感満載で論証の説得力は弱いです。
日本人の綺麗好きは宗教観というより、本書でも指摘されているように「禊が可能な清流が手近にあった」という環境的要因が大きい気もしますね。といっても日本人が毎日風呂に入るようになったのはごく最近のことだろうし。
天然痘による藤原四兄弟の死、ペストの流行が宗教改革とルネサンスにつながった、梅毒によって遊女が蔑視されるようになったなど、日本史、世界史における疫病の役割みたいのはもっとちゃんと知りたいところ。
以下、引用。
コロンブスの功績でジャガイモ、サツマイモなどの食料が世界にもたらされ、多くの飢餓を救うわけだが、一方で梅毒のような疫病も世界に伝播し、ついには日本にも伝来する。しかも、サツマイモなどの食料が伝来するよりもはるかに早く、わずか二〇年ほどで地球を一周して新大陸の梅毒が日本にもたらされているのだ。
日本史全体を見ていくと、インターナショナルな時代というのは、飛鳥時代や奈良時代で、その後の平安時代や鎌倉時代は内向きの時代ですね。その内向きだった時代に、世界ではペストが蔓延した。感染症のために国を閉じたというわけではない以上、それは非常に幸運なことだったと思いますね。
インスリンの分泌が、欧米人より日本人のほうが明らかに少ない。ということはつまり、同じ体重で同じ量を食べても、欧米人のほうが日本人よりも糖尿病になりにくいのだ。
神社の神主は、四六時中、境内の掃除をやっている。そもそも神道には決まった経典がなく、これといった教義がない。仏教なら仏典があり、キリスト教なら聖書、イスラム教ならコーランと、決まった教えとその教えに対する解釈が膨大になる。
ところが、神道にはそれがない代わりに、基本的には身も心も清潔に保つことが重視される。だからこそ、毎日、境内を掃き清めているわけだ。
東京湾は今でも大きな艦船がたくさん入ることができる非常にいい港湾なのですが、あそこまで船が入ってしまうと、江戸城を艦砲射撃できるため、防衛上よくない。疫病を防止する意味でも直接、江戸には来てほしくないので、その「横の浜」、つまり横浜を開港地としたわけです。
これは大阪湾も同様です。大阪湾から京都は目と鼻の先ですから、開港地は都心から離れた神戸になった。
藤原氏ですと、宇治の木幡に捨ておくことになっていた。京都ではそのほか、鳥辺野や蓮台野、化野などが葬送地、いわゆる死体捨て場ですね。
長らく欧米の植民地だったフィリピンでは、カトリックが多いのですが、戦時中に日本軍が殺害したフィリピン人のゲリラ兵の遺体を丁寧に火葬したら、終戦後、「よくも焼き捨てたな!」と現地の人々から怒りを買い、戦犯として追及されたなんて話が残っていますね。
神道の教義は、穢れと禊であり、そして言霊信仰がある
日本ほど清流があって、『古事記』でイザナギがそうしたように、禊をしようと思えば簡単にできる国は、おそらく世界中でも少ないのではないでしょうか。
日清戦争の際の記録によれば、この戦争での戦死者は一四〇〇人ほどだが、病死者については軍属も合わせると約一万一八〇〇人。病死のうち、最大の死因はコレラだったが、脚気による死者はそれに次ぐ数の多さだった。
神様を信じていればみんな幸福になれるはずだという一般通念が強くあるところに、ペストが流行する。ペストは善人だろうが悪人だろうが、あるいは貴族だろうが平民だろうが、全く差別なく、罹患し人々は死んでいく。「あれ、これは違うじゃないか」と皆思い始めるわけです。キリスト教の教義ではペストの猛威はもはや説明がつかない。そのため、キリスト教以前の古代ギリシャの学問や芸術を見直そうという機運が高まっていきます。
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1.この本を一言で表すと?
歴史の視点から日本の感染症を振り返った本。
2.よかった点を3~5つ
・意図していないことだが、日本人が日々、自然と心がけている清潔さが、今回の新型コロナウィルスの阻止要因のひとつになっているのではないか。そして、そこには古来の宗教観が影響しているのではないか。これは、もっと注目されて良い点だと思う。(p90)
→日本の衛生環境は宗教観に影響されていると言う考えはもっと研究されて良いと思う。
・孝明天皇の死は細菌テロだった(p115)
→動機と状況証拠は揃っているように思うのであり得る話だと思った。
・鎖国が感染症の防波堤となった(p192)
→ペスト、コレラがそれほど流行らなかったと言うことから実際に鎖国はあったと考えるのが妥当だと思われる。
・天然痘のような過去の感染症もまた、情報の公開と共有と言う努力の上に撲滅されてきたのである。これは新型コロナウィルス対策としては、一番の大原則と言えるだろう。(p199)
→情報共有されていないと政治判断もできないのでその通りだと思う。
2.参考にならなかった所(つっこみ所)
・ファクターX
→初期の頃、ファクターXは「感染率」が低いことを指していたが、最近ではファクターXは「死亡率」が低いことを指しているので、ファクターX捉え方が間違えている気がする。
また「重症化率」「死亡率」の議論であったとしても、日本人の穢れの文化と清潔さは「感染率」に影響するのであって「重症化率」とは関係無い話。
・鎖国が感染症の防波堤となった(p192)
→新型コロナ対策で鎖国をすると言うのは非現実的。なので一体何を教訓とすべきなのかよくわからなかった。
・官僚と言うのはミスを嫌うんですよね。良い意味でも悪い意味でも完璧主義者なんです。(p190)
→官僚を批判するのは間違っていると思う。批判すべきは、感染拡大防止と経済の両立を考えてリーダーシップを取るべき政治家だと思う。
・対談の部分は同じ内容が何度も繰り返されているような気がした。
3.議論したいこと
・過去の疫病の歴史から今回の新型コロナ対策に生かせる教訓とは何か?
5.全体の感想・その他
・対談の部分は必要なかったような気がする。対談の後にそれぞれが執筆されている部分と内容重複していると思う。
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コロナが蔓延した中、歴史的な感染症と日本人の関係を説き明かす一冊。井沢氏のケガレ論と感染症との類似性が面白い。
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現在のコロナも踏まえた疫病から見る歴史。
客観視する事ができて面白い。改めて考えると現在の日本のコロナは何が怖いのか解らなくなる。怯えてる人には是非読んで欲しいが、きっと読んでも怯えるだろう。
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歴史学者の本郷和人と井沢元彦が、コロナ禍で過去の日本史の中での疫病について対談した一冊。
ヨーロッパは中国ほどではなくとも、今までも疫病はあったし、今後もあることを思わせられた。
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歴史を学んでもムダなんて言わせない。
感染症にだって歴史はある。
歴史から学んで、次に活かすことは重要。
もっと歴史学の重要さをみんなに気づいてほしい。
歴史が暗記科目になってるのは、入試のせいだけどね。