紙の本
名翻訳家の名エッセイ集
2011/09/23 21:11
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Yosh - この投稿者のレビュー一覧を見る
『嵐が丘』『灯台へ』の新訳等で知られる鴻巣友季子氏のエッセイ集。2007年刊『やみくも』(筑摩書房)に加筆・訂正し、多数のエッセイを追加収録した<リミックス>版。
一般読書人には余り知られていなかったであろう「Mainichi Weekly」連載エッセイ(毎日新聞さん、御免なさい!)も熟読玩味していた自称鴻巣ファンからすると、この半・新刊は美味しいエキスが充満した(自称他称)読書通が舌なめずりする一冊である。
まず、文章が上手い。これ見よがしの技巧過多のそれではなく、日夜横文字を縦文字にすることに腐心されていることで到達されたであろう、くどくなくサラっと読めてスッと頭に入ってくる達意の文体で書かれている。一例を挙げると、『真夜中のしめきり』中、娘さんが通っている保育園の「連絡ノート」を書く件:先日は、「お風呂で子どもが急に『ママ、お顔が汚れているからふいてあげるね』と言って、タオルでごしごしやってくれました。ただ、それは汚れではなく肌のシミだったのです…」という自虐ネタを書いたのに、先生から反応のコメントがなく、密かに傷ついた(『真夜中のしめきり』)。こういう文章は書けそうで書けない。今谷崎が生きていたら「新文章読本」に引用するんじゃないかと思える程。
次にネタが豊富。勿論翻訳に絡む話題は多いが、それだけにとどまらず、日常生活や食べ物・お酒等々、身辺雑記として池波正太郎や向田邦子に充分肩を並べる多彩さとそれに見合ったクオィリティの高さに唸る(左党の筆者は、幾つかのエッセイでもう喉が鳴ってたまらなかった)。
この面白さは実際読んでいただくしかないのだが、筆者が最も共鳴した作品を二つ挙げておく。一つは『なにもないことの恵み』--子どもを持つ親からすると、最後の4行に涙がこぼれそうになった。もう一つは『他者のことばを生きる』--翻訳家としての決意と矜持がさりげなく、されど明確に示されている。
ああ、自分ももっと言葉を磨かねば!
電子書籍
翻訳家
2023/08/20 01:38
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
四六時中、翻訳家は翻訳のことで頭を満たしてるんですね~それが、意外というか。いろいろと、楽しいエピソードもお書きになっていますけど、中には一般人には、えー、と叫ぶようなところも。
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「やみくも」を全面組み替え、加筆訂正、そして新しいものをプラス。
ということで、「やみくも」を買った人でも、損はなし。
翻訳や言葉についてのあれこれを真摯に突き詰めるかと思うと、日常で出合った出来事にプチあっと驚く結末?があったり、思わぬ切り口での考察で「そうなのか」と発見させられたり、かと思うとちょっとしんみりしてみたり。
どのエッセイも中身がギュッと詰まって、「いずれの地もそれぞれ」に楽しい。
青山南さんといい岸本佐知子さんといい鴻巣さんといい、翻訳家の人はエッセイの巧い人が多い、と思う。
言葉とじっくり向き合っているせいなのか、独りであれこれ考えることが習慣になっているせいか。
鴻巣さんの場合は、発想のユニークさというよりも、言葉へのこだわり豊富さが、面白さを生んでいるようである。
「翻訳というのは、ひとことで言うと、〈解釈〉のことだ。」(P208)とするならば、鴻巣さんは世界をこういうふうに解釈しているのね、ということでもある。
しかしやっぱり、久世光彦の項が出色の出来、と思う。
「面白うてやがてかなしき」が、小説やエッセイの一つの理想だと思っているのだけれど、この久世さんの項がそれ。久世作品を喩えて、リキュールボンボンとは、なんとも見事。やっぱりこの項が一番好きだな。
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クッツェー『恥辱』を翻訳された鴻巣さんのエッセイ本。見慣れた世界名作文学の『嵐が丘』、『傲慢と偏見』、『ぼくを探しに』(シルヴァスタイン)、『風と共に去りぬ』、そこにいきなり『ロングテール』(クリス・アンダーソン)などなど、かつて読んだ本、見覚えのあるタイトルがぞろぞろ出てきて、そばで話を聞いているようなワクワクとした親近感が沸く。海外文学だけでなく、近代日本文学、文学者たちの翻訳の歴史まで追究して迷宮の森に入り込むようだ。
どう翻訳しようか著者が思い悩む英単語の例には難しい単語はなく、特に英語が身近ではない人にも分かりやすく読めるだろう。翻訳の話題だけではなく、意外と料理の話も多く、しかもかなり本格的でそそられる。スキーからカヌーの冒険、酒飲みの憂鬱から、ちょっぴりせつない娘との対話、悩ましい女心まで解き明かす。
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”本の物質的な消失はさほどおぞましいこととは思わないが、しかし紙メディアの消滅は怖い。それは「消える」ということが消える世界を暗示しているからだ。どこまでも途切れない白昼のような意識をポール・ボウルズが恐怖したように、わたしは永却というものを恐れている。”(「アンチ・バベルの図書館」p.64)
言葉と文学と生活を愛する人なら必読の、豊かなエッセイ集。
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単なるエッセイではなく、
自らのちょっと不器用なやみくも体質では翻訳業しか選べなかったという思いを、誇りをもって綴った文章。
本人によるあとがきがとてもよい。
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言葉を生業にしている親近感もあり、翻訳家や通訳のひとの話はおもしろい。書評もよくかいているが、そのセンスもわりと好き。彼女はちょっと上の世代で子育てもする人なので、共感のポイントはさらに多くなる。あちこちの媒体に書いたエッセイを集めたものなので、長短も話題・文体もバラバラながら、それもまた最後まで飽きさせないリズムと思えてくる。「言葉が気になる」の章はもちろん、「道草を食う」と章立てされたちょっと不思議な、非日常にくらっとするような文章もおもしろいもの揃い。ホストファミリーとして出会ったアフガニスタンの若い女性の話、掉尾を飾る久世光彦さんとのエピソードなどはしんみり。
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翻訳家という生き方。
翻訳について、子どもについて、生活について、昔について。その職業を選んだ流れみたいなのが見えるエッセイが面白い。また翻訳の歴史が見える話も興味深い。「スカーレットと江戸ことば」あの明日は明日の風が吹くと訳したのは誰かについて。歴史を辿っていく謎解きが、個人の歴史と重なり合うところが素晴らしかった。
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これの元になっている「やみくも」は既読だったが、新しいものが入っているということで買って再読。タイトルは前のほうが好きなんだが・・・
それにしても短くまとめた文章を書くのが上手いひとだなあと思わせる。そしてバラエティに富んでいること!
良質な短編小説のように鮮やかに綴られる「イパネマの娘」
二歳の仏像好きの娘に振り回される姿がかわいらしい「ジンジャブッカク」
謎めいた出だしから、想像がナイジェリアの作家チュツオーラにまで展開される「老婆」
そういえばこれを読んでルル・ワンの「睡蓮の教室」を読もうと思ったことを改めて思い出し、「睡蓮の教室」を読んだ後にまたこちらの文章に戻ってくる、というのも何か面白いと思った。
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「翻訳」に興味があるので手に取りました。一編5〜6ページのエッセイがおよそ50本、テーマの共通性で5つのパートに分けて並べられている。どこからでも読める。どれを読んでもかなり面白い。
さりげない日常の話から書き始め、「なになに、それでどうなったの?」と身を乗り出した読者を、文学ワンダーランドで楽しませてくれる。ユーモアもあればオチもある。この人、なかなかのエッセイストであり書評家のようです。ついでにいえば、酒飲みでもあり、「元」がつくけどスキーヤーでありカヌーイストでもあります。
ひとつメモしておきます。「デジタルの力というのは、忘却という人間に残された最後の安らぎ、最後の赦しを奪おうとしているのか?」(p.62)という一節に傍線を引きました。なるほど、確かにそういう面はありますね。
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おもしろい話もあったけど、多くは何だか小難しくて、自分にはおもしろいと思えなかった。こちらの知識が不足し過ぎていたのかもしれない。
あえて一つ例を挙げてみると、「絆創膏」を辞書を引かないと読めない様な(自分みたいな)人は、何言ってるのかよくわかんない話も多いと思います。
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2007年12月に筑摩書房から出版され、好評を博していたた『やみくも -翻訳家、穴に落ちる』を親本に、新たに執筆されたエッセイなどを多数集めて、今回文庫化された。
文庫新版にあたって収録されたエッセイには、翻訳家として世に出るまでの生い立ちや最新の仕事事情までが歯切れのいい文章で綴られている。
前作を購入された鴻巣ファンの方にとっても、新鮮な内容がたくさん含まれているので損せぬ内容となっているのでは。
最初に収録されている4編は、たまたまこの本と前後して読んだ「本の寄り道」に収録されている4編だったので、始めはあれと思ったのだが、残りは未読のもの。著者がお得意とする読書にまつわる感想も交えながらのエッセイだ。
それにしても、なんとも不思議体験の多いことよと思わされる。世の中を鋭く観察しながら生きている物書きにはよくあることなのかもしれないが、、、
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翻訳や日常にまつわるエッセイ。
表現がとても豊か。話の流れも上手い。
私もこんな文章が書けるようになりたい。
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日本語の文章が読みやすくとてもきれい。翻訳者にとって大事なのは、外国語<日本語だなぁと、読んでいる最中にたびたび感じた。わたしも日々、言葉を鍛えていきたい。
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この方の文章、かなり好きです。
日常の描き方、言葉や文章の考察などおもしろく読んだ。
外国文学にほとんど触れてこなかったことが悔やまれる。