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紙の本
映画の新たな語り部として…
2004/09/02 00:26
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:南波克行 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『シンセミア』で、小説家としての成熟期に入りつつある阿部和重の、これは映画論集。たぶん、これまで書かれた映画に関する全文章が収められているのではないだろうか。「Vol.1」というからには、当然2、3を想定してのことだろう。早く書きためてほしいと思う。
もっともっとと願うのは、映画批評のあり方を根こそぎ変え、かつ率いてきた三朋輩(青山真治による)、蓮實重彦、山田宏一、山根貞男の後裔が何としてもほしいからだ。だって、映画についての総合的な発言者として、いつまでも彼らに頼れないぞと思うではないか。
かれこれ20年以上も蓮實・山田・山根に頼りっぱなしだった映画評論の世界は、もう十分彼らの世話になったはずだ。だからこそ、次の20年を牽引してくれる批評家が必要なのだ。映画の実見が豊富で、ゴダールからカーペンターまでをカバーし、蓮實流批評術を十分身につけた上で、映画の新しい見識を期待できるとすれば、阿部くらいなものだ。
他の2人は青山真治と黒沢清を挙げたいが、彼らと旧三朋輩との決定的な違いは、阿部・青山・黒沢が映画の実製作者だということだ。もちろん青山と黒沢は今や国際的な映画作家だが、阿部は職業的な映画監督ではない。けれど映画学校の出身者で、しかるべき機会があれば、監督をやりかねぬ人物だし、それをほのめかす発言もあるので、それに準じるものとみなしてしまおう! それだけでも、後継者としての期待が持てるというものだ。
本書は「文学界」連載の映画時評を中心に編まれている。映画紹介をやっていれば、来日予定の(2002年)ゴダールに会えるかも、という不純な(?)動機から連載開始となったものだそうだ。(9ヶ月後、結局会わせてもらえなくって嘆き悲しむ文章が、情けなくも可笑しい。ま、どっちにせよ会えない我ら一般人には、申し訳ないけど少々痛快。)
本書における阿部の主な問題意識は、90年代以後のアメリカ映画のあり方だ。映像表現におけるスペクタクルが増す一方で、物語が貧弱になる。必然的な帰結は企画のネタ切れということである。そして、それをいわば補完する形で進行する、擬似ドキュメンタリーの流行だ。すなわち、「粗雑で浅薄な物語であろうと」、ドキュメンタリー・タッチで撮れば「リアリティは保証されてしまう」ということである。
この指摘はあまりに正しい。この基準にのっとり、ジョン・カーペンターの『ゴースト・オブ・マーズ』を絶賛し、ジョン・ウーの『M:I−2』は保留付で批判する。そうして、アメリカ映画の今が浮かび上がる。今さら目から鱗が落ちるような指摘では無論ないが、彼の批評は今にも失われようとする、アメリカ映画の評価に対するものさしとなるのだ。
最後に1つだけ苦言を言っておきたい。本書の目玉は、阿部和重×蓮實重彦の新旧2人による「徹底討論」だ。ここで、蓮實は「無条件に好きで」、新作には「一目散に駆けつけ」るというトム・クルーズへのエコひいきを延々と語るのだが、阿部はあからさまに無関心を通している。話題がクルーズからはずれ、別のテーマに移っても、話題がオリバー・ストーン監督になると、蓮實はすかさずクルーズ主演の『7月4日に生まれて』を持ち出し、嬉々として話を戻すのだが、阿部は同じストーン作品でも『エニイ・ギブン・サンデー』の方に話を転じてしまい、冷たく蓮實の口を封じてしまう。
今やアメリカ映画の水準を、俳優の立場から1人で支えている、トム・クルーズに対する無関心ぶりも問題だが、全般的に阿部はスタアに対する共感と関心が弱い。我らはクルーズの擁護まで蓮實に頼らねばならないのだろうか。その発言に一層の見通しと総合力を獲得するために、彼には映画スタアへの感受性をもっと磨いてほしい。決してないものねだりでなく、次世代の評者として最も期待するだけに、ここはあえてしておきたい注文なのだ。
紙の本
内容詳細
2004/06/02 15:15
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:bk1 - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本映画学校卒業後、ハリウッドB級活劇的な生気を小説に融合させる刺激的な試みを続けてきた気鋭の作家・阿部和重が、デビュー十周年を機に自らのルーツに真正面から挑んだ初の映画評論集です。
スピルバーグ作品を体系的に分析する一方でゴダールの来日を嘆き、「マトリックス リローデッド」を誉めたかと思えば、「ハリー・ポッター」を痛罵する——。
その大胆かつ誠実な批評の姿勢には、世代や趣味を超えた全ての映画ファンのハートに響く力があります。(出版社HPより)
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