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パラサイトが描いたことと通じている
60年前の作品だなんて信じられないしかなり切ない。。
最後、元気づけられる一方で、やはり生き抜くためには世界の分断を積極的に受容し、そこで上を向いていく必要があるのかと思う。。
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ブクログのランキングに入っていて、ブレィディみかこさんの帯【人を分かつものは色ではない。では何なのか?この小説の新しさに驚いた】の言葉にも惹かれ、手に取った。
この『非色』は1964年に発表された小説。 絶版状態だったが、2020年11月に再度文庫化 された。現在では差別用語としてNGである言葉も使われているが、「作者に差別的意図のなかったことは自明であり、書かれた時代的背景を鑑み、いまなお残る重要な問題を孕んでいる優れた作品である」として明らかな誤植以外は訂正されず、そのまま再文庫化された、とのこと。読み終わってまず思うことは、この作品を再発売してくださったことへの感謝の気持ち。深く考えされられる、良い作品だった。
この作品は、差別問題をテーマに描かれたもの。本の紹介には 「終戦直後黒人兵と結婚し、幼い子を連れニューヨークに渡った笑子だが(後略)」とあるので、アメリカでの黒人差別を描いた作品なのかな、との第一印象を受けるが、問題はそう単純ではないのだ。
主人公の林笑子は、戦争中に学徒報国隊で働いていたが、敗戦で戦争が終わると、国は何も保障してくれることはなく、放り出された。そのために食べられなくなって、働きに行ったところにアメリカの黒人兵がいて、その黒人兵トムと結婚する。まもなくメアリィと言う娘が生まれるが、娘がひどい差別を受け、ニューヨークに渡る。
トムがアメリカに戻ってしまってからも、初めは、笑子は夫についていく気はなく、日本で暮らそうとしていたが、メアリィが差別を受けている上、笑子の母からの差別発言にも反発し、アメリカに行けば黒人もたくさんいるのだし日本にいるより良い、アメリカへ行こう、と思って夫のもとに行くことを決意し渡米する。しかし、ニューヨークに渡ってみると、日本よりはるかに深くて厳しい、そして複雑な差別があった。 と言う流れで、この東京での様子を描いた部分が3分の1ほどで、 残り3分の2でニューヨークでの生活を描いている。
アメリカへ渡る貨物船の中には、同じような戦争花嫁が3人いた。白人と結婚した志満子。笑子と同じく黒人兵と結婚した竹子。 そして麗子という美しい女の人もいて、相手はたいそう美男子で、スペイン語がわかる人だった。
後に、 3人がニューヨークの日本料理店で働くことになり再会したことで、 志摩子の夫はイタリア人、麗子の夫はプエルトリコ人、と言うことがわかってくる。
さて、ここで、ニューヨークではもっと厳しい、 複雑な差別があった、と先に書いた。どういう差別かというと、まず白人と黒人。ところが、同じ白人でもイタリア人は下に見られている。そして差別されているイタリア人やプエルトルコ人の間にも差別感情があり。イタリア人は黒人を差別し、黒人はイタリア人を「最低」と言い、イタリア人も黒人もブエルトリコに関して 「最低だ」と言う。さらには、黒人の中でも、金持ちの黒人は貧しい黒人を差別する。アフリカや国連から来たような偉い黒人は、アメリカにもともといる黒人を差別する。そして、この小説の中では、あまり深く描かれてはいないが、勿論、黄色人種に対しての差別もある。
こんな風に、あらゆるところに複雑に絡み合って差別が存在する。そんな様々な差別を目の当たりにし、自分も差別を受けるうちに、笑子がこう考えている場面がある。
『金持は貧乏人を軽んじ、頭のいいものは悪い人間を馬鹿にし、逼塞(ひっそく)して暮す人は昔の系図を展(ひろ) げて世間の成上りを罵倒する。要領の悪い男は才子を薄っぺらだと言い、美人は不器量ものを憐(あわ) れみ、インテリは学歴のないものを軽蔑する。人間は誰でも自分よりなんらかの形で以下のものを設定し、それによって自分をより優れていると思いたいのではないか。それでなければ落着かない、それでなければ生きて行けないのではないか』つまり、この「差別」と言うものが、単純に 『色の故ではない』 と気づいたのだ。『非色』だ。
戦後から80年近くがたった今の世界はどうだろうか?差別は無くなっているのだろうか? 残念なことだが、誰もがノー、と答えるしかないのではないか。
なぜこの本が、2020年のこの時代に話題になっているのだろう?いくらなんでも、64年の本なんて少し時代が違ってしまって古いのでは?と思いながら読み始めた私は、そんな自分の当初の感覚を恥ずかしいと思う結果になった。なぜこの作品が 『非色』なのか。そのことを、改めて考えさせられた。差別とは確かに、肌の色、人種、 宗教、ジェンダー、と種類を分けて捉えることも出来るが、その根底には笑子の言葉通り『自分よりなんらかの形で以下のものを設定し、それによって自分をより優れていると思いたい』と言う、その気持ちがあるからだと、非常に納得できてしまう。有吉さんが提示してくれたこの問題は古くて新しい、現在進行形の根深い大きな問題なのだ。しつこいようだが、このことは“残念”なのだが、この小説はまだ当分、大人が若者に読むことを勧められる良書だと思う。
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非色、色に非らず
そのタイトルの意味が、物語の後半にかけて徐々にわかってくる展開にゾクゾクした。人種差別やその歴史については、百科事典や論文、日々のニュースでも学ぶことができる。しかし、この小説を読んでいると、「差別」とは何か、何故生まれるのか、そういったより本質的なことを考えさせられる。また、人種差別によって人生が大きく左右されるさまざまな登場人物と彼らの感情の変化に、読んでいて思わず心がえぐられる瞬間があった。心がえぐられてこそ初めて、このような問題を自分ごととして考えることができる気がした。
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NHKの朝のニュースで取り上げられていて、すぐにAmazonで買って読みました。
有吉佐和子さん(1931-1984)の著作は、初めて読みました。
1964年作者が33歳の時に書かれたそうですが、今(2022年)読んでも、たいへん難しい戦争花嫁、人種差別、国際結婚などの問題が取り上げられており、色々なことを考えさせられる素晴らしい内容でした。
読後感が良かった...です。
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読後、重たいと感じること、それが、今の自分なのか。差別や偏見は、何から生まれるのだろう。その人を思うことは、知ることであり、そもそも同じ人だという根底がある。
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人間の欲や本能について、よく書き表されていて、いろいろと考えさせられる良い作品でした。この本が半世紀前に書かれている所に驚きです。
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色にあらず。
差別の構造は色ではない。
社会は優越感と劣等感に渦巻いている。その中で人は生活をし、他者を区別(差別)する。色での判断は表層的な噴出物に過ぎない。人権闘争は突き詰めれば、階級闘争である。
人間は誰でもなんらかの形で以下の物のを設定し、それによって自分をより優れていると思いたいのではないか。それでなければ落ち着かない、それでなければ生きていけないのではないか。
人種差別の闘争というより階級闘争に近いのではないか。だからいつまでも変わらない。
人々には誇りが意識の中で強く平等を拒んでいる。だから生まれが違う、育ちが違うと。それであればアメリカ固有の問題ではない。
だからこそ、出版から半世紀以上経った今でも刺さる作品。
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テーマは重いが、コミカルで読みやすい。
当時の人種差別の情景などが鮮やかに目に浮かび、勇気のある1人の女性があらゆる逆境、葛藤の中子育てをしていく、明るく元気をもらえる作品。
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とても50年以上前の作品とは思えない。文章自体が読みやすく、あっという間に読み終えることができたということだけではない。
ほぼ単一民族国家である日本においては、とても思いもよらない差別がまかり通っていた、そんな人種差別について改めて考えさせられた。考えさせられたということは、現に人種だけでなく、差別に関する問題が世界中に蔓延しているからである。
競争は成長を生み出すはずだが、ある人よりも自分はすぐれている、そんな優越感が差別を生み出すという二面性があることに大きな難しさを感じる。
著者が当時感じて著したものが、彼女がもういないこの世の中でも、いまだ我々に問題提起している。
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人種差別しなければ人は生きていけないのか。自分を肯定するために人を差別するのか。差別される側にも差別があり、複雑な問題ではある。簡単にはいかないが、自分の文化に誇りを持ち、相手の文化を尊重する姿勢から始めることが、人種差別をなくす最初のステップだと感じました。
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ひと口にアメリカ人と言ってもさまざまな人種が
いて差別という重いテーマではあったが興味深く
一気に読めた。
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NHKニュースで見て気になって買いました。
普段ならあまり手に取らないテーマでしたが、有吉さんの作品は久しぶり。しっかり、主人公目線で描かれていました。やはりニューヨーク体験があったからこその臨場感なのでしょうね。
改めて、自分の中にある偏見、当たり前と思っている差別意識を見つめ、考える事ができたかなと思います。
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すっかり忘れていた。
ラストのエンパイア・ステイト・ビルに思いを馳せる場面も、ストーリーの詳細も。
高校生のときは、主人公、笑子の逞しさ、強かさから「生命力」を分けてもらっていた。
今の僕に、いちばん訴えかけてくるのは、
「(肌の)色のためではない」
という言葉。
高校時代、繰り返し読んでも伝わってこなかった『非色』という題名の真意が、やっと胸にストンと落ちた気がする。
「差別」は自分の置かれた環境や相手との関係性によって変化するし、労わりや優しさの言葉の裏側に隠れていることもある。
他者を差別することで、自分の存在価値を見出していることもある。
人種差別というのを小説の中心に据えながら、有吉佐和子さんが伝えたかったことは、その奥に内在している「意識」であるような気がしてならない。
改めて、今の僕も、「この小説は本当に好きだなぁ」と実感するが、それは、
笑子と言う1人の人間の内面の変化、家族や周りの人の言動・反応を通して、笑子自身の初めての気づかされたこと。
その心理描写が実に率直で自然であり、僕自身にも当てはまる、と自覚できること。
この小説を今、読み返すことが出来て、本当に良かったと思っている。
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すごく重いテーマではあるけど、読み易い文調だった。
今だからこそ、本当に考えさせられるように感じる一方で、
この作品が1967年に初版が発行されたことを思うと、作者がその時代にこのテーマで執筆されたことに驚き、また差別に関して根底となる問題は昔も今も変わらない部分があることをひしひしと感じた。
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一気に読みました。
笑子のたくましさが読んでいて心地よく、共感できた。
自分の中にもある差別意識や偏見、自分よりも劣る者を探してる事を意識されられた。
色に非ず。
人間は誰でも自分より以下のものを設定し、それによって自分が優れていると思いたいのではないか、それでなければ生きていけないのではないか。