すかたんやけど、ええなあ。
2021/06/01 08:11
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投稿者:ぼちぼちいこか - この投稿者のレビュー一覧を見る
師匠という人を持つ幸せが、いかほどに人生に意味深いか、心の底からじわり響く本。読み進めていくうちに、気がついたらどっぷり引き込まれてしまってる。なまぐさいのですが、決して湿気てはいない。むしろ爽やか。文章はそりゃ作家さんやらと比べられへんけども、飾りなく、誠実で、よかった。思わず「面白かったで!」と口に出た読後感。久しぶりにああ、やっぱり本てええなあと思わせて頂けました。「すかたん」てええもんですな。いやらしい話やけど、1980円、安かったと思いました。あ、一番の「すかたん」はこの本読んでる自分やった!
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23年前の1998年、神戸の某公共集客施設のキャンペーンの際、ラジオ番組の現場からの生中継があった。そのレポーターとして来られたのが銀瓶さん。時間にして5分ほど。落語家ならではの口舌の良さとよく通る声で、僕が作成した原稿を即興でアレンジ。臨場感ありありの現場実況に拍手パチパチした記憶が鮮明に残っている。
本書によれぱ、1998年は入門して丁度10年目。二人目のお子さんが生まれたばかりの頃。現場で交換した名刺は、墨痕鮮やかな縦書きの寄席文字で〈笑福亭銀瓶〉と記され、落語家さんならではの名刺。
でも、名刺とは裏腹に笑福亭鶴瓶の6番弟子として入門2年過ぎた頃には『落語家を辞めたい』と申し出、師匠は『辞めさせるつもりない!』と慰留。不甲斐ない弟子を突き放さず、温かく見守る師匠。ただ、その後も居場所を見つけられず悶々とし日々が語られている。
元々がタレント志望。ゆえにテレビラジオの売れっ子タレント笑福亭鶴瓶に入門。いざ入門してみれば兄弟子たちは落語好き、それ以上にこぞって師匠大好きときている。方や銀瓶は師匠に向ける愛情の熱量も落語の知識も乏しく、師匠の奥さんとも意思疎通を欠く有様。
そんな頃、偶然転居先の武庫之荘でひとりの人と出会う。その出会いが、タレント笑福亭銀瓶から落語家笑福亭銀瓶へ激変させる大きな出会いとなり、覚悟を決めるきっかけへと結びつく。
その覚悟とは…自身の〈生い立ち〉に根差す『在日韓国人3世 沈 鐘一(本名)』と真正面から向き合うこと、そうルーツに対する意思表明。
これまでの長い葛藤は決して無駄ではなく、『あの時、 お前を辞めさせなくて良かった』と師匠に感じてもらえる落語家になろうと腹をくくってからは怒涛の反転攻勢へ。韓国語を独学でマスター、もうひとつの母国 韓国での落語を披露、自身の独演会では師匠と共演、ついには上方落語の演目では大ネタのひとつ〈百年目〉でトリで演じるまでに。
本書は生い立ちに始まり、師事して32年の足跡を400ページを費やし、自身で筆を執り語り尽くす。その筆致には自慢や妙なへりくだりはなく、とにかく素直に愚直に語る。『文は人なり』という言葉そのままに紙面から笑福亭銀瓶のキャラクターが立ち昇る。
半生を振り返るにはまだまだ早く、落語家としてさらなる高みを目指し、日々精進の発展途上真っ只中の落語家 笑福亭銀瓶の成長譚。
たまたま書店の棚で見つけ、パラパラとしばし立ち読み。冒頭から引き込まれ購入、一気読み。心が晴れわたる、爽やかな読後感を保証します!
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在日三世である落語家の成長譚が感動を呼び起こすのは勿論のこと、それ以上に凄いと思わされるのが昔話というには生々し過ぎる現役の師匠鶴瓶とその奥さんについてありのまま語っていることである。二人との交流を通じ自身の迷いや悔恨が昇華されていく道程を振り返るのに避けて通ることはできなかったということであろう。