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不運な被害者を自己責任・自助におしこめてよいのか
2022/10/29 15:59
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投稿者:あっち - この投稿者のレビュー一覧を見る
早苗と力の母子の避難生活、逃避行の物語。叙述は、この二人で視点を行ったり来たりしながら語られる。
作中で避難生活の時間が経過するとともに、少しずつ事情が述べられていき謎が深まる。終盤になって一気に解き明かされるのはさながらミステリ小説と共通しているところがある。
悪いことをしていないのに不運に巻き込まれた母子二人はいわば被害者、被災者だ。
日本社会の人々は基本的に無関心ではある。実際に、現実の我々日本社会では、自己責任論や自助努力が異様に強調されている。追い込まれても助けを求められなかったり、迷惑をかけたくないと思ったり、惨めな思いをさせられたりすることが普通だ。
が、それでもなお世の中には、こうした事情を慮って手助けをする個々人もいる。
本作でも二人は、避難先の地元でさまざまな人々に助けられる。他人に云えない事情だろうと配慮して深く触れない人もいる、詳しい事情を訊きもせずに助ける人もいる。
引け目を感じたり辛抱をしたりしてきた二人だが、次第にたくましくなり成長していく。
また、いくら母子だといっても別々の人だ。何もしていなくとも通ずるというわけではない。我が子のことは母親だから当然よく解っている、というのは考えがあまい。
本作でも、早苗は力のことを存外に理解していなかった。疑心暗鬼が拡がる。
苦難を乗り越えて、自立性の高まる息子、そして深まる母子の信頼関係。
序盤の四万十での話からすでにわかるとおり、避難先の各地での人々や文化などが詳しくリアルに描かれているのも興味深い。
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始終泣いていた。。
子どもを連れて、あてのない逃避行。行き着いた場所場所で出会う人々はみな優しくて、逃亡していることを忘れてしまうほど。方言がさらに温かみを増す。穏やかな生活の中で、ふと頭の片隅に思い出される現実。
母の想いと、子の想い。交互に描かれるのが良かった。最後にタイトルの意味がわかった時、頭の中に広がったのは雲ひとつない晴天。家族の出す答えはきっと青空につながってる。
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読み始めは辻村深月版ファミリーポートレートみたいな話かなと思ったのだけれども,読み進めていくと辻村先生らしい優しい物語でした.
住んでいた東京から逃げ出して,友人を頼って四万十に,さらに逃げて家島に,思い出を頼りに別府温泉に,と逃避行を続ける早苗と力の母子.行く先々で出会いがあって,落ち着けると思ったら,逃げるはめになる.夫の拳がいるかもしれないという話を頼りに逃避先に選んだ仙台で,早苗が病気で倒れたとき,力は助けを求めることを決断する.子供が困った時に助けを求めることは間違った選択ではない.じゃあ大人は?力の決断を知って早苗も心を決める.
力からみたら頼りなく見える母親だけど,実は早苗さん,生活力が結構ある(というよりも,母は強しか).なんか辻村先生の引き出しが,また増えたような気がする.
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季節の変わり目か、やたらと眠くて読書のペースが落ちている。
月1のカウンセリングの時に、”先月は眠れなくて困ってたのに最近は眠すぎて困る”と話したら、”何か力が抜けたからでは”と言われて、個人的には「夏物語」のレビューで色んなことを吐き出せたことや、ブクログでたくさんのフォロワーさんと、コメント欄を使って話せたことが大きいのでは、と思っている。
ストーリー:深夜に交通事故に遭った夫・拳(けん)が、失踪。しかも、夫が乗っていたのは助手席だった。では、運転をしていたのは…?妻・早苗(さなえ)と息子・力(ちから)にじりじりと迫る追手。逃げる母子。高知、兵庫、別府、仙台へと転々としながらも、その先々で人情に触れながら真相に近づいてゆく母子の、力強く勇気をもらえる作品。
ブラック辻村ファンとしては、ちょっと刺激が少なめ。
もちろん、起きている事件としてはブラックなのだけれど、母子が逃げる過程で描かれている場面の一つ一つは、まるで旅行先で見るような美しい風景と心温かい人達の描写で、この母子の身に降りかかっている事件そのものを忘れてしまいそうになる。
そんな旅行のような気分でぽやぽやと読みすすめていると、突然物語がぐ、と動く。次の街へ行く瞬間、その街を出る瞬間だ。
この瞬間、ぽやぽやとした気分は一掃され、半分を過ぎたあたりから一気読み。あれ?読書のペース落ちてたんじゃなかったのか自分!
家族に振り回される力と、息子を振り回して申し訳ないと思いながらも、力と共に必死に生きようとする母・早苗が交互に語り手となって物語がすすんでゆく。見知らぬ土地と、その土地の見知らぬ人の温かさに、何度も泣きそうになる。
そういえば、学生の頃。伊坂幸太郎が好きすぎて一人仙台へ旅立ち、仙台で先行上映された「アヒルと鴨のコインロッカー」を観に行って、ロケ地を巡ったり、伊坂さんがよくいると言われているスタバへ行ってみたり、した。東京へ戻る日、方向音痴のわたしはちっともバス乗り場へ辿り着けなくて、やっと辿り着いた時にはバスは出たばっかりで、数十メートル先を曲がってしまった。諦めようとしていたら、バス乗り場のおじさんに「まだ間に合うよ!」と言われて走っていたら、今度はタクシーの運転手さんに「乗りな!さっきから見てて間に合うかなって気になってたんだ!」と言われ、信号待ちしてるバスのぎりぎりのところまで行ってくれた。お金を払おうとしたら「いいからいいから!」って言って降ろしてくれて、バスが信号待ちしてる路上でなんとかわたしはバスに乗ったわけだけど、運転手さん的にはやってはいけないことだったらしく、渋い顔をしていて。だから東京着いてから、お客さんが全員いなくなるのを待って、運転手さんに、ちゃんと謝罪とお礼をしたんだよね。
その時のことをふと思い出した。未だにエモい。
旅って一時的なものだし、この時に助けてくれたおじさんたちのことははっきり言って顔も覚えてないし、たぶんもう会えないだろう。それでも、これほど強烈に残ってる。
この母子がしていたことはもちろん旅じゃない。でも、見知らぬ土地の、見知らぬ人からの好意というのは、たぶん見知った土地でのものとは別格で、本当に、ずっと心の中に残ってる。
この二人にとって、特に力にとって、この逃避行がどんなものだったか。どんな風にそれが彼の中に残るのか。
この作品のタイトルは「青空と逃げる」
青空「と」、となっているのが、最後にすごく効いてくる。
辻村さんの作品「朝が来る」が「朝が来た」ではないように、このちょっとした言葉一つに、物語の大きな希望が込められている。
帯にある「大丈夫、あなたを絶対悲しませたりはしない」
このメッセージは、誰から誰へ向けたものなのか。最後にまた違った捉え方ができる。
解説P456
「ただおもしろいだけじゃない。辻村深月という小説家は、自らにとって切実なテーマと常に対峙し続けている」
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旦那さんが問題を起こし突然の失踪…
家には怖い人が来る…
そんな中、小学生の息子との逃避行
いろいろな場所を転々とするも
やつらは追いかけてくる
息子の成長していくところと息子との距離感が変わっていくところがよかった。
一人じゃ何も出来なかったけど、息子がいたから頑張れた。
守るものがあると強い。
でも、守られてたのは自分だったと最後に気づく。
息子が母に内緒で父親と連絡を取り合ってたのには、驚いた。
不倫相手とされ亡くなった女優の一人息子との奇妙なコンビもなかなかよかった。
砂湯行ってみたいなぁ。
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母親の目線と息子の目線。
どちらもありありと描かれていて、2人の絶妙な距離感の変容が秀逸。
母も子も、それぞれにもがき、強く成長していき、向き合っていく様子から、読み進めれば読み進めるほど目が離せなくなった。
今はもう大人である辻村美月さんが、母親だけでなく子どもの心情描写をリアルに描けるところに、また心を掴まれた。
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逃避行の中で、各々成長をしていく親と子。
そして絶妙に変化していく2人の距離感。
母親になった辻村深月さんだからこそ、といった作品。
突如失踪した父親…にはあまり共感できないけれど、母と子、それぞれの物語には『どうかこの親子に救いがありますように』と願ってしまう。
青空から逃げるわけではなく、青空と逃げる。
これから先も、変わりなく2人とそして父親をも見守ってくれるであろう青空。
はじまりの春。3人の旅路が明るい光に包まれますように。
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母って子供のためなら知らない土地であっても必死で馴染み仕事しても生活できる。その行く先々でいろんな人に助けられて行く事にも人の優しさを感じた。また親子がコミュニティデザイナーという職業の方に出会えてその場所での困りごとを解決する仕事があることも驚いた。地域の困り事に手を差し伸べるってすごいことだし、力がよく助けを求めて動いたと思う。それにしても力は大人。父と連絡とっていることにも、ユウトさんと大人の話が出来ていることにも驚き、ここまでできるのも母親を守るためだなぁとその親子愛にも感動する。さてこれから親子3人の新しい章が始まる事も想像できてまた勇気もらえた気がする。
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父親が事故に遭った日から、突然変わった日常から逃れている力と早苗。行く先々で出会う人々のあたたかさや優しさ、母と息子の細やかな機微など、辻村深月さんらしく人と人の関係が柔らかな視点で描かれる作品だった。力たち3人の家族の行末が、綺麗な青空のようであればいいなと願わずにはいられないような救いの物語で、とても暖かい気持ちになった。
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父の不在理由があまりしっくり来ないので、母息子の逃避行が、それはいたましいのだけれど不自然な気がしてしまい、全体としては入り込めず。しかしそれぞれの場面における母や息子の逡巡、描かれる各地のあたたかい人々が素敵であった。
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*
ある夜、病院から突然の連絡で
父の拳が交通事故に遭い重症と聞かされ
慌てて妻の早苗と息子の力は病院へ向かう。
しかし、突然父は失踪してしまう。
事故の原因を知り、住まいにいれなくなった
早苗と力は逃げる様に住まいを後にする。
執拗なまでに行く先々まで逃げる二人を追う
影に怯えながら暮らす母子。
こんな時間が一体どれだけ続くのか、
恐怖に怯えながらの日々。
力を守るため、早苗は仕事を見つけ、
生活を始めるが、どこまでも追う影はなくならない。
早苗と力は本当に父の拳に捨てられたのか。
家族、親子、夫婦とはどんな繋がりなのか?
そんな混沌たる中ででも、
見上げた空は青く、
行く先々のどの世界も青い空は
繋がっていると感じさせてくれる。
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面白かったです。いっきに読んでしまぃました。
行く先々の『青色』が、目に浮かび…四万十川…家島…それぞれの場所に行きたい‼️と、思いました。
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不幸な状況下での小さな幸せを噛み締める、2人の親子の絆に、心を動かされました。逃げるのも勇気がいること。挑戦しなければ何も変わらないと改めて感じました。
今作のように、たとえ逃げてもその場所で懸命に生きることで、陽を照らし暗雲を晴らしてくれるお日様のような人と出会えることを信じようと思いました。
私自身、これからも挑戦し続けようと思える作品でした。
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劇団に所属する夫が舞台で共演する有名女優とともに交通事故を起こしてしまい、それが公になり、有名女優は自殺、夫は失踪。夫に失踪された妻と小5の息子の二人の旅の物語。
行く先々の人たちが温かい。そして、息子は母が気付かないうちにしっかりと頼もしい男の子へと成長していっているのが読んでいて、きっと実際の男の子もこんなふうに成長していくんだろうな、と感じられた。
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力がどんどん成長していくのが感じられる。
環境の変化ってすごく辛いのに2人が転々としていくうちに逞しくなっていく姿に励まされる。
力と拳がずっと連絡取り合ってたのは予想できなかったので面白かった。