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みんなのレビュー239件

みんなの評価3.7

評価内訳

233 件中 1 件~ 15 件を表示

電子書籍

不運な被害者を自己責任・自助におしこめてよいのか

2022/10/29 15:59

1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:あっち - この投稿者のレビュー一覧を見る

早苗と力の母子の避難生活、逃避行の物語。叙述は、この二人で視点を行ったり来たりしながら語られる。
作中で避難生活の時間が経過するとともに、少しずつ事情が述べられていき謎が深まる。終盤になって一気に解き明かされるのはさながらミステリ小説と共通しているところがある。

悪いことをしていないのに不運に巻き込まれた母子二人はいわば被害者、被災者だ。
日本社会の人々は基本的に無関心ではある。実際に、現実の我々日本社会では、自己責任論や自助努力が異様に強調されている。追い込まれても助けを求められなかったり、迷惑をかけたくないと思ったり、惨めな思いをさせられたりすることが普通だ。

が、それでもなお世の中には、こうした事情を慮って手助けをする個々人もいる。
本作でも二人は、避難先の地元でさまざまな人々に助けられる。他人に云えない事情だろうと配慮して深く触れない人もいる、詳しい事情を訊きもせずに助ける人もいる。
引け目を感じたり辛抱をしたりしてきた二人だが、次第にたくましくなり成長していく。

また、いくら母子だといっても別々の人だ。何もしていなくとも通ずるというわけではない。我が子のことは母親だから当然よく解っている、というのは考えがあまい。
本作でも、早苗は力のことを存外に理解していなかった。疑心暗鬼が拡がる。
苦難を乗り越えて、自立性の高まる息子、そして深まる母子の信頼関係。

序盤の四万十での話からすでにわかるとおり、避難先の各地での人々や文化などが詳しくリアルに描かれているのも興味深い。

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