紙の本
登場人物の過去が照らされるもう一つのミステリ
2022/02/25 14:11
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kapa - この投稿者のレビュー一覧を見る
オリヴァー&ピア・シリーズの最新第9作。二人がバディとして扱った最初の事件は2005年、今回は2017年なので、12年の歳月がたったことになる。
前作では子供時代の事件のトラウマに苛まれ、また、私生活での問題も抱えて「情けない親父」になったオリヴァーであったが、長期休暇をとり、また、新しい家族を持ち「復活」した。職制上部下だが、実質的に捜査を指揮する「どんな問題でも果敢に挑んで解決する。闘志があって、決断力備えている。頑固で、これと決めたら、誰が何といおうが気にとめない」(エンゲル署長評)ピアを、オリヴァーが貴族フォン・ボーデンシュタインの品格と振る舞いを武器にサポートする。そのピアは50歳、エンゲル署長との間合い、そして妹キムとの関係、若い頃のトラウマ、加えて「腰痛」にも悩まされている。
今回は、実際にあった連続殺人事件と「子供の虐待」がモデル。孤児院から大勢の子どもを引き取り、里子として育てていたライフェンラート家の主人の遺体が発見されるが、敷地から三人の女性の遺体が出てくる。しかも過去の迷宮入り殺人事件との関係が浮かび上がり、連続殺人事件の様相を示し、犯人は元里子の可能性がでてくる。作中ピアと夫クリストフがミステリ論を展開する。ピアは読者が全体像をつかみやすくするために、被害者4人被疑者5人に絞るというと、夫は「ミステリ読者を甘く見るな、登場人物が少ないミステリはつまらない」と反論する。著者の考え方を示したものであろうが、その通りに最後は被害者11人、元里子の多くが被疑者となって5人どころではなくなる。さらに最初は事件とどう関係するのかわからないキムの隠し子騒動も挿入され、登場人物も多い。かつてピアを誘惑したハッカーの若者も「カメオ」登場するおまけ付き!
ハリウッド映画を彷彿とさせる場面が多い。迷宮入り事件の捜査なので、過去の情報の収集と分析の場面も多く、さながら「ジェイソン・ボーン」シリーズのCIAテロ対策室のような光景が展開する。また、連続殺人犯のプロファイル分析では、FBIプロファイル捜査を確立した人物が登場し、その分析場面は「羊たちの沈黙」「ハンニバル」のレクター博士のようだ。極めつけは、この作品も「レギオナルクリミ」であることを示すフランクフルト国際空港ビルを舞台にした犯人追跡の場面は「ダイ・ハード2」。
これまでもそうであったが、オリヴァーとピアの過去も明らかになる。エンゲル署長とオリヴァーの関係、隠し子の存在があきらかになった妹キムの過去。さらに対立していたエンゲル署長とピアの和解などエピソードも盛り沢山。693頁とこれまでの作品で最も頁数が多く、読み応えがあった。
このシリーズで最初に手にした第3作「深い疵」は2012年6月に読んでいる。「隠れナチ」をテーマにしたミステリということで手にとったもの。これをきっかけに、ドイツのKrimi(クリミ)「推理・ミステリ」と「警察小説」のジャンルに嵌り以後10年続く愛読シリーズとなった。また、多くのKrimiを邦訳している酒寄氏の訳書も読むようになった。
前作は42年前の迷宮事件、そして本作も30年前に端を発した連続殺人事件、と今後は過去の事件もテーマになりそうだ。過去の秘密も明らかになり、また、決着したことでこのシリーズのフェーズも変わってくるだろうか。「オリヴァー&ピア」というシリーズ名は、現在ドイツでも使われているが、新刊紹介文では次第にピアが前面に出ている。そろそろ「ピア&オリヴァー」時代の幕開けか。ところで、ピアの前夫ヘニングの書いたミステリ、ピア・キム・フィオーナの関係、第10作「永遠の友情」に描かれているだろうか。
投稿元:
レビューを見る
待ちに待ったネレ・ノイハウスの新作。
事件の原因などの陰湿な導入は、作者らしさに磨きがかかり、綿密だった!
冒頭と挿入のエピソードの惑わせ方が良かった。信じてる読み手を本当に惑わせてくれる。
シリーズを読んだ人なら、本作の深い湿度の事件の発端が、映像として今までの作品以上に脳内に表れるのではないでしょうか?
取材力というか、編集者さんの力というか、今のテクニカルな手法も絡めてつつ、問題提起を書く作者のメッセージが作者らしく力強い。これは過去No.1。導入と表現とロジックの妙が生きている。
オリヴァーでは無く、今回の主人公はピア、そして強くならざるを得ない女性達だから、最後はあんなにハリウッド的なのだろうか?
ドイツ色があるのはオリヴァーだからだろう。本作はピアのものだ!
とにかく、面白かった。エンタメ性がとても高い
ネレ・ノイハウス大好きだ。
投稿元:
レビューを見る
ここ最近のノイハウスの作品は、読み通すのに根性がいりますね。なかなか、全貌が見通せない。いったい何が起こってるんだかよく分からない。最後はそれが全部つながるのが凄い。
全然作風は違うんだけど、京極夏彦の『姑獲鳥の夏』とか『絡新婦の理』を思い出した。複雑に入り組んだ人間関係の網の目に絡み取られる感覚。何が起こっているのか分からず眩暈がする感覚。
そして何より、どんどん分厚くなる。
投稿元:
レビューを見る
オリヴァ―とピアシリーズの第9作。
新聞配達人が発見した老人の遺体。
大きなお屋敷は、以前里子を多く引き取っていた。
死にかけていた犬のゲージの中から白骨が発見され、
母の日に起こっていた連続殺人へと広がっていく。
もう一つのお話として、実の母親を捜している女性の話が
重なってくるが、まさかそれがピアの妹のことだとは思わなかった。
二人とも無事助かって良かった。
ショックだったのは、ピアが白樺農場を売ったこと。
あんなに楽しそうに馬の世話をしていたのに、
馬も犬も亡くなってしまったのもショックだった。
五十歳を目前にして、夫が住んでいた家を買い戻し、
街に戻ってきた。
新しい生活になじんでいるのを読んで、
なんだか自分も引っ越ししたくなってきた。
投稿元:
レビューを見る
始めの翻訳シリーズからの大ファン。読み続けていてオリヴァーもピアも家族の様に感じるし、今回は特に年齢を重ねた二人を思うと、大切な友達と共にここに至ったと感慨深い。今回はピアがびっくりひっくり返るのが主題。
投稿元:
レビューを見る
死体がゴロゴロ出て、最後は映画向きな派手な展開。
オリヴァーがまともになった。ちゃんと仕事している。
エンゲル署長が良い人になった。
ヘニングの小説はどうだったのか気になる。
投稿元:
レビューを見る
シリーズベスト級。孤児を受け入れていたラインフェラート家の年老いたテオが死んだ。調べると犬のケージからラップフィルムに包まれた遺体が3体。テオが連続殺人鬼なのか?
すごく時間がかかった。しかしその甲斐あり。
登場人物の多さ、被疑者の多さ。それを正当化するどんでん返しアンドどんでん返し。素晴らしい。
※自分用ネタバレ
犯人は、孤児院で育ち、子供を捨てた母親を憎み、テレビで子供を捨てたことを話した母親を連続して殺した。刑事ピアの妹キムも実はレイプされた子を、親友の産婦人科医を通して、不妊のカップルにあげてしまっていた。そのため犯人に狙われた。
投稿元:
レビューを見る
図書館の司書さんから個人的にお借りした本。
明日までに読み終えようと頑張りました。
里子を何十人も育ててきたテオとリタの夫婦。
彼らのことを称賛する人たちがいる反面、虐待の疑いを持つ人たちもいる。
リタは何十年も前に自殺し、老いたテオは元養子たち数人が面倒を見ている。
結論として、世間的に聖女のように言われていた奇跡の女性・リタは支配欲が強く、養子たちを虐待し、心身共にその支配下に置いていた。
水に沈める、冷凍庫に閉じ込める、ラップでぐるぐる巻きにする。
ひどすぎる。
子どもたちは反抗することができず、大人しい一見よい子になるか、自殺するか、トラウマを抱えて大人になるか。
テオの死体が発見され、敷地内から女性の死体が複数発見される。
溺死させたのち冷凍保存し、ラップにくるんで遺棄された死体。
大人になった元養子たちはどれも皆うさん臭くて、とても好きにはなれない。
犯人については何となく見当はついたけれども、虐待された子供だからと言って許されることではない。
しかも本人にはちゃんと理由があってしていることなのだというのだから、何をか況や。
500ページを過ぎた頃からピアの妹・キムが事件に巻き込まれたらしく、連絡が取れなくなってからが読むのに加速がついた。
入り組んだ人間関係で、複雑なプロットになっているけれど、まあ読後感はよかったと言える。
なによりも、前回少年期の隠された真実を突きつけられて精神的に追い込まれたオリヴァーが立ち直ってよかった。
今回はピアがずいぶん精神的に追い詰められたけれど、彼女はタフなので多分大丈夫だろう。
立ち直るべきはキムの方か。
ライフェンラート家で大勢の子どもたちが虐待されていたのに、周囲の大人たちは気づかなかったか、気づかないふりをした。
”見て見ぬふりをする者は犯人と大差ない。”
虐待の話を読むのはしんどい。
投稿元:
レビューを見る
オリヴァー&ピアのシリーズ第9作目。 前作『森の中に埋めた』でオリヴァーの過去が事件と深い関係があり、疲れ果てて長期休暇サバティカル休暇に入っていた。今回オリヴァーは復帰後初の事件。
あらすじ
屋敷の主人が死体で発見される。事故死かと思われた。庭にあった飼い犬のケージ下から3人の遺体が出てきた。それらはラップフィルムに包まれていた。屋敷では、かつて里子を何十人も育てていた。夫婦の妻は行方不明になっている。施設では幼児虐待の疑いもあったが公にはならなかった。元里子のうち、今も屋敷とつながりのある人物は何人かいる。また主人夫妻の孫は当時同居していて、今は企業の有力者だ。女性たちが乗っていた車が後日発見されていることから、似たような行方不明の事件を調べると、被害者と思われる女性が何人も出てきた。いずれも5月に行方不明になっている。母の日付近。事件の期間は26年間にも及ぶ可能性がある。オリバー達はプロファイリングの権威、アメリカのハーディングに協力を依頼する。ピアの妹のキムは署長と別れたらしい。ピアとも折り合いが悪い。
挟まれたエピソード・・・ スイスの女子フィオーナは、母親が亡くなった後、遺品をたどり、離婚した父はゲイで偽装結婚、さらに自分は両親の子供でなく、養子だったと知る。自分のルーツを探るため、違法に闇で自分を斡旋してくれた産婦人科医の元を訪れる。産婦人科医は、自分の友達が望まれない妊娠をしたために養子を斡旋したことを認めた。
事件の話に戻る。行方不明になった女性たちの共通点、それは幼い子供を捨てたという過去だった。屋敷の井戸から見つかった女主人は、祖父が殺した。孫のフリチョフ・里子の ヨアヒムが後に片付けた。ヨアヒムはフリチョフの友人、現在は空港の it 部門の責任者。キムは若い頃、フリチョフと知り合いだったことがわかる。ダンス教室?か何かで。
キムが行方不明になった。きっかけは精神科病棟に送られた男だったが、その男はキムのマンションで殺害されていた。なんとキムは若い頃に娘を出産していたのだった。家族の誰も知らないことだった。そしてキムが突然性格が変わったようになった理由もわかる。 捜査の途中、署長はピアに、キムと別れた理由を話す。またキムがピア夫婦と距離を置いた理由も。夫クリストフがピアに言ったことがきっかけ。クリストフは「空騒ぎを止めて自分に自信を持て。そうすれば本当の友人を見つけ、いい関係が築ける。レズビアンのふりをする必要もなくなると。」言った。それはピアも知っていた。
スイスの女子フィオーナがキムの娘だったのだ。フィオーナは、ドイツ滞在最後に産婦人科医の元を訪れたが、産婦人科医は出張中。夫が対応したがその夫が犯人だった。その夫こそ空港責任者のヨアヒムだった。ヨアヒムの母は 彼を捨て貴族?大金持ち?と結婚。しばらくの間はヨアヒムと連絡を取っていたが、それも途絶えた。ヨアヒムはそのことと、少年時代に地元の女子を湖に沈めたことがきっかけとなり、シリアルキラーになる。産婦人科医と結婚したのも、知り合いだったキムを好きだったため?。キムとフィオーナは監禁されている。勤務先の空港のどこかにいるが��ヨアヒムは逃亡の際、空港のすべてのシステムをハッキングし空港を大混乱に陥らせていた。オリヴァーの知り合いのハッカーの助けもあり空港は何とか落ち着き、ピアたちは犯人を逮捕、二人を助け出せた。
感想
最高の面白さ。どんどんテンポよく進むストーリー。登場人物の数も多く、メインの捜査場面の他、スイスのフィオナの場面、犯人の叙述部分、事件関係者の日常場面、などが色々詰め込まれているが、最終的に全て回収されている。フィオナが監禁されて、同じ部屋に女性がいて、それがキムで、母親だとわかった時、「やられたー、ここで点と点がつながるのかー」と思った。ラストでは、犯人が空港を大混乱に陥れ、突然パニック映画みたいに変ったのもおもしろかった。10年以上前からハッキングも計画してたのか、ヨアヒム。用意周到すぎるだろ。これまでのストーリーと全然関係ない、上空を飛んでいる飛行機にまでヒヤヒヤしたよ。前作はオリヴァー、今回はピアの家族にスポットライトが当たった。これまで8作の間でピアとキムが、あまり性格の合わない姉妹だということが書かれていたが、ここに来てやっと理由がわかった。キムの辛い過去が影を落としていたのだ。それにしてもピアは苦労してきた分、今はクリストフがいてよかったなあと思った。クリストフが義理の妹キムに言った言葉は、厳しいけれども親身になったものだったので印象に残った。まだこのシリーズは続くけれども、キムとクリストフはずっと幸せでいて欲しいなと思う。なんにしてもドイツでは2021年に新作が出版されるらしいので、こちらも是非日本で発表されて欲しい。
投稿元:
レビューを見る
刑事オリヴァー&ピアのシリーズ、9作目。
ドイツの警察小説です。
前作でオリヴァーの子供時代からの人間関係に絡む事件が起き、疲れ果てたオリヴァーは制度にある長期休暇を取りました。
オリヴァーは警察ではリーダーで人柄も見た目もなかなかいい男だが、やや女運が悪く振り回されがち。
とはいえ、ここへ来て落ち着いたよう(笑)
ピアは(何年も前になりますが)元夫と別居してこの地で農場を買い、警察の仕事に復帰、今では資格も先輩のオリヴァーと同等の主席警部に。お似合いの相手クリストフと再婚もしています。
さて、オリヴァーが復帰しての新たな事件。
とある邸宅の主人が亡くなっているのが見つかった。
さらに、犬舎の下に死体が埋められていたことが発覚。思わぬ大事件に発展します。
かって主人夫妻は多くの孤児を預かっており、虐待の噂もあったが真相はわかっていなかった。捜査していくと、関係者に複数の行方不明者がいることが判明します。
それは5月、母の日の頃に起きていた…
ピアの妹のキムもまだ登場していて、意外に不安定な面も見せたりして、当初の予想より役割が重要になっていきます。
ピアの家族というのが長い間よくわからなかったのだが、旧弊な両親は娘たちの職業を今も快く思わっていないことなど、ドイツもそんなに開明的ではないのだねえ。
疎遠な妹へ抱くピアのコンプレックスや、上手く行かなかった理由とは。
生き生きと描かれる登場人物たち、数多い人たちが社会をなしている様子、現代の様々な問題を取り上げつつ、この特別な悲劇を解き明かしていく筆力はさすがです。
そして、真相に近づくにつれ、思わぬ出会いも…
今回も、胸に迫る読みごたえがありました。