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日の丸半導体の没落の原因は、単に経営幹部の能力の低さだけの問題ではない
2024/05/14 17:59
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投稿者:Patto - この投稿者のレビュー一覧を見る
日の丸半導体の「没落の原因」は何だろうか?
牧本氏は「第5章 日本半導体の盛衰」の「4 日米半導体協定の締結」で、次のように述べる(要旨):
<1980年代に勢いを増した日本の半導体は、1986年に米国のシェアを逆転した。日本の半導体のドル箱は半導体メモリと国内市場の二つで、「二つのドル箱」が半導体協定のターゲットになって直撃を受けた。この状況の中、1985年に半導体メモリの価格の暴落が起り、世界中の半導体メモリメーカーが苦境に立った。米国の米国半導体工業会は米国通商代表部に日本製品をダンピング容疑で提訴した。続いて半導体メモリメーカーのマイクロンは商務省に日本の64キロ半導体メモリをダンピング容疑で提訴。相次ぐ訴訟を契機に日米双方の政府が協議を開始し、一年間の交渉の結果、1986年9月に締結されたのが日米半導体協定だ。>
<半導体協定締結のほぼ半年後の1987年3月、日本にとって衝撃的な事態が起った。「日本は日米協定を守っておらず、日本市場における海外製品のシェア向上に目に見える成果がない」という理由で、米国は通商法301条に基づく制裁を行うと発表した。制裁解除を求めるべく、中曽根首相がレーガン大統領とのトップ会談に臨むが、米側の返事は冷たく会談は物別れ。突然の301条発令とトップ会談の決裂とは、日本政府と民間企業に対して米国の怒りの大きさを強く知らしめ、日本はすっかり委縮した。これは一種のトラウマとなって長く尾を引いた。>
牧本氏の「日本が米国の強い怒りに委縮し、それがトラウマとなって長く尾を引いた」という指摘は説得力がある。日本の政・財・官は、「米国の強い怒り」に接して、日本が「米国の植民地のような存在」であることを思い知ったようだ。「日米半導体摩擦」は単なる独立国間のビジネスの問題ではなく、「植民地 vs. 宗主国」という「政治問題」の形相を露わにしたのである。 宗主国の意に染まなければ、タタキ潰される。米国の機嫌を直したい日本は、日の丸半導体の活動にブレーキを掛けたとしても無理はない。そういう意味では、日の丸半導体の没落の原因は、単に経営幹部の能力の低さだけの問題ではないようだ。
参考に、津田建二氏は、「日本没落の原因は、結局、経営判断ミス」として、次のように総括する(要旨):
<日本の半導体メーカーは いまだに昔からの垂直統合型の半導体ビジネスにしがみついている。水平分業や、さまざまなビジネスモデルの模索には、日本の半導体メーカーはほとんど登場しない。日本の半導体が没落した原因を、時代の変化に適切に対応しなかった経営陣と親会社の経営陣のまずさと表現したが、具体的に次の9つの要素が考えられる。
● 90年代後半では投資すべきタイミングに投資しなかったこと
● 経営判断が出来ておらず、常に横並びに国内他社の様子しか見なかったこと
● いつまでもコストの高いメインフレーム向けの半導体メモリを作り続けたこと
● 主力製品をシステム・エルエスアイへと切り替えたのにも拘らず、半導体メモリ並の微細化投資を続けたこと
● 低コストで製品を作る技術を馬鹿にして本気で取り組まなかったこと
● 顧客の声を聞かずに作っていたこと
● エンジニアの方がマーケティング担当者、営業担当より立場が上という目線
● 経営陣は自分の首をかけて社員の心をまとめることをしなかったこと
● グローバルな動きを無視したこと >
注記:半導体メモリ、システム・エルエスアイ等と日本語で書いた理由は、英語のアルファベットで書くと、「レビュー内容に使用できない文字が含まれています」という警告が出るためである。
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著者の偉大さに驚きました
2021/12/08 14:21
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:広島の中日ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
今、日本で経済上昇の秘密兵器と持ち上げられている「半導体」。これについて、電気工学博士の著者が「そもそも、半導体とは何ぞや」という基礎から、半導体を生産することで日本経済がいかに上昇する可能性を秘めているかまで、広範囲に及んで的確に説いた1冊です。
個人的には、最後の第7章が最も面白かったです。著者ご自身の電気工学人生を振り返る章なのですが、これを読んで著者が電子工学の世界でいかに偉大な存在であることかを知れたのが、最も勉強になりました。
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半導体の重要性を半導体の歴史を辿りながら解説
著者は日本の半導体の歩みとともに中心部分で仕事をしてきた人であるので真に迫る内容
半導体そのものの知識も得ることができる。
日本にとっての半導体の重要性をよく理解させてくれる。
新しいデジタル時代の始まりに於いて日本が何をせねばならないか、半導体は何に使われるのか(ロボット=自動運転車を含む)への説得力のある解説
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この本は、タイトルの「日本半導体」の「復権の道」についての著者の意見を聞けるのだと思い、お高めの新書ですが購入しました。結論から言うと、残念でした。
昨今の米中貿易摩擦で半導体を巡る争いがあり、Huawei への禁輸や生産を禁じる処理、GAFAが独自に作る、半導体不足など、メモリについての日韓の戦いとは違うステージになっている今日、何が起きていて、未来の見通しはどうなのかを知りたかったです。一方で、本書では、著者が率いてきた日立半導体からみた歴史であり、日米しかない時代の話でした。(少なくとも自分は、読後そのようなことした印象に残りませんでした。)後にソニーの執行役員にもなり、出井会長とのつながりもあり、業界の中で成功された方のようです。
日本は、半導体生産装置では世界トップのシェアであるが、半導体部品を組み立てて電子機器の生産では優位性を失い、ソフトウェアでも概して弱い。それは本書を読むまでもなく、ニュースや新聞で目にします。この著者に興味がある方にのみ、お薦めします、としか言えないかな。
復権の道として、国が研究開発を支援することを挙げています。こういう話は、やはり利権がからみ難しいの話だと思います。企業が自らの事業の存続をかけ、市場で受け入れてもらえるものを開発する努力を、国は行わない。本書でも、ソニーが創業間もない時期にトランジスタを内製化しようとしたことを、リスクを取り進めたことを褒めていました。著者も日立の半導体生産やビジネスで奮闘したはずなのに、国との連携が出てくるとは。
国が開発をリードするとは、軍事兵器や昔の宇宙開発やコンピュータの開発を想起されます。半導体は、民生品が進化する「イノベーションのジレンマ」で発展している部分が大きいと思う。この本に求めるには重すぎるが、日本の半導体政策を誰かがしっかり考えなければならないと思った。基礎研究、生産技術、センサー、ソフトウェア技術、どこを攻めるのか、どこを標準化し連携をとるのか、それこそ国が主導べきだったかもしれません。しかし、それも過去から至る現在の話。生産技術は知財で守れるわけでもなく。科学技術は誰でも同じことができる再現性がありマネできるもの、と思っていたけれど、そんな自分の幼い考えは完全に間違っている。国が争っているけれど、その本質や役割がまだ腑に落ちない。
改めて思うのは、半導体を理解する上で、関係する領域が広いこと。本書を読み、5年後を想像できるようになるかと思ったが、残念ながらできなかった。読了してから2カ月後に書いているので、かなり忘れている中これを書いています。
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日本の半導体が世界シェア50%から10%に落ち込み、今後0%すら予測される状態において、いかに復活するかについての本。
著者は1990年代に既にデジタルノマドワーカーを想定した講演を行っていた。
かつて日本が高シェアを誇っていた半導体産業を凋落させたのは、主にアメリカからの圧力と、日本製品が強かったアナログ商品から日本が世界シェアをとれなかったデジタル商品への転換、それにともなう半導体産業の垂直統合型から水平分業型への転換に対応できなかったことなどにあった。
現在は、日本内外で日本製スマホなどの完成品の需要がないため、日本製半導体デバイスの需要も生まれないという関係にある。
一方、川上の半導体材料と半導体製造装置は日本が高い世界シェアを持つ。
半導体は、過去に日米、日韓、米中の貿易問題が起こっているが、アメリカや中国、韓国に比べ、日本のトップは半導体への関心が薄いと指摘している。
スマホやデジタルデバイスで遅れをとった日本が半導体産業で復権するには、自動運転車とロボティクスにおいてシェアを獲得し、その流れに乗ることだと提言している。
自動運転車なついては、著者はアップルカーが新しいクルマの形を示すと予言しているが、スティーブ・ジョブズなきアップルにその能力があるのかは疑問。
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ハーバード大学修士、東大博士、史上最年少の32歳で日立製作所の部長職に就き「出る杭」と呼ばれた著者。半導体の歌まで作り、本書で紹介する程、少し変わった人という印象。後半は自らの半導体半生を振り返りながらも、戦略上いかに半導体が重要かを説く。尖った人材。しかし、だからこそユニークな生き様という気がする。
トランプ政権の発足以来、米中半導体摩擦が激しくなった。中国は世界最大の半導体消費国であるが、国内で生産する事は限定的であり、大半を輸入に依存。国産比率を上げるために政府が巨額の資金を投入していることにアメリカは警戒を強めており、安全保障上の懸念となる主要企業をエンティティーリストに入れて制裁を加えた。これによ、ファーウェイのスマホ事業は失速。また、20年末頃から、地政学的リスクが顕在化し、自動車向け半導体の調達が不安定化。
本書で面白いなと感じたのは、こうしたエポックメイキング的な史実よりもサイドストーリー。例えば、2021年テスラが人型のロボットを開発すると発表。テスラボットと名付けられたロボットの高さは172センチ重さ57キロ。あるいは、1997年の『デジタル遊牧民』という書が、半導体の進化によりポケットサイズの万能端末、リモートワーク、リモート講義などを予言。極め付けは、学天則の話。生物学者で元・北海道帝国大学教授の西村真琴が作った“人造人間”で東洋初のロボット。
学天則で検索すると、奇妙なロボットの写真が見つかる。1928年の話だ。不思議な時代の匂いを感じ、まるで古いアルバムを開くよう。変わった人からは、変わった物の見方を学ぶ。