これからの経済を考えたい方に
2022/07/04 14:37
10人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mw - この投稿者のレビュー一覧を見る
経済の専門知識がまったくなくても読めました。
非常に説明が丁寧でわかりやすいです。
説明する中で専門用語が出てきますが、どのような文脈で使われるのか詳しく解説されています。
こういった疑問に答えてくれました。
・物価とは具体的に何を指していうのか?
・誰かが決めているのか?
・何を基準に判断しているのか?
・どのような条件が揃えば、インフレやデフレが起きるのか?
・どのような政策を取ればいいのか、あるいは取ってはならないのか?
特に国内の他地域や海外を旅行すると、物価の差を感じる事があります。
物価が高いとか安いとか、何を基準に判断しているのか、自分自身でも明確には分かりませんでした。
全ての価格が自分の地域より上回っている、下回っている、ならまだ単純ですが、多くの場合はそうではありません。
これほど身近なテーマでありながら、具体的なことを何も言えないことをもどかしく思っていました。
経済理論は数式やグラフがたくさんあってよくわからない。。。
と思っている方にもぜひおすすめです。
余談ですが。
最近MMT(政府は積極的に財政出動をしお金をたくさん刷るべき)の論者を、ネットやメディアでよく見るようになりました。
意見は自由ですが、個人的にはかなり疑わしいと感じました。
MMT理論を聞いてみても、当たり前の疑問にはっきり答えてくれている論者はいませんでした。
その疑問とは、
1.市場にお金が増えれば増えるほどお金=円の価値が減り、物の価値が上がり、生活に支障がでるほどまで高くなるのでは?
2.市場に大量放出されたお金を返せなくなったら(将来的に国民の経済状況が良くならないと国債が減らせない)、とんでもないハイパーインフレになるのでは?
というものです。
どちらの疑問にも、直接ではなくとも本書を読むとある程度予想ができます。
どのように情報を集め、何を基準に考えたらよいかが少し見えてきました。
もちろんどんな理論でも存在した方がよいし、それについて真剣に検討することで、日本経済の先行きがより見えやすくなると思います。
その上で自分はどうするか選んでいかないとならないです。
ITやデジタル関連の産業に日本は完全に乗り遅れて、もう取り戻せる段階ではないので、まだ現れていない次の産業の波を作るか乗るかするしかない。
受け身でいると、平均的な暮らしはどんどん苦しくなるはずです。
自分で考えずに、そうなのか〜お金たくさん刷ればいいんだ!と思うことこそ本当に危険。
残念なことに、そのあたりの問題を整理して解説してくれるメディアも、日本にはありませんので、貴重な一冊です。
遅れてやってきた良書
2022/06/22 22:47
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:にゃ - この投稿者のレビュー一覧を見る
物価理論というものを経済学の門外漢に分かり易く説明してくれている。
この本には、日銀が異次元緩和をして物価上昇率2%を目指す理由、どうしてそれが効果が無いのか、経済学は実は社会心理学に近いということの説明が丁寧に書かれている。
また、黒田総裁の「国民は値上げを受け入れている」という言葉の真意がくみ取れるようになると思う。
本書が数年早く出版されていれば、社会全般で建設的な議論ができたものと少し残念に感じる所だ。この点、経済学者や日銀は社会との対話を怠ってきたのではないかと思う。
さて、本書の執筆は2021年なので、2022年から始まった資源・農産物インフレや米国金利上昇、円安については述べられていない。本書の5章に書かれた日本社会のノルムは「あきらめて物価上昇を受け入れる」に転じており、そのためインフレ予想も大きくプラスになるのではないかと感じた。あとは、これが賃金増加につながって持続的な経済成長につながることを祈っている。
物価とは何かを難しい数式をいっさい使わずに説明してくれる本
2022/01/24 00:42
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Yuki - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、「物価」をテーマに一般向けに解説しています。おそらく大半の人にとって「物価」とは、なんとなく分かっているけどいざ聞かれると良く分からない、というものではないでしょうか。
そこで本書では、この「物価」というものの正体について、データや理屈を用いて迫ります。
これはあくまで私だけかもしれませんが、理解が難しい部分もありました。例えば第1章では、「決済サービスの魅力がこのように小さくなると、貨幣への需要が減り、物価が上昇するはずです。」とありました。なぜこのような理屈になるのか詳しく書いておらず、私の頭には「?」がたくさんでした。
それでも読み進めて第2章で物価のメカニズムが解説されたところで、やっと理解できた気がします。それでもまだ自信はありません。。。
また、本書では経済学の手法を用いて考えていくため、経済学の知識が全くない様態だと、読み進めるのが難しいかも知れません。
しかし、この本を読んだことで「物価」に対する理解が大きく変わったように思います。
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投稿者:怪人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
新型コロナによるパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻に対する経済制裁などにより、物価が大きく影響されている。そのような物価について、著者のこれまでの研究成果などを踏まえて、論じている。物価に関わる統計データの実情と取扱方もよくわかる。政府の所掌になるようだが、基本的なデータの整備が十分とはいえないようだ。国交省による建設関係統計データの組織的改ざん・水増し事件に見るまでもなく、その精度や信頼性に疑問符がついているだけでなく、そもそも論の統計値をどうするか、根本的な問題があるようだ。本書では物理学の理論を経済学に対比させてうまく説明している。物理学ではデータをとるために研究者自身の工夫も必要なこともある。著者はPOSデータを利用して理論を統計的に裏付けている。
需要供給曲線の説明図では直線で表示されていることにかねて疑問に思っていたが、著者も学生時代に質問したエピソードが述べられている。
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投稿者:ごまちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
最近の物価高騰など不安でしかし物価などわからな買ったがこの本はわかりやすかった。
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
読了したのが、まだ、コロナ禍だったので、今ほどインフレとは、いわれていなかったですが。作者は、多分、コロナ禍が始まった頃に書かれているので、今ほど円安、インフレをご存知ない時の著作でしょうけど。
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面白かった。フィリップス曲線、自然失業率仮説を中心に中銀の物価コントロールについて概説した上で、そもそもの貨幣の魅力は徴税力によっても決まるんじゃないかという考え方や、物価の測り方として価格改定頻度やバスケット内の商品間の相互作用も(単なるaggregateでない)大事だという、通説とちょっと違う考え方を教えてくれる。物性物理のAndersonのMore is differentが出てきて笑った
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日銀勤務経験のある経済学者の本を読むのはここ最近で2冊目(1冊目は「地域金融機関の経済学」小倉義明・著)。ただ本書は学際的な色彩はさほど濃くなく、親しみやすい豊富な事例と平易な文体が用いられ、一般向けの啓蒙書として取っ付きやすい。無論扱われる内容はやや専門的だが、説明が極めて丁寧であり、これまで貨幣論や金融政策関連の書籍に親しんだ経験のない読者でも十分に理解可能な内容だと思う。しかし、後述するようにややニヒリスティックな結論を導いているように思えるのが個人的には気になった。
まず真っ先に目を引くのは冒頭の「蚊柱」のアナロジー。これが本書を通して何度も立ち現れる、「個々の物価の運動は必ずしも物価総体の運動を説明しない」というテーマを体現している。則ち「個々の価格相互間における相殺効果を考慮すると、個別商品の価格変動そのものにフォーカスするより、むしろ個別商品と物価総体の両方に直接影響する要因の分析に注力すべき」というもの。デカルト以来の(「デカルトはそんなこと言ってない」と物言いがつきそうな気がするが)西洋世界で重んじられてきた「要素還元主義」を一旦棚上げし、ある価格更新が他の価格更新を誘発する「価格更新の相互作用」というモデルを受け入れ、個々のミクロレベルのみではなくマクロレベルの価格硬直性の原因を追求しよう、というのである。著者によれば、従来のメニューコスト仮説や情報制約仮説でも説明困難なその原因とは、ニューケインジアンの1人アーサー・オーカンが提唱する「ノルム」、すなわち社会全体が暗黙のうちに共有する社会的規範にあるという。物価に引きつけて言えば「物価予測についての暗黙の了解」となる。
従前の金融政策は、スタグフレーションを説明するべく改訂されたフィリップス曲線(自然失業率仮説)の式中に現れる「インフレ予想」への働きかけに重心が置かれてきた。しかしそもそも予想への働きかけはインフレ時とデフレ時で効果が非対称的であり、また1990年代アメリカで金融引き締めと失業率悪化食止めの両取りを狙った「ディスインフレ政策」が不首尾に終わったことから見ても、予想に働きかける政策は効果がない可能性が高いという。
むしろバブル崩壊以降の日本で支配的だったのは、「今日の価格は昨日の価格と同じ」という共通認識、つまりノルムであったという。このノルムは、長きにわたり「価格上昇が起こらなかった」という経験により醸成されたものであり、これにより価格更新頻度低下と価格間相互作用の低下が引き起こされた結果、需要曲線が屈曲し日本独自の「価格据え置き慣行」が生じたというのだ。これが冒頭で触れられた「死んだ蚊柱」、すなわち個々の価格も総体としての物価も共に不動に陥ってしまっている日本経済の実情である。この結論は多くの読者の実感とも合致するのではないかと思う。何しろ、コロナ禍での世界各国の積極財政の帰結として進行するインフレ懸念とも、日本のみ少なくとも今のところは無縁でいるくらいなのだから。
しかし、そのような長期の経験から付随的に生じてくる「ノルム」を相手に、どのような手立てが有効なのだろうか。ニューケインジアンに属すると思われる著者の主張によれば当然金融政策は無効なので、勢い財政政策に頼ることになるが、その具体的な提言は何かといえば「将来の増税をしないと約束しつつ減税する」、即ち財源なしの放漫財政だというのだ。理屈はわかるが、そのような無責任を標榜する為政者候補に票を投じろというのだろうか。一体政治責任とは、政治的合理性とは何か、という根源的な問いに繋がってしまうような気がするのだが。財政政策以外の提言としては、他には通貨政策(ゲゼル通貨、自国通貨の変動相場制移行)などが挙げられているが、どれも観念的でとても実現性があるとは思えない。
すると、本書の結論は「これが日本のノルムであるのだから受け入れざるを得ない」という諦念を暗黙のうちに認めているように読めてしまうのだ。「経験が先か政策が先か」という鶏と卵の問題のようにも思えるが、ノルムを認めるとすれば「ノルムに働きかける政策」というのはあるのだろうか。ないとすれば我々にできるのはただ現状を追認することのみとなってしまう。新たな提言を待ちたいと思う。
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ブクログでは読みやすく分かりやすい本との評価が多いようだが、私にとっては中々どうして読み応えがあり、読み進めるのに苦労した。
内容も理解できたかと問われると自信がない。ただこれは著者に問題があるのではなくて、私自身の経済学に対する素養のなさが原因なのだと思う。
ともあれ一読した感想は、なるほど物価について考えると言うことは、経済学の大きなテーマであり私たちの生活そのものに直結する事になる事。更には私たち自身が、物価を決める主体でもある事。ゆえに、世の中の気分的なものが、インフレなりデフレなりに大きく影響してる事等を強く感じた。
今の日銀の進んでいる方向には、とんでもない落とし穴や副作用が待ち受けているような気がして仕方がないのは私だけでしょうか。
私にはとても処方箋はかけませんが、ようやく物価が動き始めできた気配があります。日銀、政府にはここからの舵取りをしっかりとやってもらいたいです。
個人的には過度な先行きの不安をあまり深刻に考えずに、明るい気持ちで生活を楽しみたいです。その事が少しは経済を明るくする一助になると信じて。
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はじめに
第1章 物価から何がわかるのか
第2章 何が物価を動かすのか
第3章 物価は制御できるのか――進化する理論、変化する政策
第4章 なぜデフレから抜け出せないのか――動かぬ物価の謎
第5章 物価理論はどうなっていくのか――インフレもデフレもない社会を目指して
おわりに
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毎月発表される物価指数を、単純に、個々の商品の価格の平均というくらいにしか認識していなかったが、それぞれの商品のシェアの推移を勘案しないと、物価指数にならないということを、はじめて知った。確かに、シェアの低い商品の物価が高くなっても、生計費全体に及ぼす影響は小さいから、シェアの反映が大事。けれども、政府の統計では、このシェアの推定が5年に一度なので、今回のコロナで、人々の生活の仕方、つまり、お金の使い方(シェア)が変わったのに、その影響が反映されなかつたとのこと。
また、デフレの怖さは、企業の価格支配力が無くなることという指摘は、なるほどと思った。確かに、日本の消費者は、名目の値段が上がることを極度に嫌っていて、少しでも価格があげると、そっぽを向いてしまうので、企業は怖くて価格を上げられなくなって、どうしてもの時は、姑息なステルス値上げや、とにかく新製品投入を急ぐという不毛な戦いに追い込まれている。企業のパワーが削がれている。
シムズのFTPLの件りは、なかなか難しい。もう少し考えてみよう。
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物価について、豊富な比喩や実例をもって基礎的なことから最新の研究までわかりやすく解説している。
ミクロの部分に拘泥するのではなく、蚊柱理論のように全体を見ること、貨幣の魅力、物価の算出法、ネット時代でも価格のバラつきがなくならないこと、予想とノルム、変動相場制への移行とインフレターゲティング、失業率と金融政策、おしゃべりな中央銀行と金融政策の98%がトークであること、合理的無関心の理論、日本の緩やかで執拗なデフレと変わらない価格据置慣行、ステルス値上げ、日本の蚊柱は死んでいて後ろ向きの経営に走る企業の群れそのものではないかという指摘。
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日々ありふれた「物の価格=物価」について、こんなにもわかっていないことが多いのかというのが第一の感想。
また物価変動(インフレ/デフレ)に人々のインフレ予想が一つの変数としてかなり寄与しているというのも面白かった。FRB議長の発言一つで株価が大きく変動するもよくわかる。
日銀もその重要性をわかっており、アベノミクス以降安定したインフレ率2%のメッセージを日々発信しているのだが、そもそも「日本銀行の発言に金融業界以外誰も関心がない」という、この本を読むまでは自分も人のことを言えない認知心理学の地平まで話が落ちてくる。
ただ「物価安定」の今のところの有力な定義が「将来の物価変動に誰も関心を抱かなくていい状態」らしいので、そこんとこもむずかしいよなーと。
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無味乾燥で読みづらいかなあと思ったけど、実際はかなり楽しんで読めた。インフレ抑制と雇用の安定が中央銀行の役割というのはなんとなく聞いたことがあった程度だけど、この本を読んでそれがどのようにつながっているのかがよくわかった。
日本で物価が上がらない、という部分は理由がわからないというよりも、「空気」の重さがあるのだろうか。「ノルム」と言ってもいいのかもしれない。
物価を計測するための商品価格調査がこんなふうに行われているんだなあ、というのも新鮮だった。あるカテゴリについては代表的な商品を追い続けるとあったけど、代表的商品のライバル商品も調査した方がいいのではないか、売り物の値段は競争とそれに突き動かされた人々が共感するノルムを作り出してしまう?
覚えておきたいこと
自然失業率仮説 インフレ率=インフレ予想-a x 失業率+b
価格硬直性
流動性の罠
貨幣の魅力とは、決済機能、税収に裏打ちされた価値
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マクロ経済の専門家による、物価の話。物価について、厳格なほど学術的でもなく、かといってトピック的でもなく、わかりやすく論理的にまとめられている。記述が正確で、内容が濃い。物価という単純なことに特化し、歴史的に研究されてきた内容にも触れ、インフレやデフレの経緯も理解できた。デフレ脱却に向けた方策についての考え方も興味深い。
「原油価格が上がっても、貨幣量が増えないかぎり、物価は上がらない。この主張をもっとも強力に展開したのはミルトン・フリードマンです」p18
「一部の商品の値上げでCPIが動くと考えるのは正しくありません(菅政権での携帯電話料金の値下げで、デフレは加速しない(会計理論の誤謬))」p20
「日本のスキャナーデータには海外のデータにはない強みがあります。それはカバーする期間の長さです。(海外のスキャナーデータの期間は高々5年、日本は30年以上)日本のデータがなぜそんなに古くからあるのかと言うと、日本におけるPOSレジの普及に合わせて、通産省関連の財団法人の主導の下、日本各地にある店舗のPOSレジに蓄積されたデータを1ヵ所に集積させるという取り組みが行われたからです。それがなければ、各店舗のPOSレジデータは散逸してしまったことでしょう。データの蓄積は1988年に始まり、その後、民間企業へと移管されるなど紆余曲折を経て、私たち研究者の手元に届いたというわけです」p50
「ネットが普及しても価格のバラつきが消えないのはなぜでしょうか。ひと言でいえば、どこの店で安く売っているのかという情報をもっていない消費者がいるからです。その情報をもっている消費者はもちろんもっとも安い店で買います。一方、その情報をもっていない消費者は高値と認識せず買います。これはネットでもリアルでも同じです」p68
「(ハイパーインフレでも、生活は崩壊しない(スーダン))すべての価格がほぼ一律に上昇するのであれば、上昇率が非常に高くても、致命的なダメージにはならないということです」p85
「金利が上昇するという予想のもとでは、多くの人は貨幣ではなく債権を持とうと考えるでしょう。つまり、インフレの予想の下で金利が上がると、貨幣に対する需要が減るわけです」p94
「インフレを実現するには、2つの条件が必要ということがわかりました。第一の条件は、人がそれを予想し、その予想が社会のコンセンサスになることです。第二の条件は、中央銀行がだぶついた貨幣を吸収するオペレーションを行うことです。2つのいずれかが欠けてもインフレは起こりません。皮肉めいた言い方をすれば、インフレは、インフレを予想する人々と、その予想の実現に協力を惜しまない中央銀行との緊密な共同作業の産物と言えます」p96
「(フィリップス曲線)失業率と賃金上昇率には負の関係がある」p123
「中央銀行さえしっかりしていれば高インフレは必ず防げます。しかし、それにもかかわらず、高インフレが実際に起こってしまうのは、高インフレに伴って発生する失業率の改善に魅力を感じる総裁が、その誘惑に抗しきれず、高インフレを選択するからです。ですが、これに対してデフレが発生する状況は、総裁が何かの誘惑に負けて、自らデフレを選んでいるの��はありません。人々のデフレ予想が一線を越えてしまうと、中央銀行はその予想を潰す術をもたず、その結果、総裁の意向に反して、デフレが生じてしまうのです」p156
「公定歩合という名称も1995年を最後に使われなくなり、代わってコールレートとよばれる金利が日銀の操作対象となりました。コールレートは、銀行などの金融機関がひと晩だけおカネを貸し借りする際に適用される金利です。公定歩合は日銀が金融機関におカネを貸すときの金利なので貸し手である日銀自身に決定権がありました。しかしコールレートは金融機関同士の貸し借りの金利であり、日銀は当事者ではないので、日銀が自分の好きなように操作することはできません。日銀は、そのときどきの景気の状況を踏まえ、コールレートをどの水準にするのが適切かを判断し、それに基づいて金融市場に資金を放出したり吸収したりするという、資金の需給調節を行うことによってコールレートを変化させます」p162
「景気に影響を与えようとすれば、本丸は長期金利です(コールレートをコントロールしながら、長期金利に波及させる)」p163
「(バーナンキ)中央銀行の行う金融政策は98%がトークで、アクションは残りの2%に過ぎない」p164
「米国政府の危機管理能力の高さは、軍事や外交、パンデミック対応などでよく知られているところですが、金融政策運営でもそれが発揮されたと言ってよいでしょう」p166
「「Fedがコントロールする金利は、米国内の金融機関がたがいに短期の貸し借りをする際に適用されるフェデラル・ファンド・レート(FF金利)と呼ばれるものです」p170
「(シムズ)ある事柄になぜ関心をもつかではなく、なぜ関心をもたないかの方が大事と考え、自らの説を「合理的無関心」の理論と命名しました。人が無関心になるのは、怠惰や無能、感情などが理由ではない、自分の時間と関心の持ち合わせが有限であることをよく認識したうえで、理性的に判断した結果として何かの話題に対して積極的に無関心になるという選択を行う」p180
「(IMF)「世界には4つの国しかない」「先進国と発展途上国、そして日本とアルゼンチンだ」という、サイモン・クズネッツが1960年代に放ったジョークが話題になったと聞きました。このジョークは、日本の戦後高度成長とアルゼンチンの長期凋落はほかに例がないので、この2国のデータはどんな分析でも外れ値になるという意味でした」p207
「(膨大なデータ)CPIの作成を担当する総務省統計局は、県などの助けを借りながら毎月25万個の値段を収集します。これがCPIのソースデータです」p215
「ウォーレン・バフェットは「その企業が投資に値するよい企業かそうでないかを見抜くカギは、価格支配力の有無」と言い切っています。さらに彼は、価格を挙げてもライバルに顧客が流れてしまうことがないところまで行ければ、ビジネスとして大成功だ、10%の価格引き上げのために神に祈らなければならないとすればビジネスとしては失敗だ、とも述べています」p284
「(グリーンスパン)デフレが社会に定着すると、少しの値上げでも顧客が逃げてしまうのではと企業は恐れるようになり、原価が上昇しても企業は価格に転嫁できないという状況が生まれる。これが価格支配力の喪失であるとグリーンスパンは説きました。���して、価格支配力を喪失した企業は前に進む活力を失ってしまうと訴えたのです」p285
「グリーンスパンの視点が他と異なるのは、デフレは単なる物価下落ではないとする点です」p286
「(ケインズ)彼の貢献は、価格は需給を反映して瞬時に調整されるものではないという「価格硬直性」の考え方を提示したこと、そして、貨幣需要が飽和すると中央銀行の金融緩和が効かなくなるという「流動性の罠」に警鐘を鳴らしたことです」p304
「物価指数の作成に必要とされる商品の価格とシェアの情報を、政府の統計部署(総務省統計局)がすべて自前で集めているという体制の脆弱さです。しかも、その集計方法は、人海戦術で情報を集めるという昔ながらのスタイルです。この方法をとる限り、価格やシェアを頻繁に集めることは、費用がかかりすぎて不可能です。このような限界があるため、各国政府はフィッシャー指数を作ることができないのです」p319