高すぎる抗がん剤はがん患者を苦しめる
2022/04/09 21:43
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:nekodanshaku - この投稿者のレビュー一覧を見る
副題にあるように、がん治療に関する誤った政策とエビデンスがアメリカにおいて、がん患者を痛めているという。腫瘍内科医師である著者による詳細な事実の提示は、がん化学療法に少しでも関わる身として、のめるこむように読んだ。エビデンス重視といい診療するといえども、経済的利益相反の罠は、知らぬ間に医療従事者の心を蝕むようだ。薬剤臨床使用の認可権を有するFDAでさえ、本来の機能を全うしていない湯だ。化学療法の目的は、無増悪生存期間や奏効率という代理エンドポイントではなく、患者中心エンドポイントの改善であると理解した。
投稿元:
レビューを見る
大学の血液腫瘍内科医として勤務しつつ、医療政策の研究も行う著者が、がんの治療薬の承認を巡る医療政策の問題点を示した著作。
メディアでは様々ながんの治療薬が「これまでにない画期的な新薬」として取り上げられるが、そうした報道には注意した方が良い。一見、治験のような厳格な臨床試験を通じて”効果”があるというエビデンスがあるものでも、その”効果”の定義が何かは非常に重要な論点である。
本書ではその”効果”について、臨床的エンドポイントと代理エンドポイントという2つの専門的な概念を分かりやすく説明してくれる。臨床的エンドポイントとは、余命の延伸効果など、本質的に患者のためになる指標を指すが、往々にしてこの臨床的エンドポイントを把握するには相当の年数が必要となる。そのため、実際にはもう少しショートタームで把握できる代理エンドポイントが用いられる。これはがんの新薬でいえば、腫瘍のサイズを減少させるという指標が選ばれることが多い。
代理エンドポイントと臨床的エンドポイントの強い因果関係があるのであれば、代理エンドポイントに基づく新薬の承認は問題にはならない。しかし、その因果が不明確なまま、代理エンドポイントに基づく承認が安易に規制当局によって行われているということ、その結果として本当の”効果”、つまりがん患者の余命を伸ばすような臨床的エンドポイントの効果がない新薬が承認され、高額な医療費(往々にしてこうした新薬の薬価は高く設定される)が費やされている、というのが本書での大きな問題提起である。
そのための解決策としては、厳密な臨床的エンドポイントに基づく承認をルール化すること、製薬会社から規制当局に関する直接・間接の影響力を排除するようなルール整備を行うこと、など、医療政策上のイシューとしての解決策が提示される。
がんの新薬開発を巡る医療政策の一面を知る上で、非常に自身にとっては有益な一冊であったし、恐らく異論・反論もある世界なので、異なる立場の論考も含めて知りたいという気がしている。
投稿元:
レビューを見る
効いてない!?がん治療
悪いがん治療
MALIGNANT
How Bad Policy and Bad Evidence Harm People with Cancer
ダメな政策やいい加減なエビデンスに基づく治療がいかにがん患者に害を及ぼしているか
気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトのブックガイドです。第111回目のテーマは「がんの薬物療法」。 これまで、******と******と2回にわたって「がんの本質とは何か」という本を紹介してきました。そして「がん遺伝子パネル検査」がからむような、個別化高価格治療がいかに的をえていないかをお伝えしました。しかし、現実にはそうした「的をえていない」医療ががんの薬物治療の主流になっているのも事実です。
「なぜそんなことに?」・・その疑問に答えてくれるのが今回紹介する 「悪いがん治療」。現役の腫瘍内科医が、医薬品開発・医薬品行政の根本的な問題を明らかにし、医学で言われる「エビデンス重視」のワナに警鐘を鳴らしながら、患者にとっての真の利益とは何かを考えていきます。
抗体医薬ががんの治療に使われるようになり、がんの薬物療法は大きく変貌しました。確かに効果がある場合もありますが、そもそも手術療法で根治できないような進行がんに対する治療なので、大局的には「いくばくかの延命」はあるにしても「根治」を目指すことが難しいのは当然です。それなのになぜ大きく取り上げられているのでしょう。
一つには薬価がべらぼうに高く、薬剤メーカーが莫大な利益をあげられるから。一つには一定数の進行がん患者は常にいて治療の対象に事欠かず、わずかな延命に終わったとしても「そんな延命なんてムダ」とは言いにくいという心理があること。一つには大多数の人にとっては他人事で無関心なので、公的健康保険から莫大な薬代が払われていても直接的な損害意識が起きない、などの要素があげられます。
本書では①がんの薬の効果はどれくらいで、値段はどれくらいか ②がんの医学をゆがめる社会的な力 ③がん治療のエビデンスと臨床試験を解釈する方法 ④解決 の4部にわけて、臨床医が正しいがんの薬物療法に至るまでの、困難ともいえる道筋を示してくれます。
その中でも特に気を付けたいものとして取り上げられているのが「代理エンドポイント」です。抗がん剤による治療の効果判定には生死や生存期間のような客観性のあるゴール(=エンドポイント)が使われるべきなのは言うまでもありません。しかし、現実にはそうしたエンドポイントの代わりに「CT上で計測した腫瘍の大きさ」のようなエンドポイント(これを代理エンドポイントと呼びます)が使われているのです。
代理エンドポイントで「効果あり」と判定されても、患者の延命や治癒には直接つながらない場合が多いのです。「がんは小さくなったけど・・・余命は短縮した」ということが起こるのです。またその薬物を開発する人間が効果判定するわけですから、代理エンドポイントでは効果判定をする測定者の恣意性が入りかねません。代理エンドポイントを利用した恣意的なエンドポイント判定とそれを利用する製薬研究の実態がは驚くばかりです。
代理エンドポイント問題以外にも多数の事例から「製薬メーカーのご都合主義的な証拠の解釈や統計操作、研究者や政策決定者への金銭供与」や「研究者の功名心や、政策決定者の天下り先温存指向」などのさまざまなバイアスがあるのです。それを乗り越えて、がん治療医がいかにして意義のある研究論文を読み解き、正しいがん薬物療法をチョイスしていけばいいのかという道筋が示されていきます。
日本でも腫瘍内科医を目指す医師が増え、腫瘍内科を標榜する病院が出てきていますが、がん遺伝子パネル検査がこけそうなのをみてもわかるように、私には医学全体の中でそこまで大きなニーズや費用対効果のある分野だと思えません。それなのに次々と開発される分子標的薬・抗体医薬…やはり、カネになるということが一番なのでしょうか…。 「がん治療費用を保障する保険商品」は製薬会社の利益主義の存在も考えなければならないのです。
がんに対する分子標的薬・抗体医薬が注目を集めたのはつい最近のことと思っていましたが、オプジーボの発売から約9年が過ぎ、いつの間にかこの分野が創薬の主戦場となっています。日本でも腫瘍内科医を目指す医師が増え、腫瘍内科を標榜する病院が出てきています。そして次々と開発される分子標的薬・抗体医薬…やはり、カネになるということが一番なのでしょうか。
むしろ、この本のサブタイトルにある「誤った政策とエビデンスがどのようにがん患者を痛めつけるか」というフレーズが、現実の問題として重くのしかかってくるのです。そんな観点に立てば「がん治療費用を保障する保険商品」がはらむリスクもみえてくるのではないでしょうか。
投稿元:
レビューを見る
医事新報の仲野先生のコラムで紹介。著者は疫学・統計学科准教授の腫瘍内科医。がんの薬は値段が高すぎ、効果は小さすぎるという問題提示。ずっと抱いていた疑問に対する答えをきちんと与えてくれてすっきりしたとのこと。
投稿元:
レビューを見る
現代のがん治療薬は科学的有効性を論じる事が目的化されてしまい、科学的有効という評価と実生活感覚で求められる治るという印象からはどんどん乖離してしまった。
今のがん治療は効くか効かないかわかりにくいものにまで、「科学的に有効」というお墨付きをつけて治療薬として取り扱っているが、試験デザインでごまかしている治療法も実は多い。
著者、及び翻訳者は何もがん治療を否定しているわけではなく、本当に有効な治療法を見極めるにはリアルタイムで第一線の情報を評価しあえと言う。製薬会社や御用達研究者の言い分がまかり通らないためにも、結論付けられた治療薬評価をそのまま受け取るなという警鐘も兼ねた医療批判書。