紙の本
2020年上半期のコロナ禍回顧&著者のかかりつけ医への思い
2021/10/31 14:11
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投稿者:広島の中日ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は2020年まで日本医師会の会長を務めていました。当書の前半約3分の2の紙幅は、コロナ禍が始まった2020年1~6月の半年間の様子を毎月、順に振り返り、当時の日本医師会会長としてどのような活動をされてきたのかを振り返る内容となっています。
そして、巻末では著者の「かかりつけ医」としてのご自身の使命を説いています。日本医師会会長という重責を背負いながらも、終始腰が低いかかりつけ医としての主張に、著者の人間味の良さを感じられます。
紙の本
感染拡大時に医師会がどう取り組んだかがわかる
2021/11/23 19:47
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投稿者:雑多な本読み - この投稿者のレビュー一覧を見る
筆者は、2012年から2020年6月の間に日本医師会会長の任にあり、ちょうど新型コロナウイルスが海外から入り、感染拡大の時期に対処された方である。
そのためか、第1章はドキュメントとして、新型コロナが日本に入り、WHOはどう発信したのか、日本医師会はどう立ち向かったのかを詳細に書かれている。ボリュームでいえば半分以上を占めている。マスコミは新型コロナウイルスとは何かとか、政府や自治体の対応を中心に報じたが、医師会の動きや診療所・病院の対応は少なかったように思える。この書で、時間経過を追って理解できるのは貴重である。特に医師会の動きがわかる一般向け書籍は数少ないと思う。
第2章で、新型コロナウイルス感染症政策を考えるという形で、政策提起を行っている。国内生産が少ないマスクや感染防護具が、中国で生産が落ち、大幅に不足したことや感染症対応に弱い保健所、感染症対応の病床不足等の課題が明らかになり、それを丁寧に取り上げている。
第3章では、国の医療政策となっており、医師会が取り組む「かかりつけ医」の役割に触れている。地域医療を考える場合に、民間開業医が中心の日本の医療体制で、かかりつけ医をどう位置づけるかは重要な問題である。
新型コロナウイルスに対する政策等について、どういう立場から見るにせよ、本書は欠かせないものである。
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これまで推進されていた地域完結型医療に感染症が想定されていないとの指摘は同意ですが、提言されているかかりつけ医の役割については現状認識も含めて、いまひとつ納得できないところがあります。
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〇新書で「コロナ」を読む④
横倉義武『新型コロナと向き合う』(岩波新書、2021)
・分 野:「コロナ」×「医療」
・目 次:
はじめに
第1章 <ドキュメント>新型コロナウイルス感染症との半年間
第2章 新型コロナウイルス感染症対策を考える
第3章 「かかりつけ医」の果たす役割 感染症の教訓とともに考える
おわりに
・総 評
本書は、新型コロナウイルス感染症拡大に直面した医療界の動きを記録したものである。著者は、日本医師会会長(第19代)としてコロナ第一波に対応した人物であり、第1章では会長としての動きを月単位で整理している。
なぜ、感染症拡大によって医療は逼迫したのか――その点を考察したのが第2章以降であり、ポイントは以下の3点にまとめられる。
【POINT①】PCR検査をめぐる混乱――行政と医療の攻防
コロナ第一波で問題となったのが「PCR検査」をめぐる混乱であった。もともと、検査の目的には「診断・治療」(医療検査)と「感染の拡大防止」(行政検査)の2つが想定されているが、検査体制が不十分な中、双方の需要に応えるため、行政側が主導権を握り、画一的な基準で検査の可否を判断したことが要因だと指摘する。そのため「医療としての検査」の要否を医師が判断したにもかかわらず、検査を受けられないという事態が生じたという。
【POINT②】地域医療と感染症医療
もともと、日本の医療は「地域医療」を中心としてきた。即ち、一つの医療機関が全てを引き受けるのではなく、中小病院が地域密着型の医療を、大規模病院が高度急性期医療をそれぞれ担当するなど、地域における役割や機能に応じた医療提供体制を築いてきた。しかし、感染症医療は、一部の専門医療機関が全てを担う体制になっているため、地域の医療体制との連携がうまくいかず、重症者数が急増した場合に指定医療機関以外の医療機関に入院医療を確保することが困難になってしまった。
【POINT③】「かかりつけ医」という存在
新型コロナ医療を、従来の「地域医療」の理念に基づく体制に組み込むには、医療と社会の双方から考慮し、患者にとってのベストを考える「かかりつけ医」の存在が重要だと指摘する。特に高齢化社会が進む中で、大病院を頂点としてかかりつけ医を底辺とする医療のみの「垂直連携」(治す医療)から、かかりつけ医機能をもつ医療機関が同じ目線で連携する「水平連携」へのパラダイムシフトが起きており、地域社会の一員としての役割を担う「かかりつけ医」の育成が急務だとする。
従来の「地域医療」と感染症医療のあり方の違いは、コロナ禍での「医療逼迫」をもたらした要因として重要な指摘である。また、この「地域医療」を支える存在が「かかりつけ医」であるとする点は、著者の医師としての信念が垣間見れる部分でもあった。
また第1章の内容は、新型コロナウイルスに対する医療界の奮闘をまとめた記録としての価値も高い。ここでまとめられている分析を基に、さらに行政側からの視点などを踏まえることで、コロナ禍での「医療逼迫」という問題の本質により迫れるのではないだろうか。
(1100字)