紙の本
吸血鬼という題材の豊かさ
2024/02/15 14:09
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投稿者:ブラウン - この投稿者のレビュー一覧を見る
吸血鬼物の古典として史料価値の高い作品を納めた選集である。高名なラスヴァンやヴァーニーの他、当時の米英世界に蔓延していたであろうエキゾチズムやキリスト教的世界観、果てはシュールな展開の物やクトゥルフ的なコズミックホラーテイストなど、100年以上前にして既に吸血鬼のイメージは豊かであったことをありありと感じ取れる。
特に「魔王の館」は、生成AI論争が巻き起こる2024年現在を予言しているかのようで、作家の想像力と先見性、それらの能力を育んだ知識の豊かさもさることながら、未知への渇望がここまでの仕事を成しえるのかと驚嘆せずにはいられない。
こうして傑作が集められ、手に取って読めるのはありがたい!
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ジョン・ポリドリ「吸血鬼」の新訳目当てで購入、読了。
吸血鬼小説の鼻祖とされる
ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』より前に
発表されていた19世紀英米の吸血鬼小説アンソロジー。
【収録作】
ジョージ・ゴードン・バイロン
「吸血鬼ダーヴェル――断章」(Fragment of a Novel,1819)
ジョン・ウィリアム・ポリドリ
「吸血鬼ラスヴァン――奇譚」(The Vampyre:A Tale,1819)
ユライア・デリック・ダーシー
「黒い吸血鬼――サント・ドミンゴの伝説」
(The Black Vampyre:A Legend of Saint Domingo,1819)
ジェイムズ・マルコム・ライマー&
トマス・プレスケット・プレスト
「吸血鬼ヴァーニー――あるいは血の晩餐」
(Varney the Vampire;or the Feast of Blood,1847)
ウィリアム・ギルバート
「ガードナル最後の領主」(The Last Lords of Gardonal,1867)
イライザ・リン・リントン
「カバネル夫人の末路」(The Fate of Madame Cabanel,1873)
フィル・ロビンソン「食人樹」
(The Man-Eating Tree,1881)
アン・クロフォード「カンパーニャの怪」
(A Mystery of the Campagna,1886)
メアリ・エリザベス・ブラッドン
「善良なるデュケイン老嬢」(Good Lady Ducayne,1896)
ジョージ・シルヴェスター・ヴィエレック
「魔王の館」(The House of the Vampire,1907)
※この作品のみ例外的に20世紀に入ってからのもの。
ジョン・ポリドリ「吸血鬼」の新訳目当てで購入、読了。
吸血鬼小説の鼻祖とされる
ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』より前に
発表されていた19世紀英米の吸血鬼小説アンソロジー。
やはりモダンホラーよりゴシックの方が自分の好みに合う……
と再認しつつ、表題作以外はあまり刺さらなかった。
概ね中途半端なボリュームで、
読んでいるうちに飽きてしまいがちだったせいかもしれない。
収穫はバイロンの未完の作「吸血鬼ダーヴェル」に
描かれなかった終盤の流れをポリドリが流用して
「吸血鬼ラスヴァン」が完成されたのを確認できた点と、
以前、原著のペーパーバックを
買って読もうかどうしようかと迷った
ライマー&プレスト「吸血鬼ヴァーニー」の抜粋を
読めたこと。
《ヴァーニー》は1845~1847年に英国の廉価週刊誌で
連載された長編“三文恐怖小説(ペニー・ドレッドフル)”
全232章(!)の抄訳。
フランシス・ヴァーニーと名乗る吸血鬼が
生き長らえるために人を襲って血を啜ったり、
財産を奪おうと画策したりするのだが、
複数の筆者によって書き継がれたらしく、
類似パターンのエピソードを繰り返すかと思えば、
主人公の来歴に都度矛盾が生じるといった
脈絡のなさを提示してもいる、歪な長編小説。
しかし、不自然なまでの長大さと、
ある種のデタラメさが、却って不老不死の吸血鬼なる
不条理な存在を活写することに貢献したと
言えるのではなかろうか。
*各編についてのコメントは後刻ブログにて。
https://fukagawa-natsumi.hatenablog.com/
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『吸血鬼ドラキュラ』以前の19世紀英米吸血鬼小説アンソロジー。
本邦初公開の作品を中心に10篇を収録。
吸血鬼ダーヴェル―断章 ジョージ・ゴードン・バイロン
・・・人物描写と情景の妙。未完なのが残念。
吸血鬼ラスヴァン―奇譚 ジョン・ウィリアム・ポリドリ
・・・彼と出会い、興味を抱いたことが悲劇の始まり。
黒い吸血鬼―サント・ドミンゴの伝説
ユライア・デリック・ダーシー
・・・不条理でナンセンスなれど、黒人奴隷問題提起も。
吸血鬼ヴァーニー―あるいは血の晩餐(抄訳)
ジェイムズ・マルコム・ライマー
トマス・プレスケット・プレスト
・・・全232章から数章を抜粋。処女の血を求めて彷徨う男の遍歴。
ガードナル最後の領主 ウィリアム・ギルバード
・・・横暴な領主と占星術師との対峙。そして妻に迎えた娘は。
カバネル夫人の末路 イライザ・リン・リントン
・・・地主の新妻と迷信深い村人たち。嫉妬と羨望、不安が
入り混じり、起こる事件。この女は吸血鬼だ!
食人樹 フィル・ロビンソン
・・・動植物研究家が描く、蠢く枝葉が徐々に迫る恐怖。
カンパーニャの怪 アン・クロフォード
・・・古屋敷に籠った男と呼応するように倒れた男。
その屋敷の地下坑の霊廟で友たちが見たものは。
善良なるデュケイン老嬢 メアリ・エリザベス・ブラッドン
・・・念願の老婦人付添婦になったベラ。元気いっぱいの
彼女だったが、徐々に衰弱していく。その理由は?
魔王の館 ジョージ・シルヴェスター・ヴィエレック
・・・『ドラキュラ』以降の作品から。抗えぬ威厳と
カリスマを備えた男に魅了される青年の運命とは。
解説-ドラキュラ伯爵の影の下に
注記一覧有り。
『吸血鬼ドラキュラ』以前の9作と以後の1作での、
19世紀英米吸血鬼小説アンソロジー。
バイロンの未完の作品から始まり、同年アメリカの異色作品、
ゴシックからヴィクトリア朝文芸への様々な作品、
週刊連載形式の三文恐怖小説、そして『ドラキュラ』以降の
作品までの、様々な吸血鬼小説を紹介している。
植民地やアフリカからの奴隷、簒奪者と農民や農奴の当時の情勢。
まだ科学発展以前の、土地の瘴気説、輸血思想がある一方で、
処女の生き血を首から摂取、ゾンビ、宿命の女等、
その後の吸血鬼小説に見られる特徴の先駆も、登場。
ちょっと尻切れトンボな作品もあるけど、それぞれの描く
吸血鬼の姿が様々で、ある意味吸血鬼かもしれないものも。
それぞれのホラー感覚がなかなかの妙味。
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「吸血鬼ドラキュラ」以前の傑作集ですから、もちろんドラキュラを超えるような小説があるはずありせん。更に吸血鬼に出てこない話もあったりするのですが、一番面白かったのは表題作、ポリドリの名作「吸血鬼ラスヴァン」。若き紳士オーブリーが旅の友に選んだラスヴァン卿。旅の途中でラスヴァンの正体を知るも山賊に襲われラスヴァンは「自分のことは誰にも話すな」と言い残して命を落とす。しかし死体は消えてしまった。その後ちらつくラスヴァンの影そして彼との約束。怯えるオーブリーにとって最悪の結末が待っていた!
話がよくできてますね。現実なのか神経症なのか。恐怖が募っていきます。
そしてドラキュラ以前のもう一人のスター「吸血鬼ヴァーニーあるいは血の晩餐(抄訳)」。この話は英語でも全2巻で900ページくらいあるらしく抄訳は他のアンソロジーにも翻訳されてて読んだことあるけど、まあ、部分的に読んでもよくわからない。抄訳なんで仕方ないですね。