紙の本
渦中の人間はみな一途
2023/03/12 15:37
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投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
室町幕府も成立以来百年を越え、様々な問題が絡み合い機能不全を起こしていたころのある御台所の物語。
冒頭、16歳の富子が義政に嫁ぐべく京の市中を輿に揺られてゆくシーンから始まるのだが、このときすでに沿道の民の暮らしに着目している彼女の視点がすでに広く、大きいことに驚かされる。普通なら夫となるべき相手の人となりや、後宮内の派閥争いなどに不安を抱いてもおかしくないところだが、上に立つ者の責務をしっかり自覚している点がやがて幕府を背負って立つ後の運命の片鱗をみせている。
一方の八代将軍義政や側近である伊勢貞親たちはというと、人間的にはそれなりに教養もあり魅力もあるのだが、如何せん武家政権が抱える根本的問題(争いごとは武力で解決することに走りがち)が頂点にまで高まっている当時の政局を掌握するにはとても器量が足りず、将軍家の威令もまったく効かない大名たちを抑えるすべはないありさまだ。
深刻な事態のはずなのに、将軍家の跡目争い(義政自身が種をまいた)と、各大名家の家督争いやら貿易の利権をめぐる対立などが絡まり合い、当事者たちの右往左往がほとんど喜劇のようで、義政と義視とのやりとりがとくに可笑しく、途中から笑いながら読んでいた。
直属の家臣であるはずの奉公衆たちは、各地方に土着化してしまい、幕府草創期から足利家に仕えていたはずの被官たちも、主が京へ行ってしまってからはほぼ独立状態だという。これでは一朝ことが起こっても招集できる兵もいない。こんな状態を知りもせずに将軍職就任を受けた義視も義視なら、内情を知らないならこれ幸いと重荷を投げ出す義政も義政だ。どうしたって笑えてしまう。
そんななか、孤軍奮闘する富子は勇ましくもあるが、抱えきれない重荷に打ちひしがれないか心配になってくる。
幕府の運営とはいえ、実際のところ家庭内争議に近い気がする。無責任な夫や自滅してゆく息子をしりめに、ひとりで奮闘するごく平凡な妻の姿を富子のなかに見てしまうのはなぜだろう。
やがて中途半端とはいえ、なんとか洛中での10年以上に及ぶ内乱は終息に向かう。しかし発端となった火種は解決されず、地方に飛び火する結果となり、各地で大名たちが自立してゆく戦国の世がはっきりと見えてくる。
だが富子個人としては、本来の能力以上のことを成し遂げたというある種の達成感は確かにあったと思う。帝との愛など平穏な時代なら決してありえなかったはずだ。
最後に再び市の喧騒の中に立った富子は、あるデジャヴを見る。自分と同じ時代を生き、娘をもうけ懸命に立ち働く初老の女の姿にもうひとりの自分を見た彼女の人生はけっして徒労ではなかったと思わせてくれる。
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室町幕府最強の御台所
2022/05/23 16:40
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投稿者:nekodanshaku - この投稿者のレビュー一覧を見る
室町幕府八代将軍足利義政に嫁いだ日野富子は、経済力で応仁の乱を収束させ、世に静謐な生活をもたらそうと足掻いた。知恵と財力だけで室町幕府を、世の中を欲望のままに蹂躙しようとする男たちと渡り合い、社会に静謐をもたらした一代の女傑であった。強き御台所であったと思う。銭の力、経済力の社会を動かし変えていく力は、それでも戦国時代の招来を回避できなかった。日野富子は、幸せであったのだろうか。
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千四百年代後半の約五十年間の室町幕府足利義政に嫁いだ富子の生涯だ。全く将軍として又武将として資質の無い義政世は千々に乱れる。応仁の乱を如何に生きるか、民の苦難を考え世の平和を取り戻すかに生涯をかけた女性の話だった。何時も著者らしい作品には感動がある。
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紐解き始めると、頁を繰る手が停まらない、否、「停められない」というようになってしまい、素早く読了に至ったのだった。
「応仁の乱」の時代を背景とした物語である。主要視点人物は、室町幕府の8代将軍であった足利義政の正室、日野富子である。
“室町幕府”の体制に関して、持続していた制度が疲弊、或いは形骸化し、様相が当初とは大きく変わり、様々な混乱が生じていたような時期、方々の有力家門での内訌が折り重なるようなこととなり、東西各陣営が形成されて戦乱が生じてしまうという時代、そしてその戦乱を収拾して「静謐」をもたらすことが難航したという時代の物語である。
そういう時代の中、「将軍家に嫁ぐ」ということを半ば運命付けられていた日野富子が「如何に生きようとしたか?」、「自身の歩みの中で何を見出すか?」というのが本作である。
世に「静謐」をもたらすためには如何にすべきか?日野富子は考える。そして行動する。そういう他方、妻として、母として、女としての生き様が在る。それが活写されていて、実に興味深い物語となっている。
更に、持続していた制度が疲弊、或いは形骸化したが故に混乱が生じていることに関しては、「属人的な要素」が追い打ちを掛けてしまっている側面も在る。それを「高い位置に在る者」として見詰め、行き詰った様相を何とか打開しようと奮闘する日野富子の姿という物語とも言えるかもしれない。
本作に登場する人物達だが、ヒロインの日野富子に限らず、夫の足利義政に息子の足利義尚、兄の日野勝光、細川勝元や山名宗全という人達、或いは土御門帝、その他多くの面白い人物達が登場する。正しく「大河ドラマ」だ。
或いは「この作者らしい?」とも思ったのが、「後の北条早雲」が「伊勢新九郎」として意外に大切な役割を担っていることである。
実は、最近偶々京都を訪ね、一条堀川やら相国寺、或いは御所(京都御苑)の傍を歩き廻る機会が在った。その辺りというのは、本作で描かれる「応仁の乱」の戦いが展開したような場所でも在る。一条堀川の方面は、「応仁の乱」に由来する「西陣」という通称が残っている訳だ。そういう意味でも興味深かった。
地位や名誉を賭しての武力衝突と国土や人民の疲弊という状況に対し、人々のあらゆる営為を支える経済活動というモノが在る。その後者に着目したという女性が、激震した時代をどのように駆けたか?非常に面白い物語だ!!
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日野富子の話。
手段はどうであれ、立場を自認し、できることをする。
時と共に感情も変わる。個人としての幸せも、もちろんあって良い。
伊東さんの作品は、どれも感情表現が上手い。それぞれの登場人物に感情移入し、いつも共に悩まさせられる。もちろん、良い意味で。
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日野富子を描く歴史小説。
日野富子を描く小説を読んだのは永井路子さんの「銀の館」以来かと思います。
TVドラマでも大河の「華の乱」しかないと思いますので、日野富子目線での物語は希少かと思います。
一般的には無能な八代将軍義政の裏で好き勝手していたイメージですが、彼女目線になれば時代に翻弄されながらもがく姿が描かれていると思います。
本作での注目点は実在の骨皮道賢や伊勢新九郎(北条早雲)の史実にはない使い方です。
伊勢家についてはゆうきまさみさんの漫画「新九郎、奔る!」の方が詳しいので、そちらで予習したようなものですが、若き早雲(新九郎)の活躍は面白いですね。
天皇との色恋や義政との和解など女性としての物語もうまいと思いますが、将軍継承問題はいい人に書きすぎとも思いました。
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応仁の乱は全然興味がなかったが日野富子の生涯に興味を持ち読了。強い女性の一言に尽きるが、最初が肝心と将軍家に嫁いだ時から舐められないように強い女性を演じてきた。重圧に耐えれない夫を持ったので民のために前に出る羽目になり、しかも道楽にふける将軍に愚痴も言わず支える。そして息子も将軍の器ではなく一生に渡り苦労が絶えない人生。多分最後は筆者の願いで夫も息子も富子に感謝の言葉と、晩年は帝との交流で富子の生涯で1番の幸せを描いた事で報われた人生で終わらせたかったぐらいに壮絶な人生だった。
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東班衆が出てきましたか、で、新九郎ね
骨皮道賢をそんな使い方するとは!
面白い!ふっきりました(´・ω・`)
物語に引込まれるには主人公の性格設定
が明確でないといけないが、誰もが知る
エピソードに向かう段取りが整っている
ので夜更かしして読んでしまった
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富子はこの時代にすでに国債や投資信託のような事をやっていた。武力に乏しい将軍家の権威を財力で取り戻そうとするあたり、普通の女、
いや男も含め凡人には思いつかない発想と行動力がある。
戦争を利用して私腹をこやした悪女と言われるが、上に立つものには財力は必要、それを弁えている所がこの人の凄い所だ。幕府にとって、少なくとも足利家にとってはいい奥さんなのじゃないかな。