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紙の本
光り輝く、少女の笑顔を。
2005/11/03 07:06
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
4つの短編からなる本作品。それぞれの作品名に、花の名前があしらわれている。「桜」「萩」「忍冬(すいかずら)」「朝顔」。そしてそれぞれの花を象徴するかのような、少女4人が登場するのも本作を特徴付けている。必ずしも物語のの中心では無いけれど、まさに「花を添えている」といった感があるのだ。女性は誰もが少女の頃の一瞬、何の化粧も飾りもしていないのに、光り輝くように美しい時期がある。その一瞬を見事にとらえた、四作が並んでいる。
「いっぽん桜」。江戸の大店に長い間勤め、頭取番頭にまでなった長兵衛であったが、ある日突然暇を出されてしまう。可愛い娘の祝言が近づいており、無職というわけにもいかない。そこで長兵衛は、近くの魚屋に勤める事にした。しかし、大店の番頭だった矜持が長兵衛の態度を尊大にさせ、お店の面々とうまく渡り合えない。そんな時、続く大雨から大水となり、長兵衛の家も流されてしまいそうになる…。
「萩ゆれて」。親の敵と木刀試合に望んだ兵庫であったが、手痛く痛めつけられてしまう。湯治の為に逗留した漁師町。そこで、たまさか一人の女性をまむしから救う。それが縁でその女性りくの家族と仲良くなり、家にもたびたび訪れるようになる。漁師の職を手伝う中で、兵庫は漁師の仕事に魅力を感じると共に、りくにも急激に惹かれていく。そしてとうとう、武家を捨てて漁師になる決断をするのだが。武家の矜持を捨てられない、病床の母親は頑としてりくとの事を許さない。心通わぬままりくと祝言を挙げ、魚屋を始めた兵庫であったが。
「そこにすいかずら」。江戸で大繁盛の料亭、常盤屋。その常盤屋ののれんを、ある日汚い身なりの者がくぐった。常盤屋はその者を追い返さず、桜湯を持ってもてなすのだが。この者実は酔狂事で有名な、かの紀伊国屋文左衛門「紀文」であった。差別無い対応を気に入った紀文は、その後常盤屋を愛用し、大枚を費えるようになる。ついには紀文と組んだ大仕事で、大変なお金を手に入れた常盤屋の主人治左衛門。もう目に入れても痛くない、一人娘秋菜の為に「日本一の雛飾り」を作らせる。2年以上の時間と3千両の費えを使って作られたその雛飾りは、まさに日本一の出来栄えだった。だが、蜜月は長く続かない。母屋を火事で無くした常盤屋、普請の度にやはり火事で家を焼失してしまう。ついには、燃え行く建物と一緒に治左衛門は力尽きる。雛人形と取り残された秋菜。もう二度と立ち直れないかと思われるほど、落ち込んでしまう。そんな時、紀文からかけられた一言で、秋菜はある事に気づかされた。
「芒種のあさがお」。34歳にして、とうとう待ちに待った子供を授かった徳蔵。可愛い一人娘に「おなつ」と名づけた。元来本を読むのが大好きな徳蔵、事あるごとにおなつに「朝顔」の本を読んで聞かせた。おなつ懐妊の話を女房おてるから聞いたとき、徳蔵はなぜか頭のなか一杯に朝顔を連想したからだ。おなつ17歳の年、初めて行った深川八幡様の水掛け祭りで、江戸随一の朝顔職人要助の息子、亮助と出会う。恋仲に陥った二人は婚姻を許され、おなつは亮助の元に嫁いでいく。亮助の母親おみよは易断に凝っており、家内のありとあらゆる事を易断で細かく決めていた。あまりに細かいその取り決めに、つらい日々が続くおなつであったが…。
どの作品に登場する女性も溌剌としていて、美しい。また少女の幼少からの成長を描く事で、読む側は少女が大人に変わっていく様に、思わず目を細めさせられてしまう。そしてどの作品にも共通して垣間見えるのは、父親の深い愛情だ。形こそ違え、娘がいとおしくていとおしくて堪らないという感情が、どの父親からもひしひしと感じられる。残念ながら私に娘はいないけれど、年頃の娘を持つお父さんには、ぜひ読んでみてもらいたい一冊だと思った。