紙の本
屈託の多いヒロイン登場
2024/03/29 19:38
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投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
ドイツミステリーといえばノイハウスなど若手の活躍の目立つ感があるが、大御所といっていい著者リンクの新しいシリーズ一作目ということで読んでみた。
実際リンクの作品も初めてだったが、なるほど国民的作家の名に恥じないスピード感とストーリーの面白さだった。さらに言えばこの作品を差別化しているのは、徹底的に地味で自信のない、けれど寂しがり屋でどうしようもない孤独感をもてあましているヒロインの性格設定だろう。
ロンドン警視庁の中堅女性刑事といえば、明確な目的意識を持ち、手段を選ばないがむしゃら直情タイプが思い浮かぶが、本作のケイトは組織の中で生き残るのさえ難しそうな繊細で引っ込み思案な、それでいて無自覚なプライドも持っているという性格づけがなされている。
39歳で独身だが、恋人も心を打ち明けられる友人もいない彼女の唯一の拠り所が、実家のあるヨークシャーのスカルビー警察で伝説の刑事と呼ばれた父のリチャードだ。父親であるだけでなく、刑事としての大先輩でもあるリチャードとケイトの交流は、見ようによってはお互い親離れ子離れしていないようだが、自分の人生で思うような人間関係が築けなかったひとが、唯一頼れて安心できる相手が家族だけというのは、社会生活で他人との関係に神経をすり減らしている現代人からすればさほど歪だとも思えない。かえってそんな家族がいることを羨む人もいることだろう。
そんな「強くない」ヒロインが、読者の心を掴んだのも不思議ではない。
引退したリチャードがある日、自宅に侵入した男に拷問の挙句、無残に殺害される。
数か月たっても捜査に進展のない状況に、ケイトは長期休暇をとって故郷に帰ってくる。被害者家族という今までにない立場にたった彼女に情報を与えてくれるのが、捜査担当のケイレヴだが、彼もまた大きな問題を抱える人間で、謎多き事件捜査と傷つき自分を持て余しているケイトへの対応に神経をすりへらす。
さらにフリーの脚本家で燃え尽き症候群に陥っているジョナスと妻のステラ、彼らの下に我が子を養子にだした精神的に不安定なテリーと得体のしれないその恋人ニールが絡んでくるというサイドストーリーが並行して語られ、二つの世界がいつ、どういう形で出会うのかが興味を高めるという王道ミステリーの面ももっている。
とにかく上巻を読んだ限りでは、ひりひりした孤独と必死で誰かを求める人間の心情が前面に押し出され、通常のミステリーとは一線を画している感が強い。正式な捜査権のないのに勝手に動き回るケイト、誰からも大切にされた経験のないテリー、不安感から逃れるために孤独を求めようと人里離れた農家へ休暇に行くジョナス夫妻、と孤独がいかに心のバランスを乱すかという展開に下巻への期待がいやが上にも高まっている。
紙の本
クライムミステリー
2022/06/30 12:43
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投稿者:くみみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
世界最大級の警察組織・ロンドン警視庁で爪弾きにされている冴えない女性刑事が、定年後も慕われる元警部である父の惨殺事件を追及するクライムミステリー上巻。
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吐露できない気持ちのほとんど全てを共有しました。表に出すことをあきらめていた気持ちばかりです。自分にはどうしようもない渦に巻き込まれて、気づいたら大切な家族まで巻き込んでいて、全力で抜け出そうとしたのに精一杯心を尽くしたのに、また選択を間違えたことに絶望する……その気持ちを、行動を、自分自身では言語化することができなかった部分まで詳らかに書き込まれていました。
そして、その全てが集約された最後の文。
そうだ、私の手に、私の人生は、今、ある。そう思わせてくれる小説でした。
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ケイト・リンヴィルには女性らしい魅力がない。
小柄で、痩せっぽちで、影が薄い。
愛嬌はなく、可愛げもなく、色気もなく、恋人もなければ、友だちすらいない。
その上、父親を亡くした。
たったひとりの家族だったのに、残虐に殺された。
犯人はまだ捕まっていない。
父リチャードは、退職した元刑事だった。
きっと彼を逆恨みした奴の仕業に違いない。
闘え、ケイト!
スコットランド・ヤードの名にかけて!
と、思ったら――
誰か知らない人の話が進む。
テレビドラマの脚本家で、なかなか子供ができず、不妊治療でローンが嵩み、ようやく養子はもらったものの、彼はバーンアウト寸前で・・・・・・
いやいや、元刑事の殺害は?
とはいうものの、こちらの話も興味深い。
脚本家一家の話と、娘刑事の話とが、交互に描かれる。
二つのつながりは、さっぱりわからないままに。
これからどうなるの?!
こっちはどうなるの?!
二つのハラハラに引っ張られて、読み進んでしまう。
ケイトは、実はスコットランド・ヤードの刑事である。
しかし、昇進は遅れ、同僚とはまったくうまくいかず、仕事もうまくいかず、自分に自信がさっぱりもてない。
公私ともにだ。
この人物像がよかったのだろう。
本国ドイツで好評を博して、ケイト・シリーズとなった。
現在、3作が出版され、4作目が9月に出版される。
そして、日本では、2作目『 Die Suche 』が翻訳出版決定という。
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いいですねー、この書きっぷり。ベースとなる事件にサイドストーリーがかぶさる、どうなっていくのかページを捲る手が止まらず、ゾクゾクします。いろんなことが浮かんできて、その中の一つが的を射るかも。でも、驚愕のラストに期待します。さあ、下巻!
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スコットランドヤード刑事のケイトと父親の惨殺事件。片や子を巡る実母と養父母の不穏な出来事。どうなるのかハラハラして読み進めたら少し道筋が見えそうになった所で上巻が終わる。早く下巻が読みたいと思える作品。
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設定も展開も読み手にかなりストレスを与えるし、この人と話しても何もわからずな部分も多く読み飛ばしていたら、いきなり暴力的に、じゃあ下巻も読むかと。
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スコットランド・ヤードの女性刑事ケイト・リンヴィルが休暇を取り、生家のあるヨークシャーに戻ってきたのは、父親でヨークシャー警察元警部・リチャードが惨殺されたためだった。名警部だった彼は、刑務所送りにした人間の復讐の手にかかったのだろうというのが地元警察の読みだった。激しい暴行を受け自宅で殺されていた父。いったい誰が、なぜ……?
初めて読む作家。もう一つの事件が同時並行で描かれる。どうなる、後半。
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自転車にのって得意満面の男の子、斬殺されたヨークシャーの退職刑事、養子の実母から電話がかかってきてしまった脚本家、この散らばったそれぞれの人生。そこに殺された刑事の娘でスコットランドヤード刑事のケイトが父の死の謎を追及する。訳がよいのか原文もよいのか、え?どこでどうつながるの? と先が読みたくてたまらない。そして謎がほぐれてゆくにつれ、えぇー、そんな・・ でも最後には地平が見える。いままでとはちがった地平が。
原題は「DIE BETROGENE」 だまされた の意味。邦題は「裏切り」となっているが、だまされた、そしてそれは裏切りだ、ともいえる内容だった。だまされたのは誰か、娘のケイトであり、元刑事の同僚たちもか。
2001年9月14日金曜日、小学校に上がったばかりの5歳の男の子は買ってもらったばかりの自転車に乗っていた。あと2分でそのレーサーとしてのキャリアが終わるのも知らずに・・
2014年2月22日土曜日 ヨークシャーの警察を退職して一人暮らしの刑事ルチャード・リンヴィルは未明、侵入してきた何者かによって、椅子に縛り付けられ斬殺された。死ぬ間際その男が誰なのか分かった・・
4月28日月曜日 ジョナス・クレインは脚本家だが強度のストレスを抱え、医師から2週間、外界との接触を断ち休養するようにと言い渡された。家には妻と不妊治療の末、5歳の養子のトミーがいたが、ある日トミーの生みの親から電話がかかってきた・・
これが最初に示される場面。次に殺されたリチャード警部の娘でスコットランドヤードの刑事になっているケイトが実家に戻り、父がなぜ殺されたのかを探ってゆくのが物語。
2015発表 ミュンヘン Blanvalet出版社より
2022.6.30初版 図書館
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ドイツの国民的人気作家シャルロッテ・リンクの作品。
なぜか舞台はイギリスが多く、これもそうです。
ヨークシャーで退職した元警部リンヴィルが殺され、一人娘のケイトが休暇を取って戻ってくる。
ケイトは、スコットランド・ヤードの刑事だった。捜査に参加は出来ないが、じっとしてはいられない。
捜査に当たる警部ケイレブらにいささか邪魔にされながらも、諦めることは出来なかった。
内気な性格で友達もいないケイトにとって、毎週電話していた父親は、唯一の心の支えだったのだ。
仕事柄、犯人は恨みを持つ犯罪者ではないかと思われたが‥
一方、スランプに陥っているシナリオライターが妻子とともにヨークシャーの農場に引っ越して来た。
子どもは養子で、実母と名乗る人間から連絡があり‥?
事件とどう絡むのかはなかなかわからないが、不安な状況がじりじりと描かれます。
地味で暗いケイトは、女刑事としては異色。
本来は優秀だったのに、最初の頃の二つ三つのつまずきですっかり自信を失い、今では署内でもほとんど無視されるような存在だった。
この設定からの展開が面白いですね。