紙の本
最初からやり直し
2001/12/20 08:21
5人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:小田中直樹 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ずいぶん昔、まだ高校生だったころ、「これは名作だから読んどけ」っていわれて、僕はイギリスの歴史家エドワード・カーの『歴史とは何か』(岩波新書)を手に取った。タイトルは大雑把だし、これは楽勝だろうって思って読みはじめたんだけど、これが大間違い。あとで知ったけど、これは世界を代表する現代史家が歴史学について深く鋭く考察した、まさに玄人向けの一冊で、高校生の素人の手におえるような代物じゃなかった。そして、その出版から四〇年たって、同じタイトルの本が出た。この野心的な本のなかで、著者の岡田さんは、世界の文明ごとに歴史認識のあり方を比較し、日本史を例にとって歴史と神話の関係を論じ、現代史の特徴を解説した。
この本のメリットは、歴史の問題は時間をどう認識するかにあり、その認識のし方がまさに文化なのだと指摘したうえで、インド、イスラム、アメリカ合衆国、中国、地中海、日本という世界中の文明について、歴史認識の特徴を抽出して比較するという、野心的で膨大な作業に取り組んだ点にある。その際、岡田さんは、直進する時間の観念、時間を管理したり文字を記録したりする技術、そして因果関係の思想が揃わなければ歴史は成立しないと考え、インドとイスラムと合衆国は「歴史のない文明」であり、中国と地中海は「歴史のある文明」だと主張する。たしかにインド文明で重要なのは輪廻の思想であり、イスラム文明では因果関係は神の領域にあり、合衆国文明は過去を顧みないっていわれると、もっともな気がする。また、同じ「歴史のある文明」でも、中国文明の歴史観では「変化があってはならない」(四一ページ)のに対して、地中海文明の歴史観では「世界は変化する」(五九ページ)っていわれると、これまた「うーむ」と唸るしかない。分明と文明が理解しあうのは、こんなに歴史意識が違うとすると、なかなか大変なことだろう。
この本のデメリットは、おもに日本史と現代史を論じる部分に関わって、次の二点にある。第一、立場が揺れてわかりづらいこと。たとえば、「歴史」って言葉を、実際に存在した過去の事実って意味で使ったり、それを叙述したものって意味で使ったりする。世界の変化には法則(筋道)はないって理由で「発展段階論」を否定しながら、筋道のない世界に筋道を与えるのが歴史だって主張する。歴史は科学ではなくて物語や文学だっていいながら、「よい歴史とは、結局、資料のあらゆる情報を、一貫した論理で解釈できる説明のことだ」(二二〇ページ)っていう。国境を超えた歴史である世界を描かなきゃいけないっていいながら、「国民国家の垣根を越えた共通の歴史認識を持つということが、いかにむずかしく、危険なことであるか」(一二六ページ)って断言する。歴史の使命は権力の正当化にあるっていいながら、歴史から価値判断を排除することを説く。
第二、根拠なく断定すること。たとえば、集団的なアイデンティティは誕生したときの事情に最後まで影響されるとか、現代史では細部が問題だとか、歴史の主流は政治史だとか、現代史を見分ける基準は国民国家だとか、世界史は良くて一国史は悪いとか、どれ一つとっても、真面目に論じるためには本が一冊必要になるような断定がてんこもり状態なのだ。一九世紀以後に出来た概念を使って一八世紀以前の歴史を叙述しちゃいけないっていう不可思議な主張もみつかるし、この本を読んでも「歴史とはなにか」はわからない。
もしも「看板に偽りあり」になりたくなかったら、「歴史」って言葉を定義し、歴史の書き方を解説し、歴史の客観性について説明し、国民国家のこえ方を提唱し、歴史と価値判断の関係を検討し、ものごとを整理するために使う概念の働きを考えなきゃならないだろう。おっと、つまり「全部最初からやり直し」ってことじゃないか。[小田中直樹]
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作られる歴史の姿について書かれた本です。
まさに記録されていく「歴史とはなにか」について考察する本。
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そもそも歴史ってなによ?
ということが簡単な文章でつづられている。
「人は歴史にファンタジーを求めている。」
という指摘にギクリ。
いいじゃん・・・夢見たって。
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負け惜しみの「中華思想」とは名言ではないでしょうか。国民国家の説明がまた分かりやすかったです。これから歴史がもっと楽しめそう。
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大学入試の論文勉強用にみっちり暗記した本。
歴史とは歴史家と事実との間の相互作用の不断の過程であり、現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話なのである。
歴史を学ぶ人は必ず一度は読む本。
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一般的に歴史とは何かというのが書かれています。歴史とはどのようなものか知りたい人は読んでみると面白いと思います
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歴史に関する深い考察。
歴史=人間の住む世界を時間と空間の両方の軸に沿って、それも一個人が直接体験できる範囲を超えた尺度で、把握し、解釈し、理解し、説明し、叙述する営みのことである。
歴史の成立する前提条件は①直進する時間の概念、②時間を管理する技術、③文字で記録を作る技術、④ものごとの因果関係の思想
の四つが揃うことである。
隣国との関係で歴史を共有することは難しい。なぜなら権力の正当化が歴史の本来の使命であるからだ。
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-my bookdarts-
歴史は、人間の住む世界の説明である
時間と空間に沿い、一個人の体験を超えて把握すること
インド文明は「歴史のない文明」である
輪廻・転生という思想
もう一つの歴史の重要な機能とは、「歴史は武器である」という、その性質のことである。文明と文明の衝突の戦場では、歴史は、自分の立場を正当化する武器として威力を発揮する。
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[ 内容 ]
世界には「歴史のある文明」と「歴史のない文明」がある。
日本文明は「反中国」をアイデンティティとして生まれた。
世界は一定の方向に発展しているのではない。
筋道のない世界に筋道のある物語を与えるのが歴史だ。
「国家」「国民」「国語」といった概念は、わずかこの一、二世紀の間に生まれたものにすぎない…などなど、一見突飛なようでいて、実は本質を鋭くついた歴史の見方・捉え方。
目からウロコの落ちるような、雄大かつ刺激的な論考である。
[ 目次 ]
第1部 歴史のある文明、歴史のない文明(歴史の定義 歴史のない文明の例 中国文明とはなにか 地中海文明とはなにか 日本文明の成立事情)
第2部 日本史はどう作られたか(神話をどう扱うべきか 「魏志倭人伝」の古代と現代 隣国と歴史を共有するむずかしさ)
第3部 現代史のとらえかた(時代区分は二つ 古代史のなかの区切り 国民国家とはなにか)
[ POP ]
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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「歴史」というものについて考えさせらる一冊。
牽強付会的な部分も感じられるが、新しい歴史認識を与えてくれる。
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納得します。全てを突き放した感じで論が進められているのに すがすがしさと気持ちよさを感じた。歴史というものを第三者的に見るなら やっぱりこうあってほしいな なんて。私はまるめこまれているだけなのかもしれないがww 一読に値します、お勧めします。同情じゃない意味でアジア(日本含む)が哀れで仕方なくて、涙出そうでした。
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結局、学問とは原理を指し示し、そこへ導く営みであることがよくわかった。つまり学問の最終形態は数学と宗教に辿り着く。ザ・原理。岡田英弘の主張には鉈(なた)のような力が働いている。まさしく一刀両断という言葉が相応(ふさわ)しい。
http://sessendo.blogspot.com/2011/10/blog-post.html
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facebookでの知り合いの方からの推薦で読んでみた本です。
はるか昔に読んだE.H.カーを思い出すタイトルですね。とても抽象的なだけに、かえってどんな内容だろうかと興味がわきます。著者の岡田英弘氏は、東京外国語大学名誉教授、中国・日本古代史の専門家です。
本書での著者の主張はかなり刺激的です。マルクスの唯物史観からの発展論的思考の否定は他にもみられる論ですが、それ以外にも日本の天皇制の起源・歴史の時代区分・「国民」「民族」の発生過程等々、種々のテーマに関する興味深い論考が目白押しです。
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歴史を読む・書く姿勢について、言及した本。
最近、歴史解釈が政治問題に発展するニュースを見るにつけ、非常に不快な思いをすることがある。
歴史が、イデオロギーや政治的解決、合理的とらえかたなど、歴史に対する冒涜があたりまえのように行われているからだ。
この本では、歴史に対峙するときの心得を、様々な歴史記述例を基に、説明している。
日本の歴史書(古事記・日本書紀)にも非常に辛辣なのは、残念。
もっと勉強しろってことだな、たぶん。
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歴史を叙述すること、歴史家が他人の経験にどれぐらい自分を投入できるか・・・
簡単なようでとても難しいことを考えさせられた。
歴史は普遍的な一個人の紡ぐ言葉である。
書いているものから、人格まで透けて見えてしまいそうで、私などは不安になる。