紙の本
星一つ、マイナス批評に迷はされず、ぜひ讀んでもらひたい一冊
2019/12/06 10:03
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:蛮茶菴 - この投稿者のレビュー一覧を見る
これまで「歴史とはなにか」などと問はれたことなどないだらう。仮に問はれたとしても、予想できる返事は学校の歴史教科書に書かれた程度のことだらう。この本の著者岡田英弘のやうに「歴史とは、人間が住む世界の説明である」などの返答は予想だにしないだらう。
歴史は教科の一科目と思つてゐる人にとつて、わたしもその一人だつたが、この本の内容は瞠目に値する。
瞠目の一つは、歴史とは、と定義がなされることである。これまで歴史が定義されるのを目にしたことは、個人的にはなかつた。
瞠目の二は、歴史といふ言葉が登場するその時を、もちろんそれまで歴史といふ言葉は、人間世界に存在しなかつたことをも教へてくれる。しかも歴史の起源は二つあり、一つは地中海文明を叙述したヘロドトスの歴史であり、もう一つは中国文明を叙述した司馬遷の歴史であると。しかし、この二つの「歴史」といふおなじ言葉が、実はそれぞれ異なる考へ方に基づいて記されたものであることも教へてくれる。
瞠目の三は、歴史の見方は「むかしといま」、つまり「古代と現代」といふ二分法を提案するところである。當然どの時点から現代とするかも示されてゐる。この指摘は大切で、これで歴史を暗記科目に辱めることなく、いまを考察する生きた科目になる。
このことを知ると、文部科学省が行つてゐる日本の歴史教育は「古代」偏重で、いまを生きるのに必要な「現代」の歴史を教へてゐないのがわかる。これは現行の日本の教育の缺陥であり、歪みであり、教育低下の原因である。さういふ歴史教育をしてゐるのが日本教育の現状である。だから授業中船を漕ぐ暗記科目にしかならないのである。
この本は二百頁少々の小冊子であるが、一行の背後にある知識を想像すると、この本は大著である。まるでボードレールの「一分を三分で生きたとしたら」を思ひ出させる文章で出来上がつてゐる。
さて、さういふ讀後感をもつた本であるが、このレビューのなかに、「全部最初からやり直し」と全否定する批評があるのを知つて驚いた。どのやうな讀み方をすればかういふ批評が可能なのか首を捻つてしまつた。
この批評一見公平に書かれてゐるやうだが、その実なかなか手の込んだタチの悪いものである。
たとへば引用について。頁を示すのなら、それはすべての引用箇所がさうされるべきである。あるところは引用頁を示し、あるところはそれをしない。これは無責任である。
一例として、しかし極めつけは、「世界の変化には法則(筋道)はないって理由で『発展段階論』を否定しながら、筋道のない世界に筋道を与えるのが歴史だって主張する」この箇所である。
なぜ「法則(筋道)」なのか?
書き手の意図は明らかで、法則を筋道とすり替へるために、あるひはつぎの文章の筋道へと違和感を抱かせず誘導するために準備されたものである。
ちなみに法則と筋道は類語ですらない、意味の重なる点は微塵もない。と同時にこの引用箇所こそ頁数を明示すべきである。讀者に対する礼儀である。
価値判断にしても、この本では道徳的価値判断、功利的価値判断と書かれてゐる。誤つた切取りすると意味が豹変してしまふ。その昔は文脈を無視するやうな引用は恥ずかいものとされ、学識も疑はれたものだが、それが昨今は「報道しない自由」が罷り通り、平然と、都合よく切取りするのが流行つてゐる、なんともいへず破廉恥である。
「全部最初からやり直し」この批評を讀み、この本を手に取らなくなる人もゐるかもしれない、しかし、それはもつたいない。一人でも多くの人にこの本を讀んでもらひたい。それゆゑこれを付足した。
紙の本
我々が学んだ歴史は本当に歴史なのか
2018/08/30 07:39
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドングリ - この投稿者のレビュー一覧を見る
遅くとも小学生から学び始める歴史。この本を読み、これまで学んできたものがほんの一部分かつ限られた視点から見たものだと認識させられた。歴史との付き合い方が変わる一冊である。
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作られる歴史の姿について書かれた本です。
まさに記録されていく「歴史とはなにか」について考察する本。
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そもそも歴史ってなによ?
ということが簡単な文章でつづられている。
「人は歴史にファンタジーを求めている。」
という指摘にギクリ。
いいじゃん・・・夢見たって。
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負け惜しみの「中華思想」とは名言ではないでしょうか。国民国家の説明がまた分かりやすかったです。これから歴史がもっと楽しめそう。
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大学入試の論文勉強用にみっちり暗記した本。
歴史とは歴史家と事実との間の相互作用の不断の過程であり、現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話なのである。
歴史を学ぶ人は必ず一度は読む本。
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一般的に歴史とは何かというのが書かれています。歴史とはどのようなものか知りたい人は読んでみると面白いと思います
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歴史に関する深い考察。
歴史=人間の住む世界を時間と空間の両方の軸に沿って、それも一個人が直接体験できる範囲を超えた尺度で、把握し、解釈し、理解し、説明し、叙述する営みのことである。
歴史の成立する前提条件は①直進する時間の概念、②時間を管理する技術、③文字で記録を作る技術、④ものごとの因果関係の思想
の四つが揃うことである。
隣国との関係で歴史を共有することは難しい。なぜなら権力の正当化が歴史の本来の使命であるからだ。
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-my bookdarts-
歴史は、人間の住む世界の説明である
時間と空間に沿い、一個人の体験を超えて把握すること
インド文明は「歴史のない文明」である
輪廻・転生という思想
もう一つの歴史の重要な機能とは、「歴史は武器である」という、その性質のことである。文明と文明の衝突の戦場では、歴史は、自分の立場を正当化する武器として威力を発揮する。
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[ 内容 ]
世界には「歴史のある文明」と「歴史のない文明」がある。
日本文明は「反中国」をアイデンティティとして生まれた。
世界は一定の方向に発展しているのではない。
筋道のない世界に筋道のある物語を与えるのが歴史だ。
「国家」「国民」「国語」といった概念は、わずかこの一、二世紀の間に生まれたものにすぎない…などなど、一見突飛なようでいて、実は本質を鋭くついた歴史の見方・捉え方。
目からウロコの落ちるような、雄大かつ刺激的な論考である。
[ 目次 ]
第1部 歴史のある文明、歴史のない文明(歴史の定義 歴史のない文明の例 中国文明とはなにか 地中海文明とはなにか 日本文明の成立事情)
第2部 日本史はどう作られたか(神話をどう扱うべきか 「魏志倭人伝」の古代と現代 隣国と歴史を共有するむずかしさ)
第3部 現代史のとらえかた(時代区分は二つ 古代史のなかの区切り 国民国家とはなにか)
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
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☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
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☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
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共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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「歴史」というものについて考えさせらる一冊。
牽強付会的な部分も感じられるが、新しい歴史認識を与えてくれる。
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納得します。全てを突き放した感じで論が進められているのに すがすがしさと気持ちよさを感じた。歴史というものを第三者的に見るなら やっぱりこうあってほしいな なんて。私はまるめこまれているだけなのかもしれないがww 一読に値します、お勧めします。同情じゃない意味でアジア(日本含む)が哀れで仕方なくて、涙出そうでした。
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結局、学問とは原理を指し示し、そこへ導く営みであることがよくわかった。つまり学問の最終形態は数学と宗教に辿り着く。ザ・原理。岡田英弘の主張には鉈(なた)のような力が働いている。まさしく一刀両断という言葉が相応(ふさわ)しい。
http://sessendo.blogspot.com/2011/10/blog-post.html
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facebookでの知り合いの方からの推薦で読んでみた本です。
はるか昔に読んだE.H.カーを思い出すタイトルですね。とても抽象的なだけに、かえってどんな内容だろうかと興味がわきます。著者の岡田英弘氏は、東京外国語大学名誉教授、中国・日本古代史の専門家です。
本書での著者の主張はかなり刺激的です。マルクスの唯物史観からの発展論的思考の否定は他にもみられる論ですが、それ以外にも日本の天皇制の起源・歴史の時代区分・「国民」「民族」の発生過程等々、種々のテーマに関する興味深い論考が目白押しです。
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歴史を読む・書く姿勢について、言及した本。
最近、歴史解釈が政治問題に発展するニュースを見るにつけ、非常に不快な思いをすることがある。
歴史が、イデオロギーや政治的解決、合理的とらえかたなど、歴史に対する冒涜があたりまえのように行われているからだ。
この本では、歴史に対峙するときの心得を、様々な歴史記述例を基に、説明している。
日本の歴史書(古事記・日本書紀)にも非常に辛辣なのは、残念。
もっと勉強しろってことだな、たぶん。