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「生権力」の規準の端緒としての「政談」。
現時点では、決定版ともいえる『政談 服部本』読了。
本書は4部構成で、「国のト(しま)り」、「財の賑」、「人の扱」が原理論、最後の「雑」は、具体的な事例に対するFAQのような部分、一番興味深かったのは最後の巻。
よく言われるように、荻生徂徠の反朱子学、商品経済への対応、は最初の3部でよく理解できる。
政治と宗教の分離を目指す眼差しも本書で確立されている。だから最後のFAQが面白い。ひとつは形而上的アプローチから実践を既定しないという「新しい発想」。
もうひとつは(そしてこれは僕自身がフーコーが好きだからかもしれませんが)、世俗的政治による生権力の遂行・実践の記録の一書でもあるという点。
人々の生にむしろ積極的に介入しそれを管理し方向付けようとする近代の権力をフーコーは「生-権力」と呼ぶ。あらゆる事柄において、規律正しく従順なものへ調教しようとする側面、そして統計や調査に「盾」に、特定の方へ収斂させていく側面、この二つがその特徴といえますが、先にFAQと表現したように「巻四 雑」はそのマニュアルといってもよいかという読後感。
「養子の事」、「妾を御部屋と称する事」、「妾を妻とする事」……些事にわたるまで、模範的・標準的規準が列挙されている。
「政談」というタイトルからもうかがい知れるように、近代的権力が江戸時代に確立しはじめたと見ることもできるという意味で興味深い読後感。
江戸思想史の専門家からすれば邪道かもしれませんが……ね。