紙の本
批判の度合いが強い内容です。
2023/03/26 21:35
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:広島の中日ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者が現役精神科医の立場から、今現在繰り広げられている精神医療について、持論を展開していく1冊です。
あくまで医師という科学者の立ち位置を大事にしながら文章が著されています。具体的に言うと、もっと科学的見地に立って、非科学的に精神医療を語る論者に対しての批判の度合いが強い内容になっています。
実に様々な論説、他の医師の精神医療への立ち振る舞いについて、かなり強く著者が批判しています。著者の精神科医・科学者としての揺らぎない考え方が感じられる1冊です。
紙の本
精神医学と臨床心理
2023/04/29 14:42
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
精神医学者である岩波明さんによる現在の精神医療に対する批判がまとめられた一冊。
精神医学の立場から、いわゆる一般的に流布している心理学的な言説や表象で、科学を語ることを否定している。確かに、精神医学者から見るとそうなんだろう。
ただ、例えば冒頭のPTSDの診断について、性被害の被害者の事例に、戦争や大災害を持ち出して、定義上PTSDではないと指摘している。学問上はそうなのかもしれないが、性被害やDVをここで持ち出してPTSDのはずはないと、精神医学で一刀両断することは、魂の殺人である性被害やDVを過小評価することにもつながるのではないか。被害者の痛手をさらに大きくすることにならないか、とても心配になった。PTSDというのは戦争や事件や事故など何か大きな大きなインパクトがある出来事が引き金であるというのはよく分かる。が、例えば、ある出来事によるインパクトは、当事者ごとに違うのではないか。などなど様々な疑問が湧いてきた。
結局、世の中に流布する精神医療っぽい言説は、科学的には正しいものでないということが言いたいのだと思う。
その一方で、マスメディアや世間一般でそうした言説が受けると言うことは、世の中がそうした言説によって、心の問題とか、自分や周囲が抱えている問題への何らかの、社会的落としどころ(科学的説明)を求めているということではないかとも思った。
投稿元:
レビューを見る
精神科医療の現実と精神病について、実例や傾向を挙げながら解説している。
うつ病は流行りのようだが、単にうつと言っても色々なケースがあるようだ。
最終章では様々な依存症もあげ、発達障害についても解説している。
投稿元:
レビューを見る
最近会社でも制度やルールを守れない、スケジュールも遵守できず、納期など関係無しに帰ってしまうなど少し困った社員がいると、発達障害ではないか、といった会話がなされる事がある。専門的な知識も何も無く、ただ書籍やテレビで見た程度の情報源で、ADHDだとかASDだとか、はたまた自分はそういうちょっとした仕草や言動に敏感すぎるからHSPなんだとか、かなり好き勝手に素人診断話をする人も多い。更に何かショッキングな出来事があると、それが本人には全く影響ない様な出来事であっても、あたかも自分に対して作用したかの様にトラウマになった事を訴え、重要な仕事があってもメールで休みを告げてくる社員もいる。確かに世の中ショックな出来事は多いし、ニュースでも目を伏せたくなる様な凄惨な事件を伝えたりする(勿論規制上、そうした映像が流れるわけではないが)。それに一々自分ごとで共感、更には自分が被害者の気分になってしまったら。恐らくまともに生きることすら難しいし、会社に来て成果を上げる仕事をしろ、というのは無理がある。最近はインターネット上の映像から、かなり凄惨なシーンが見えてしまう事もあるから、昔よりも一層そうした目に見える形で直接の体験に近いように入ってくるのも事実ではあるが。
その様な中、たまに部下を叱った際など、昨今のハラスメント研修やら管理職研修は強烈に厳しく言動にも精神にも相当の規制がかかるから、かなり気をつけて接したにも関わらず、稀に部下の方が取り乱して真っ赤な顔で反論してくる事もあった。しかも内容は支離滅裂、たった1分の発言でも最初と最後が真逆になって矛盾だらけ、最後には「それ以上言うとハラスメントですよ!」と叫ばれた事もある。勿論自分が採用した張本人ではなく、何故同じ職場に入れたのかなと自分の職場に疑問を持つことすらある。長く観察していると、段々と精神的に幼くなってきていると感じる社員も多い。
まさかそうした人々が何らかの精神的な病に陥っているとは思いたくないが、人間誰しも少しは精神に欠陥があるものだとも感じる。それは自分に対してもそうだが、本書の様な精神医療や心理学に関する本も多いから、余計にどれかしらに当て嵌まると感じる事が多い。もしかしたら周りもそうした書籍から、既に自身に一定の諦めをもって自由に振る舞っているとも言えなくはないが。
本書は精神医療の今について新書サイズにしては十分に詳しく説明すると共に、それら医学的、学術的な成り立ちや現在の最新研究による定義、対処法の現実についても述べられていく。その過程において、前述した様な、素人とは言えないまでも、本来的な定義とは離れてよりセンセーショナルに、若しくは誰にでも当てはまりそうで興味を惹く様な解釈に改変されてなされる、報道や書籍に警鐘を鳴らす。我々がワイドショーや週刊誌レベルから得られる情報を鵜呑みにすれば、いずれ誰しも自分が一定の異常状態、更には早々に諦めて努力しなくなる社会になってしまわないか。そうした安易な病名づけは危険であり、正確な対処に結びつく事はない。それらへの誤解を解き、本来的に我々が社会でどの様に受け止め、受け入れ、又は自身がそうした状況に陥ってしまわない様に知っておくべき知識���あると感じた。後半は近年流行している脱法ドラッグにもかなりのページを割くと共に、現代人も抜け出せないギャンブル依存症についても触れる。スマホゲームに大量課金を繰り返す様な人も、ある意味この依存状態に陥っていると思うし、それらから上手く抜け出す為の知識としても使えると感じた。
誰しも心の内に弱い部分は持っている。触れてほしくない部分もある。それを上手に表に出ない様にコントロールし、社会・会社組織に於いて協調・協力して目標達成するには、自分と周りへの理解が重要だ。人手は足りない。互いを理解して、適切な場所と時間で働ける場所を作る。心をなるべく健康で明るい状態を維持し、多少の負担や不安も一緒に乗り越えられる様な職場づくりに活かしたいと思える内容である。