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この夫婦のことはもっと知られてもいい
2023/04/11 15:17
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
朝井まかてさんの『朝星夜星』(2023年2月刊)の主人公「草野丈吉」は実在の人物である。
「人名辞典」によれば、「幕末・明治時代の料理人」とあって、長崎出島のオランダ商館で西洋料理を習得、その後長崎で我が国初の西洋料理店を開くと出ている。
明治維新後には店名を「自由亭」とし、大阪や京都にも出店、西洋料理の普及に努めたとある。
丈吉は明治19年、47歳で亡くなっている。
彼とその妻ゆきを主人公にした朝井さんのこの作品は、幕末から明治を駆けぬけた志士や政治家たちを料理で支えてきた、長編歴史小説だ。
タイトルの「朝星夜星」は、結婚間もない頃ゆきに言った丈吉のこんな言葉からとられている。
「おれらの甲斐はほんのつかのま、食べとる人の仕合わせそうな様子に尽きる。その一瞬の賑わいが嬉しゅうて、料理人は朝は朝星、夜は夜星をいただくまで立ち働くったい」
この言葉通り、読み書きの出来なかった丈吉ながら、ひたすら西洋料理に邁進していく。
そんな夫に料理が満足にできなかった妻ゆきは、その大らかな人柄と体躯で、夫とその家族を支えていく。
この夫婦に手を差し伸べる人たちもまたすごい。
陸奥宗光、五代友厚、岩崎弥太郎、といった明治の時代を作った人たちが、丈吉の西洋料理に舌鼓をうち、丈吉夫婦が提供するホテルとレストランが日本と西洋を結ぶ架け橋と信じて支援していく。
物語はゆきが丈吉に見初められ、結婚して、三人の子供たちの子育てや娘の破談など、実にドラマチックに進んでいく。
丈吉の早すぎる死のあと、最後には夫婦がこしらえてホテルを手放すところまで描かれていて、さすが、朝井さんの筆は飽かせない。
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志高き料理人を支えた妻
2023/03/20 16:19
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投稿者:かずさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
幕末から明治に西洋料理を通じて志を高く持ちレストランやホテルを開業した草野丈吉と妻ゆきの物語。長崎のオランダ領事の料理人から独立し店を持った丈吉。読み書きは不得意だが頭には小算盤があり、常に前を見て商いは公の益を見失ってはならないと考え大阪で外国人用の宿を立ち上げ天皇の料理まで作る立場にまでなる丈吉。けっして才に秀でてはいないが力がありここぞという時には踏ん張り、店や夫・舅・姑・子供に尽くす妻ゆき。二人の視線で書かれている様に見えるが、ゆきの視線が強い。二人を取り巻く幕末から明治の政財界人。長編だが飽きさせることなく盛り上げる。
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明治のレストランとホテル経営
2023/05/08 00:52
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投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
丈吉とゆきは、苦労してそこまで……。貧しい生まれの丈吉は、18歳ボーイ、洗濯係、コック見習い……21歳でオランダ総領事の専属料理人になり、3年後に結婚。夫婦で日本初の西洋料理店を始め、陸奥宗光ら著名人が顧客に。
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これもまた傑作!ボタニカの時も感じた「色彩や景色が目の前に広がるような」作品.
今回はそこに「料理の味や香り」までも感じられるようで,鮮やかで,爽やかで,躍動感あるれる作品.
出だしからまるでNHKの朝の連続テレビドラマを見ているかのよう.牧野富太郎はボタニカが原作となることはなかったが,これこそ映像化にピッタリの作品だと思う.
登場する幕末から明治の偉人たちもあくまでも登場人物で,市井の…というには立派過ぎるけど,一般人の幕末明治が主軸なのが素晴らしい!
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流石朝井氏の作品は素晴らしい。江戸末期から明治大正へと生きた女性の生涯に感動する。それにしても当時の人々は短命であることよ、一歩間違えれば悲劇の物語になるところを淡々と語る技量は流石だ。余計な事だが最後に小生の祖父はこの時代にピッタリ重なる。
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幕末の長崎、明治の大阪を日本初の洋食屋を開いた夫婦目線(妻のゆき目線)で描いた時代小説。
幕末の長崎が舞台なだけあって、有名人が盛りだくさん。陸奥宗光、五代友厚、後藤象二郎、岩崎弥太郎、少しだけですが坂本竜馬。
この辺の歴史が好きならたまりません。
そして、明治になり?長崎から大阪に出てきて、五代友厚と関わったり、岩崎弥太郎であったり、陸奥宗光が利用する自由亭の明治の大阪の歴史が詰まっています。
M-1グランプリなどの漫才に「あれは漫才なのか?」と思うくらい、お決まりのボケとツッコミが好きで、新しいものをなかなか受け付けないように、大阪は保守的な人が多く、自由亭の苦労もそうですが、自由亭の女将さんである語り手のゆきからみても、大阪は大変そうで、五代友厚さんは苦労したんだなぁと思いました。
日本のためなら稼いだ以上に借金してまで大阪の礎を築きあげた五代友厚の凄さ、その五代友厚に感化されていたのか商人は利益だけを追求してはダメという考えのもと自由亭を運営していたゆきの亭主の草野丈吉、その他の歴史的な人物達。
幕末を乗り越えた志士達も皆、今では考えられないくらい早死していくのですが、皆濃い人生だなと改めて思いました。
想像の中での世界ですが、皆老後の不安とかそういう感じではなくて、貧しい人も裕福な人もただその日を一生懸命生きていたという感じが伝わってきました。
また、幕末からまだ150年くらいしか経過していない日本ですが、その150年くらい前は皆家を守ることばかりを考えて必死ですし、娘は家を守るための物扱い。親が決めた相手と結婚なんて当たり前みたいな世界で、今でも女性の地位がどうこう言ってるのに、なぜかその扱いがダメとか思わず、寧ろ皆生きるのに大変だったんだなぁと思うくらいこの時代の世界にどっぷりつかれました。
洋食屋の話なのでお腹が空く話かといえばそこまでご飯が美味しそうにみえる作品ではないと個人的には思いますが、もう今は存在しない自由亭に当時の大阪がどんなところなのか想像しながら、大阪のため、日本のために生きる日本人の姿に尊敬と憧れを抱きつつ、五代友厚という人物に興味を持った作品となりました。
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日本初の洋食~という件のオムライスやハンバーグ店など多く見かけるが、この丈吉は日本流初のヨーロッパ式配膳サービスまで仕掛けている歴史的な話で舐めてかかってすみませんでした!
昔の人は偉かった、と本当に感心しかできないと溜息が漏れる。なんで昔の日本人はこんなにも献身的な人が多く孫算したんだろう、いつから自分中心な人ばかりになったんだろうと思う(あ、政を行う政治屋や今も昔も変わらず自己の懐を増やす事しか考えていない人はいる)。そして、いつもその偉人には同じく苦労を共にする奥さんがいて、今回もその奥さん視点で話が語られるのだが、やはり内助の功然りだなぁと。今は共働きが当たり前で男女平等を謳い、嫁が夫を立てる時代ではなくなった。差別するわけではないが、それが男をダメにしたともいえるかな。もともと男は馬鹿なんで笑。
後半は水滸伝よろしく英傑が次々亡くなっていくので栄枯盛衰とはまさにこれ、ラストに長崎の実家を買い戻すという僅か一文がキュッと濾して凝縮させた秘伝のたれのようにこの物語の締めておりハラハラしていたのがホッと和ませた。
朝星夜星、いい言葉だと思う。ただし今のご時世そんな働きはブラックだ、パワハラだ、鬱だ、労災だと騒ぐんだろうなあ、日本の産業が衰退するはずだ。
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実在した日本最古の洋食屋・自由亭の主人・草野丈吉が主人公。
長崎の貧農に生まれ、子供時代に異人のボーイとなり、 洗濯係、コック見習いを経て若くしてオランダ総領事の専属料理人に昇進、その後、自由亭を起こした草野丈吉。維新後は自由亭を大阪に移し、外国人を中心にしたホテル経営に拡張し、京都・神戸などの各所に支店を展開するなど実業家としての才も発揮し、儲けだけでなく社会的貢献も果たして行く。その生涯を妻のゆきの視点で追いかけます。このゆきがなかなかです。鈍、叩いてもカンと響かず、一旦振動を吸収し、すこし遅れて思わぬ方向に吐き出す。そこが妙に可笑しい。
自由亭を訪れる多彩な人々、後藤象二郎・坂本龍馬・岩崎弥太郎・五代友厚・陸奥宗光。幕末の長崎、明治の大阪を舞台にするだけに、官よりも在野の偉人たちが多く登場します。そうした人物像や時代の流れも面白い。これを丈吉視点で描けば明治の時代そのものが主体の物語になったと思いますが、朝井さんが取ったのは妻の視点。この為に、時代はすりガラス越しに見る様な背景となり、あくまで主人公とその家族の姿を生き生きと描いた物語になっています。それはそれで良いと思います。
510頁、最初はやや冗長感を感じましたが(ちょっと無理に柔らかな笑いをとろうとする感じもある)途中からはグイグイと引っ張られました。そして最後に清々しいエンディング。良い作品でした。
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日本人初の西洋料理店スターシェフの草野丈吉と妻ゆきの評伝。全く知らなかったことばかりだったので大変面白く読んだが、まかてさんの小説の出来としては今一つかな。
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日本初の洋食屋「自由亭」の誕生物語。
料理人である草野丈吉の妻ユキの目線で描かれているところが、より物語に入りやすくさせているように感じた。
明治時代の長崎、土佐、大阪の著名人もたくさん登場して、激動の時代の歴史がリアルに感じられる。
しかし、この時代のユキのような生き方は、とてもじゃないけど出来そうにないなと思った。
色んな意味でとても強い女性!
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時代の流れと翻弄されながらもつむぎあって行く自由亭の仲間たちや家族の細々が丁寧に書かれていてあっという間に読んでしまった。ご飯が出てくる本は好き。陸奥さんが良かったー。
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江戸時代末期から明治時代、西洋食を提供し続けた自由亭の成り立ちから終わりまで。
草野丈吉という実在した料理人兼経営者とその妻の奮闘記。
有名な政治家なども登場して、大エンタテイメントを味わった感じ。
新時代を築くという意気込みが心地良かった。
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ボタニカを読んで
頭で考えたりするミステリーや
心が動かされてしまうほのぼの系や
感動系の小説ではなく
つらつらと文字と話だけを
追いかけれる小説にはまってしまい、
朝井先生のシリーズを手に取ってしまった。
時代にもまれながら
この人も一生を料理に支えた草尾丈吉さん。
料理で日本を支え、そのうえ
料理でたくさんの人を幸せにしてきた。
妻のゆきも分からないながらも
自分なりに夫と店を見事に支え、
浮気にも肝の座った態度で受け流し
さすがああああと
ゆきをさらに好きになった。
料理の描写も美味しそうで
お料理系が好きな人は
長いかもしれないけど
ぜひ読んでみてほしいです
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極貧の家に生まれた丈吉は阿蘭陀船で調理を学び、幕末の長崎で本邦初の洋食屋を始める。
長崎で若き五代友厚、岩崎弥太郎、陸奥宗光らの知遇を得、五代の勧めで大阪でホテルを開業し、大阪経済界の大立者となっていく。
民間の立場で国家に貢献したいという熱意は時代の空気か。
不平等条約を背景に、政治家、実業家たちの気概も熱い。
妻ゆきの視点で書かれる本書は、同時に草野家の家族の物語でもある。
まだ「人生五十年」の時代なのか、大きな仕事をした人々はみな50前後でこの世を去り、草野家縁者の命も短い。
言葉のやり取りなど、作者の大阪人らしさが本書のところどころに顔を出す。
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12歳から13年、傾城屋の女中として働いてきたゆき、大女で力持ち、25歳の時、本当に美味しそうに食べてる姿に惚れられ、料理人の丈吉24歳に嫁ぐ。そのおゆきの生涯を、幕末から明治の時代の流れと相まって描いた大作、510頁。朝井まかて「朝星夜星」、2023.2発行。前半は、テンポも悪く、明治維新を辿ってる感もして、まかてさんでなかったら途中で止めてる気がします。読むのを難儀しました。中ほど、洋犬の大吉(だいき)を飼う頃からテンポが良くなり、後半は流石の読み応えでした。それにしても、当時、病死の多いこと。