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高橋ユキ『つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う』小学館文庫。
2013年に起きた山口連続殺人事件の背景に迫るノンフィクション。事件から10年という節目に新章となる「村のその後」を書き下ろし、加筆、文庫化。
何かテーマを持って事件についての大きな謎を解き明かすという訳ではなく、報道では伝えられない細部に肉付けしたようなノンフィクションだった。
2013年7月、僅か8世帯12人が暮らす山口県の限界集落で、一晩のうちに5人が殺害され、2軒の家が燃やされる事件が発生した。被疑者として逮捕された保見光成は裁判で死刑を言い渡される。
著者は取材を通じて、犯人である保見の異常な性格と行動と、住人の噂が飛び交い、村八分と犯罪が半ば常態化した閉ざされた異様な集落の実態を明らかにする。
本体価格720円
★★★
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噂をただの噂だと思うことと、それを被害妄想的に捉えることと。
わたしは後者だ。
職場で誰かがわたしの名を出すとピクっと反応し、ふざけて「なになに悪口~?」なんて言って同僚を困らせている。
だいたいそれは悪口ではないのだけれど、でもそうやってふざけて自分の気持ちを外に出してみるだけで、自分もその場も和んだりする。
たぶん、「あれは悪口だ」と一人ふさぎ込んで思い込んだりすると、病む。
わずか12人が暮らす限界集落で、一夜にして5人の村人が殺害された。
「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」
犯人は、奇妙な貼り紙を残したまま姿を消した。
警察が犯人のボイスレコーダーを発見。
中にはこう吹き込まれていた:「うわさ話ばっかし、うわさ話ばっかし」「田舎には娯楽はないんだ、田舎には娯楽はないんだ。ただ悪口しかない」
P294「メディアやSNSからこの事件のうわさを得る我々と、『コープの寄り合い』に集まり、うわさ話を仕入れていた村人たちに、はたして何の違いがあるだろうか。私自身、この取材にのめり込んだきっかは、うわさだったのだから」
娯楽のない田舎やSNSに限らず、職場や保護者同士の繋がりだったり、人が集まるところにはいつだって噂話は存在する。興味なしとする人もいれば、そこにしか興味がない人もいる。そして、その噂話の被害に遭う人もいる。悪意のない噂話を、「悪意」のある「悪口」と捉える人だっている。そして、その人が置かれた環境によっては、精神疾患を発症したりもする。そして、もしその精神疾患を発症した状態で何かしらの事件が発生したとしたら、その事件で一番裁かれるべきは誰なのか。
以前、堀田らなさんのことを紹介した(https://www.u-gakugei.ac.jp/pickup-news/2023/03/post-1026.html)けれど、人を裁く立場にいる裁判官は、どの程度精神障害を理解しているのか。
P276「市民に身近な裁判員制度」の「市民に身近」とはどの程度のものなのか。
精神保健福祉士の試験に合格したわたしでも、精神疾患についての理解はちゃんとできているかと問われると、まっすぐに首を振ることは憚られる。それだけ複雑なことを知っているからだ。
P275「専門家でも意見の割れる“責任能力”についての判断を、彼らの意見を元に、精神医学を専門に学んできたわけではない裁判官や裁判員らが下さなければならない」
こうなってくると、人が人を裁くということは、もはや運ゲーに近い。
裁判員の中に精神障害に理解がある人がいればラッキー、なんらかの事件の被害者になったことがある人がいればラッキー、よくわからないまま裁判員になりました、という裁判員ばっかりだったらアンラッキー。
同様に、被告人に理解をしめす裁判官に当たればラッキー、理解をしめさない裁判官に当たればアンラッキー。
司法がこれでいいのか。
司法は全てに対して平等であるべきではないのか。
取材をすすめてきた、高橋ユキさんの並々ならぬ覚悟に溢れた一冊でした。
噂の元となる人など、ここに出て来る人がこの作品に触れたらどう思うだろう、と思いながら読み進めていたのだけれど、その想いは���っと著者である高橋さんが一番お持ちだっただろう。だけど、それでも出版する覚悟というものが、ぎゅっと詰まってた。
著者の取材の熱量と努力。
ここまで掘り下げるか、というほどのエネルギーに、圧倒された。
なんで、どうして、っていう探求心みたいのって、どうやって培われるんでしょうね。わたしもある方だとは思いますけど。
そして、だからこそ時々ノンフィクションに触れると、ぐいぐいのめり込んでしまう。
有給中は家で単行本を読み漁ろうと思っていたけれど、ついつい圧倒されて、没頭して読了。
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限界集落で起きた連続殺人放火事件の闇に迫る。と言いつつ、もうひとつ犯人に迫り足りなかった感が…でも、限界集落って日本中にあると思うと、ちょっと怖い。
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祭りのこと、村の歴史など何か真相に繋がるのかと読み進めたが、結局、直接的には関係していなかった…。
妄想が事件の引き金となったという結論において、噂や悪口は実際に存在しており、それは妄想でないという点について、しっくりこないという筆者の気持ちは理解できた。
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すごい展開を期待しすぎちゃったかな。ある程度のコミュニティにはうわさ話とかはあるだろうし、事件は悲惨なものだけど。
村ってなんか怖いなとか村社会とかあるのかなと思ってたけど、やっぱりあるんだなと。
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行ったことはないが車で2時間位の場所が事件現場の集落でずっと読みたかった本。ど田舎の集落は街育ちの人間には想像もつかない現実があるのは耳にはしていたが
村八分や集落の風習だったりどこの県の所謂限界集落はこんなもんだろうだけど此処は特に香ばしい
集落の住民の言動に対する作者の"一体何を言っているんだ"的な反応が笑える。
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エンタメ・カルチャーキュレーションPodcast番組「みなみかわ 大島育宙 炎上喫煙所」のパーソナリティーのお二人が、2023/9/18回と2023/10/30 回の二度に渡って著者の高橋ユキさんと本書について話題にあげられていたことで知り、文庫版を購入。
その後、YouTubeのおすすめから高橋ユキさんが出演されていたBOOK STAND TVを拝見し、積読していたのを思いだし、2024年末に読み始めやっと読了。
以下本書を読み得た感想や気づきでした。
・被告とこの文庫版で追加された章で登場される方とで、都会から地元にUターン後、近隣の方々とどのように接するとどうなるのかといった日本中どこにもありそうなケースで、真逆の道を行かれたお二方の例を知ることができ、もし自分ならどっちに...などと考え、う~むwとなる。
・昨今のノンフィクション作品を出版することの難しさを高橋さんがなんとか潜り抜けてくれたことで、自分が本書と出会い上記のような体験をできているんだということをありがたく感じ、 高橋さんのnoteや各媒体や書籍を追いかけるようになる。
・追いかけ出会った書籍の「神隠し」という書籍で、ある界隈で2点バラシ~7点バラシという単語があることを知る。
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偉そうなこと言うようだけど、このルポが事件をどのように書こうとしたのかよく分からなかった。
いや、ちゃんと著者によって、復讐もいじめもないのだが、そうと取れるうわさによって元々あった精神障害が亢進して引き起こされた大量殺人事件だったのだと、書いてはあるのだが…
実際に10人足らずの村で生活していたらどうなるのだろう、こうなることもあるのだろう。
いつかは田舎に移住して、なんて考えたこともあるが、行ったら最後、もう戻れなくなる日常は、やっぱり諦められないな、なんてことを思った。
おそらく、上告棄却され死刑が確定してしまった犯人と、もっと何かをすることで自分の犯した罪を認識し向き合い煩悶する時間を、作ることはできたのでないかと言う、そう言うことは一言も言ってないが、著者はそうしたかったのではないのかな…
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あの事件はどうなったのだろう?と思っても、その後の報道は少なく、謎のままの事件は沢山ある。
そういう不可解な事件のその後が丁寧に調べられている。
何かが報道されるかどうかは、多分世間の興味の度合いによるのだろう。
事件の場合、私は「面白いこと」よりも「事実」が知りたい。
この本を読むことができてよかった。
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著者の丁寧な取材と、おそらく自分と同じくらいのお子さんが居ながらの仕事ぶりや行動力に凄いなぁと思いつつ一気に読了。
金峰ほど小さくはないが、自分の地元の昔の高齢者たちも同じような噂話で毎日を暮らす雰囲気だったことを思い出しながら、どこも同じなんだな〜と感じる。
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TBSポッドキャストのオーディオドラマで同名の番組を聴いたことがあり、手に取った本書。
私の生まれ育った村も、救急車が通れば「誰の家に行ったか」が噂になるようなところであり、本書が扱う「噂」が支配する村の様子を、実感を伴って追体験できた。
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山口県で起きた一夜にして5人の命が奪われた事件のルポ。2013年の事件だから11年経つのか。犯人は死刑判決を受けて勾留中だが、自宅に貼られていた「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」の川柳で今も記憶に残る。当初、村八分にされた犯人が、津山30人殺しよろしく村人を次々襲った事件として報道されたような記憶もあるし、漠然とそう理解していたが、作者の調査によってそれは否定される。確かに村の中ではいじめのようなことや不可解な盗難事件などもあったし、村中噂話は多かったようだが、犯人が村八分にされたというわけではないようだ。犯人が妄想性障害であり、病気の一環としての殺意の芽生えに言及しており、昭和大医学部教授の岩波明医師にまでインタビューしている。心理的な動きを想像を交えて推察するようなことが多い犯罪系のノンフィクションに比べて、ある点からは病気ゆえとしっかり考察している点で、非常に深堀りされて叙述されているのはとても良いと思う。ある意味村民を騙すようなやり方でインタビューしている部分は読んでてやや不快感もあったが、とはいえ、コロナ禍の大変さもあったし、10年は言えないというおじいさんからしっかり話を聞き出したような良い意味での執着心や、育児をしながらの仕事という面も含めて作者の頑張りが実を結んだ本という印象。犯人の愛犬が今でも獣医のもとに保護されていることは特に知ることができてよかった。かわいそうに、御主人様は二度と帰ってこない。犬の写真が切ない。文庫版に寄せた後書きが秀逸。これがあることで嫌味ではない作者の頑張りがわかってそれも個人的には評価高い。
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独特な風習や小さなコミュニティ内での暗黙の了解は第三者の目線からは異常そのものだが、その異常性に気がつかず当然の摂理かのように振る舞う姿は言いようのない恐ろしさがある。
だが、その小さなコミュニティだけが彼らの世界であり常識であるため悪意などはなく、まさしく住む世界が違うという言葉が当てはまる。
この村ほどではないが、地方や過疎地域では似たような状態なのが実情であり、現代日本が抱える問題を端的に表しているようだった。
また、本作は元々noteで連載していたものを文庫化し、その際に加筆したらしいが明らかに取材不足で行き届いていない部分が多く、後半になるにつれてクオリティが低くなるのが残念。
特に、本筋と無関係なエピソードを詳細に記したり、身分を偽って村の祭りに参加する章、複数人の証言を繋ぎ合わせて1人の語りに見せる章、しまいには祟りを示唆する章もありページ数を埋め合わせるためとしか思えず、蛇足でしかない部分が多すぎるため星3とした。
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途中の中弛みが辛かった。
ルポものを読むことは今まであまりなかったのでこういう感じなのかなぁと、もういいかなというのが正直な感想。
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映画「あんのこと」を観て、入江監督と高橋さんの対談記事を読んだことからこの本に辿り着いた。
全編を通して、高橋さんの恐れ知らずの行動力には驚かされる。
村の中では誰もが陰口の対象になっていて、まさに死人に口なし、もはや誰の発言も信じられないような状態である。都会でも毎日噂話をしている人はいるけど、田舎では人口が少ないから煮詰まってしまうのだろうなと感じた。
田舎の人間関係の距離感が合うか合わないか、合わないときに引越しできるか、引っ越しできないときに相談相手がいるか、相談相手がいなかったときに自力で医療・福祉にたどり着けるか…すべてがNoだった故の悲劇に思えた。