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「相思樹の歌」知りませんでした。正直、この本はふと目について気になって読んでみたくなったものでした。読む前に「相思樹の歌」を聴いてみた時は、きっと色々な思いが受け継がれているのだろうと想像しただけだった。読み終えて改めて「相思樹の歌」を聴いてみた時は、海辺でひめゆりの女生徒たちが歌う姿が目に浮かんだ。生きていることを実感しつつも、あの気持ちになった現実の無慈悲さは思いもよらない。この姿が心に残るのはこの物語を読んだからではあるが、史実を挟み込みながら描かれているため、本当の現実はまさにこのようなものだったのだろう。主人公の片岡草志が皆の魂を運び、読むものの心にも残していく物語として強く印象に残った。
「本書は、沖縄戦争に従軍した太田博少尉と、ひめゆり学徒隊を引率した音楽教師の東風平恵位(こちんだけいい)という、ふたりの実在した人物を軸に構成した作品です。「相思樹の歌─別れの曲─」という音楽作品は、実際に太田氏が作詞、東風平氏が作曲したものです。小説の中では、それぞれ、大江博斗、東風原敬司と仮名にさせていただきました。─沖縄返還、50周年を過ぎた年に。」
─本書の跋より
序盤には、年表のごとく日本軍とアメリカ軍の沖縄戦前後のことを淡々と記している箇所がある。実際には年表で知るような史実くらいしかきちんと知らないため(もしかしたら、それすら満足に知らない)、戦争を経てきた沖縄のことについて何も自分の考えや気持ちを書き記せることがないと自覚する。ただ、鉄血勤皇隊やひめゆり部隊、沖縄戦の傷跡、沖縄返還の困惑、など今までより意識するようになるだろう。この物語の中では、軍人ではありながら人としての正直さや、アメリカ兵との心優しき交流も描かれている。さらに、物語の最後は痛みを分かち合っていけそうな未来を想像させる。しかし、どんな描き方をしても戦争自体に救いがないことは間違いないと痛感する。