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単純に諸悪の根源とも言い切れない、地域の入れ子状の複雑さ、多様さがよく伝わってきた
当時の中東に国家と社会を形成できる主体があったか疑わしいあたり、近代国家のあり方を中東に押し付けるのが欧州の傲慢さに感じられる
その上セーブル自体も自立が困難なものであった
難民の流出が、問題の解決に近づくというのは、なるほど言い得て妙だなと思う
国の利益のために、他国の紛争を続けさせるというのも、紛争のリアルさが読み取れる
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【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛。池内恵先生の著書。現代の中東問題の根源は遥か昔にイギリスとフランスとロシアによって結ばれた秘密協定にある。中東問題、イスラム問題、イスラム国問題は多くの人にとって理解するのが難しい問題だけれど、本書を通じてこのような問題が発生している歴史的な背景を学べます。
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高校世界史で「帝国主義列強の理不尽の象徴」として学ぶサイクス・ピコ協定。旧オスマン帝国の領土を、そこに住む民族に全く配慮せず英仏(露)で線引きして植民地化。しかし著者はその捉え方は(間違っていないとしても)一面的と考える。
まず以って、サイクス・ピコ協定はそのままの状態ではほとんど発効していない。著者は、むしろそのあとのローザンヌ条約、セーヴル条約への短期間の変遷の意味に着目する。詳細は略するが、要は列強も(自らのエゴは当然ありつつも)何はともあれ「つかの間の平穏」をのぞんだのであり、その時々に優勢だった勢力の主張を追認する形で次から次へと条約を改定していったのだ(次々と支配権を確立した少数民族に配慮したローザンヌ、それを平定して統一国家となったトルコに配慮したセーヴル)。
「・・・この三つの協定・条約には、それぞれに別個の根拠があり、それぞれに異なる難点を抱えている。これらの協定・条約は中東の問題の原因というよりも、むしろ、オスマン帝国の崩壊後に中東の社会が抱えた困難な条件に対して提示された、三つの異なる対処の方法なのである。三つの協定・条約は、中東問題の困難さを、それぞれに示している。これら三つの協定・条約と、それが結ばれた経緯の中に、近代の中東に国家と国際秩序を形成するという、今もなお結論の出ていない問題への、これまでの試みの成功と失敗がいずれも含まれている」(P.46)
今現にシリアで起きている大規模な難民問題を少しでも立体的に理解したいと思う人々にとって、必読の書と思う。
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第一次大戦中の1916年にイギリスとフランスとの間で結ばれた、
戦後のオスマン帝国南東部の分割協定を手がかりとして、
現代までの中東の情勢を概説した著作。
平易な文章で書かれていて、中東地域にあまり知識の無い人でも
読みやすいと思います。
モザイク状に小集団が存在している地域では、
どう線引きしても域内での少数派ができてしまうこと、
線引きによっては少数派と多数派が逆転してしまうこと、
少数派が難民として流出すれば域内はある意味"安定"すること、
などといったことが歴史を基に説明されています。
ところで、「サイクス=ピコ協定」は「墾田永年私財法」と同じような
語感の良さで、言葉だけはなんとなく頭の片隅に残っていました(笑)
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この協定を聞くと
学生時代の己の阿呆さを思い出します。
中東のあたりの歴史、よくわかんねえーと悩んでおりました。
インド史?南アジア史に至ってはお手上げでした。
K大文学部の受験時、一つの大きな設問が出たのを思い出します。
解けなかったのに何故か合格いたしました。なんでだろう
我が家はど田舎の貧乏人だったのに。合格させても意味ないぞと。
お父様の御不幸。どうぞ御愁傷さまです。
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イスラム国等、中東情勢の混迷は続いている今日ですが、これは何も今始まった出来事ではなく、過去から続く問題が同じような形のまま現れているに過ぎないということを理解すること。それによらなければ、今日の状況を理解することが出来ません。その状況に「サイクス=ピコ協定」がどんな役割をはたしているのか。それを理解するためには、負の側面だけではなく、これが上手く利用され、この地域の混迷を一時凍結したことも知る必要があります。本書では、中東地域に渡る複雑な情勢について、ポイントとなる点を章ごとに詳しくまとめられています。一つ一つを丁寧に整理することにより、何が起こっているのかの見取り図が、かなり明るく見渡せるようになると思います。そして、複雑さは問題になりやすいのですが、安易に簡単な解決を行うことは悪であり、慎重さと対話がいかに重要であるかを考えさせられます。
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ビックリするくらい中東情勢について分かったような気にさせてくれる。
トルコとシリアのやっかいさから学ぶ近現代の国際政治の枠組って感じかしら。
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サイクスピコ協定は歴史の流れの中で理解する必要がある。オスマントルコの衰退、アラブの混乱、ロシアの台頭…と言った流れ。
当時、英仏はその状況に対処する適切な案として締結。しかし当のトルコ、アラブを飛び越えて、上から目線で制御を試みた。西洋人がアジア人(中東人、トルコ人も含む)を人種として差別的に見ているためか。
他に、セーブル条約、ローザンヌ条約をセットで考える必要あり。
ページは薄めだが、内容が濃い。
読了60分
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サイクス・ピコ協定をマジックワードのように扱うべきでない、という主張はよく理解できるけど、それと相反するようなタイトル(笑)
今読んで思うのはこれが書かれた以降の急速な中国のプレゼンスの上昇。米露の合意が鍵だろうと書かれていたけど、全く異なる方向から中東問題の鍵を握るのは中国かもしれないなと、震えながら…
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ある意味、強権国家の支配者にとって統治に邪魔な民族を追い払い、均質な住民構成とする方が支配は安定する
→難民を流失させることは政権維持のための合理的判断
難民問題は欧米の有力メディアに報じられ、世論喚起により初めて国際政治上の問題として注目されるようになる
西欧諸国の中東諸国への批判(中東の政治的自由の不在、人権侵害、民主化の遅れ)
独裁政権の民族主義(反欧米、反イスラエルの排外的スローガン)喚起
→多様な国民(言語・宗教宗派の多様なコミュニティ)を一方向 に向け、統制する有効な手段
アラブ諸国やトルコがその背後の地域からの難民を人権や自由の理念から疑わしい手法で受け入れてきた
↓
西欧諸国はそれを非難するが、第二次世界大戦後、かっての植民地から大量の難民の波に襲われることなく、紛争の影響を受けることなく、経済発展に必要な移民のみをある程度選択して受け入れることが可能であったのはこれらの諸国が難民の防壁となっていたこともまた事実。
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パレスチナ紛争の再燃を受け、こちらを読了。
露土戦争の歴史(クリミア、アルメニア、クルド人自治区、シリア…)が今の国際情勢へと続いていることが良くわかりました。
地図で見ると、トルコって本当にすごい立地ですね。。