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1916年に結ばれたサイクス=ピコ協定から,その後の100年間の中東世界や地中海東岸世界の動向や構造をまとめた,著者が「中東ブックレット」と呼ぶ作品の一作目です。
この地域のこの100年の動向を把握できる良い作品だと思います。より深い考察はできると思いますが,背景と概略,現在の動向を把握するにはいい位置づけと分量の内容だと思って読んでいました。
現在でも激動のさなかにある地域であり,常に状況が変わるとともに,世界の各地のいろんな分野に影響を与えている地域ですが,その背景の概略を把握するためには良い本だと考えます。
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イスラーム世界の…以来の著者の本だったけど、かなりわかりやすい。とはいえ地理がまだ完全に把握しきれていないので、右から左な部分が多い自覚はある。とりあえずアラビアのロレンスみよう
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アラビアのロレンスから、「イスラム国」そして英国のEU離脱までが、頭の中でスーッとつながる。快読の一冊。
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サイクスピコ協定が今の中東の混乱を招いたというのが、最近富に聞こえる話だが、どうやらそれだけではないというのが本書の内容。
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トルコ・シリアを中心に、第一次大戦から現在までの中東情勢を「サイクス・ピコ協定」「露土戦争」「東方問題」「難民」等を切り口に読み解いていく。時系列に事情を追うよりもかえって個々の事象の連関をクリアに浮かび上がらせることに成功しており、地図の豊富さとも相まって理解しやすい。イスラエル史を思い切って切り捨てたのも奏功していると思う。何より140頁程度と短いのが良。
著者はサイクス・ピコ協定以前と現代の情勢の異同について、西欧のアラブ諸国に対する相対的優位性の低下を指摘しているが、現代では西欧側が様々な不都合を押し込めておいた中東という「壁」が決壊したとの表現は言い得て妙。人権保護が不十分と批判しつつも、自らに影響がないうちは抜本的解決を望まないというご都合主義も限界に来たということだろう。同じく壁のこちら側で安穏としていられた日本にとっても、最早対岸の火事ではない。
サイクス・ピコ協定が中東の一時期を切り取った断面図に過ぎないことがよく理解できる本書だが、ではなぜこの題名が採用されたのか。恐らくは本文にあるように「わかった気になるマジック・ワード」なるがゆえに、専門家にとっても「題名にしたくなるアイキャッチング・ワード」でもあるのだろう。
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[解決策にして病巣]合意の形成から百年を迎え、日本の一部メディアでも改めて取りあげられることがあったサイクス=ピコ協定。外部から中東地図を描いたとして批判されることが多々あるこの協定の形成経緯やその他の条約に触れながら、現在の中東政治を高所から俯瞰した作品です。著者は、中東研究の第一人者と評しても過言ではなくなってきた池内恵。
「複雑だ」と評される中東政治を、その複雑さをそのままにゴロンと読者に突きつけてきた作品。決して読みやすい読み物ではないですが、中東政治や幅広く国際政治に興味のある方にはぜひオススメ。明快かつ安易な解決策など、現在の中東には存在しないということが痛感できる一冊です。
〜当時の超大国である列強という「医師」に、中東の国家と社会の「病」への処方箋を書く、その資格と能力があったかというと、それは疑わしい。しかしその当時の中東に、より適切に国家と社会を形成できる主体があったかというと、なかったと言わざるを得ない。それは現在でもなお残る問題でもある。〜
一気に通読できる分量も☆5つ
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混迷する中東の歴史について、中東を大国で切り分けたサイクス・ピコ協定だけが悪者扱いされているが、現地の諸勢力の意向を反映して細かく切り分けたセーブル条約や、それに反発したトルコ人による支配地域の拡大を諸大国に認めさせ、現在のトルコの国境をほぼ確定したローザンヌ条約も、あらゆる方法が試され、その度に済む土地を追われて、命を落とす人々を多く生み出した。
セーブル条約では細分化されすぎており、政治的にも経済的にも自立が困難だった。
結局は西欧や周辺大国による様々な思惑と介入、植民地化、侵略が昔から中東をゆるがしている。
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新しい職場であるNGOの先輩に薦められた本。現在のシリア難民の経緯を紐解く一助になる、サイクス=ピコ協定の経緯と詳細、そしてこの協定がいかに現在の中東情勢に影を落としているかを簡単に説明した本。セーブル条約による細かい民族や宗派へのトルコ領の割譲とローザンヌ条約によるトルコ国民主義を反映した国境線の策定を経て現在の中東があるが、情勢不安を抑制する手は果たしてあるのか。協定の話以外にも気になる三文字団体、PKK・PYD・YPG・KNCなどが簡単に説明されており助かった。領土を広げたいロシア、クルド独立を抑制するためシリア情勢を混沌のままにしておきたいトルコ、ISを抑えるために「テロ集団」を支援するアメリカなど、各国の思惑が錯綜する中での難民問題解決は気が遠くなる程難しい事を痛感した。結局害を被るのは一般市民なのに。
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現在もシリアを中心とした中東エリアは戦火と混乱の中にあり、悲惨な状況が終わる気配を見せていない。
この地域の争いの大元の原因は、オスマン帝国の衰退と解体に見いだせるが、そのときのサイクスピコ協定が諸悪の根源であるとの世の評判は的確ではない、と作者は述べている。
その理由をその後の歴史をたどりながら紹介説明していて、本書の題名だとそこが主眼に思えるが、実はその後の地域の状況や現在の考察が主体になっている。そして、現在の様相はオスマン帝国が崩壊した頃に状況が似てきたのではないかと心配し、大国の影響力など大きな違いもあるが、今後の激変を予想というか懸念している。
本書は、なんで中東はいつも戦争しているのか?と感心ある人向けのいい入門書になっていると思う。
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★難しさばかりを痛感★整然とした国境線にみえるように、中東は外部勢力による人為的なルールで縛られている。「少数民族」とは自然に生まれる民族ではない。多数派が自らと異なるものと決めて特定の政策を作るから誕生する。そして少数民族が独立すると新たな少数民族を生み出す。民族はどこまでも分裂していくだけに解決は簡単ではない。悲しいことに中東に解決できる勢力はないが、解決策に対する拒否権を持つものは多い。
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混迷する中東の歴史について、大国が切り分けたサイクス・ピコ協定だけが悪者なのか?
現代の国家では、あまりに細分化されすぎるとて、政治的・経済的・軍事的に自立困難となる。(沖縄を独立させたらどうなるか考えて見るとよくわかる。)
では結局、民族とは何なのか? 言語・遺伝子的特徴、文化
の統合されたユニットと考えるべきなのだろうが、ユニットを構成する人員が少なすぎると経済的・軍事的に自立できず、どこかで別のユニットと共同して国を作る必要がある。
現在の中東の混乱は100年前の無理なユニット同士の結託の綻びとも言える。
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ちょうど知りたいと思っていた部分を、思っていたよりずっと深く教えてもらえた。
今の混迷の原因がサイクスピコ協定という単純な話ではなくて、もっと昔からの経緯の中の過程のひとつという話。
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「オスマン帝国なんてぶっ潰して、あいつらの領土を山分けしよう
ぜ」とイギリスが持ち掛けて、「そりゃいい考えですな、旦那」と
フランスが合意したのが1916年のサイクス=ピコ協定である。
その協定の詳細な解説かと思いきや違った。私も現在の中東の
混迷を考える時、この協定を頭に置いているのだが、著者はこの
協定だけが本当に中央混迷の根源なのだろうかと疑問を提示し、
中東の歴史や地政学、複雑に交錯した民族模様や国家間の関係
を解説した書だった。
サイクス=ピコ協定単独ではなく、セーブル条約・ローザンヌ条約
の3つをセットとして考えなければならぬと著者は説く。もうここで
躓きましたよ。私はセブール条約とローザンヌ条約を調べるところ
から始めなければならなかったもの。
確かにサイクス=ピコ協定がすべての根源だとするには、この協定
内容がすべて守らていなければならない。でも、それ自体が無理。
だって、子供が考えても「それは無理だろう」っていう約束ばかり
しているのだも、イギリスは。
サイクス=ピコ協定の前年、「アラブ人の国を作るのを認めてやる
からこっちの味方になってトルコと戦え」とメッカの太守であった
フサイン家との約束である、フサイン=マクマホン協定があるで
しょう。
そうしてサイクス=ピコ協定の翌年には「ちっ、戦争にお金がかかっ
て財政がピーンチ。あ、ちょっとお金貸してよ。貸してくれたらパレス
チナに住んていいよ」と、ユダヤ人コミュニティのリーダー的存在で
あったロスチャイルド家と約束したバルフォア宣言があるでしょう。
「うわ、どれも守れないわ。しゃあない。新しい条約作って線引きしな
おそう」で、セーブル条約とローザンヌ条約が出来たのね。って、こん
な理解でいいのか、私は。
イギリスにしてみたら自分たちは痛くも痒くもないから、どんな無理な
約束でもしたんだろうけれどね。でも、やっぱりこの三枚舌外交は
問題が多いと思うんだよね。
百年の呪縛は解けるどころか益々混迷を深くしているように思える。
ただ、本書で著者が書いているように難民が流出していることで
少数民族の問題がある程度解決に向かっているという面もある。
本当はあってはいけないことだけれど。
結局は力でしか状況は変えられないのかな。アメリカとロシアの仲介
でシリア内戦の、2度目の停戦合意が取り付けられたのはつい先日。
それなのに、反政府勢力の地域にロシア軍が空爆だよ。
大国の思惑に翻弄されるのは、いつも一般の市民なんだよね。どれ
だけ血が流れて、涙が流れたら和平が訪れるのかな。
読んでいて余計に出口が見えなくなってしまったので、私はやっぱり
イギリスの三枚舌のせいにしたくなったよ。
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サイクス=ピコ協定を銘打って、池内先生が書かれているので、面白そうと思い手に取りました。
冒頭で池内先生が指摘されているように、サイクス=ピコ協定は大国による密約で悪でしかないもの、と私も思っていました。悪ではないわけではないですが、オスマン帝国崩壊に際して、1つの「解決策」として考えられたものだという視点を本書によって得られました。
皮肉なことにアラブの春によって、再び中東が混迷する中、欧米が手をこまねいている間にロシアが進出してくるという、100年前と同じような構図ができている、というのもなるほど、というお話でした。
国民国家を前提とした国境の線引き、というのはかなり破綻した考え方だと最近とても感じていますが、では中東の国々はどのような形になると中東の人々にとって”最善”といえるのか、本書を読むことでますます難しい問題に思えてきました。
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1916年サイクス=ピコ協定(第一次世界大戦後、オスマン帝国の支配地域をどのように分割し統治するかの、イギリスとフランスによる取り決め)→1920年セーヴル条約(アナトリア各地で現地の勢力が進めた実効支配を、列強や周辺諸国が認め、恒久化しようとした)→1923年ローザンヌ条約(ムスタファ・ケマルらが設立したトルコのアンカラ政府が、セーヴル条約受け入れを拒否。トルコ独立戦争を戦い、フランスやソ連軍に対して有利に戦闘を進めて、個別に条約締結に持ち込んだ)