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圧倒的な表現力。植物の匂いや動物の生臭さが読み手に伝わってくるようで、ぐいぐいその世界に引き込まれた。
物語のひとつのテーマである「中と外」という対立関係は、決して特殊な環境ではなく、私たちの身近な生活の中もあるのだと気づかされる。
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疫病が発生し始めた僻村に棄てられた感化院(今の児童自立支援施設)の少年と仲間の話。垢、傷、泥にまみれた臭いが伝わってきた。どうしようもなく大きなものに踏み躙られながらも、断固として抗う少年は(使い古された例えだけれど)硝子の破片を思わせた。割られてバラバラにされてしまったが、その先は鋭い。
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十五少年漂流記のダーク版?
すごく明確に時代と場所を設定してあるのに、なぜか無国籍かつファンタジックな印象のある不思議な本でした。
太宰治にハマっていた青春真っ盛りの頃に読んでいたら、すごく感銘を受けただろうなぁと思わなくもないですが、中年真っ盛りな今の私には、「えー なんか素人くさい文章だなあ。いちいち面倒くさくて青臭い」と感じられ、とにかくリズムが悪い印象の方が強いです。(ノーベル文学賞作家に対して我ながら大胆な発言ですが)
しかし、この表紙はいいですね。内容にピッタリだと思います。選んだ人はすごい。
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第二次世界大戦末期、現在の少年院にあたる「感化院」の少年たちはある僻村へ集団疎開させられる。しかし到着直後に疎開先で疫病が流行り始め、村人たちは村外へ避難し、感化院の少年たちを置いて村を隔離してしまう。山村に監禁された少年たちを襲う不安と恐怖、しかし彼らは健気にも自分たちの「自由の王国」を創り上げようとする。だが狩りの成功を祝す祭りの後に少女が発症し、彼らは再び恐怖の底へと突き落とされる。そして村人たちの帰村により、その恐怖は絶望へと変わる…。ノーベル文学賞作家・大江健三郎のデビュー1年後に発表された初の長編小説。
著者の作品は初めて読んだが、圧倒的な表現力に驚かされた。力強く緻密な情景描写が多い。
健気に逞しく少年たちが築いていく自由の王国は、常に脆さと危うさを孕んでいる。少年たちだけでの持続的自活などできるはずがなく、刹那的な成功に酔いしれるばかりである。しかし彼らは初めて「自由」を手に入れた。悲しくも、それは「本物の自由」ではない。狭い世界しか知らず、その世界でも疎まれ虐げられ続けてきた少年たちにとって、手に入れることのできる幸せはそれが限界だったように思う。
登場する大人たちは無情で、自分勝手な都合を少年たちに押しつけてくる。だがこれを読者として読んでいる自分はこの大人たちと違うと言い切れるのか。全てにおいて弱い立場に立たされる者たちの悲哀と刹那の自由、そして終焉が描かれたこの小説から、私は大人としてのずるさも身につけてしまった自分の姿を見てしまった気がした。
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太平洋戦争末期、疎開先の村で少年が一時得た「自由の王国」と、刹那的解放。 終盤一気に訪れる、ムラ社会の圧殺と裏切りと絶望感。ラストの村長が本当に怖い。 読み難さはあるが、鬱屈した時代の空気感。土着感のある情景がヒシヒシと伝わって来る。
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この小説の主人公「僕」は、生きていて、今もどこかで暮らしている、そのような構造を、この小説は持っていると思います。語り手「僕」が死んでいたら、読み手「読者」はこの手記?を読めない筈です。また、この手記は、一貫して過去形で書かれています。この小説での出来事は、過去の事実であり、現在=何年後または何十年後の「僕」が、過去を振り返って、手記として書いているのではないでしょうか。
小説の最後、村の村長にたてつくか・たてつかないかの時の、僕・南・李の対応が、この三人の人間性を上手く顕していると思います。この三人の性格の特徴は、この場面以前に何回か描かれていました。
大江さんの文体は、描く対象を、詳細に・生々しく描いていると思います。地方≒周辺の人・モノ・自然等を、この文体で、描いていると思いま
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解像度の高い文章。読んでいて心地よい。
「蝿の王」っぽい設定だが、少年たち同士の対立は弱い。
章の題名は分かりやすくする効果があるが、ネタバレにもなるから一長一短だと思う。
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戦争末期
山奥の谷のむこう側に、外界と隔絶された村があって
そこに町の「不良少年」たちが集団疎開する
村人たちからしてみれば、厄介者を押しつけられる形だった
しかし数日後、村に疫病が流行ったため
村人はみんな隣村に逃げ出してしまい
少年たちは全員取り残されて
それだけならまだしも
線路の橋をバリケードで封鎖され、閉じ込められてしまうのだった
ところがこれを幸い
病原菌の蔓延した村で、少年たちは限られた食糧を分け合い
同じく取り残された疎開者の少女や、朝鮮部落の少年
それに予科練の脱走兵も加え
村を自分たちの理想郷に作りかえようとする
それがしょせん短い夢にすぎないことは
事の初めからわかっていたはずで
疫病か、餓えか、いずれ帰還する村人たちとの戦争か
なんにせよ、死と隣り合わせの休暇にすぎなかったのだけど
そうであればこそ、大人たちへの憎悪を杖に
甘い夢の世界へ逃避する権利が、少年たちにはあったし
不安の種から目を背けることだってできた
大江健三郎初の長編作品
政治的なものも含む全キャリアを通じて
繰り返されたイメージの原型である
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自分にとって初めての大江作品となった。
クセもそれほどなく、違う作品も読んでみたいと思った。
この作品は、そのもののうちからとらえる揺るぎない情景描写がストーリーに重厚感を与えていて心地よい。 スローバラードを聴きながら読みたい作品。
主人公である彼は裏切ることなくできたのか・・・
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読んだのは、昭和40年発行、昭和47年11月30日の11版です。
読書会の課題本で知りました。大江健三郎さんの本は難解とイメージがあり避けてました。
これは23歳のときに書かれたと知り驚きでした。
感化院の少年が村へ疎開するのですが、村では謎の疫病で動物たちが次々に死んでいるところでした。村人は少年たちを村に置き去りにして逃げ出します。朝鮮の人と疎開してきた小さな女のこも置き去りにされてました。マイノリティの連帯、正義が常に反転していて、少年たちの目線で物語を読み進められ。脱走兵もみなから侮辱をうけながら、ちゃんと学問を修めつつある人物だとわかります。
戦時中の全体主義の狂気がいまのコロナ時代に、なんか合ってる気がしました。
無垢な弟が犬を殺され居なくなってしまうシーンに胸がしめつけられ。
村長がお前らを許すと言った嘘の寛大さに怒りを感じ。
すごい作品だなぁ。
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集団疎開である村落にきた感化院の少年達の話。
戦後の貧しい暮らし、自然を擬態化した文章が生々しく、リアルに景色を捉えた作品となっている。
感化院の少年達が疫病の流行る村の中に閉じ込められた時の怒り、自活していく壮絶な生死の境目を語った、力強い筆力が魅力的だ。美的感覚的に言えば美しいとは言えない内容だと思うが、生きる為に奔走する主人公の前向きな主張が現れている作品となっている。
ある意味世の中の風情を描いているような感じもした。昨今の小説では主人公ありきで進んで歩く物語が多い。しかしこの物語では世の中とは残酷な人間達が多く存在し、理不尽な犠牲が多く存在する事を生々しく書いたことに意味がある。残酷な事に流されてしまうのか、理不尽なことに屈する事なく正義を内に秘め、貫き通した主人公は物語の中では誰にも助けられやしない。
しかし、そこに未来への糸口が隠されていると教えられたようであった。
文章が下の内容が多く、読み進めるのが少し困難だった為に評価は3
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想像の世界を実に現実的に感じるのは、自然描写といい、心象表現といい、卓越した筆力にあるようだ。20代での作品というのも驚かされる。「擬する」を銃を突きつけるという意味でさらっと使う人はあまりいないんじゃないか。2020.8.13
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戦争末期に集団疎開先の村で、発生した疫病を恐れて逃げ出した村人たちによって、村内に閉じ込められてしまった感化院の少年たちの一週間ほどの出来事を描いた、著者の長編第一作です。太平洋戦争末期の日本が舞台に選ばれた作品ですが、雰囲気としてはディストピア的な不吉さをもつSF小説に近いものを感じ、絶望的な状況に閉じ込められた子供たちの物語としては、『蝿の王』や後年の漫画『漂流教室』なども連想させられます。
隔離された環境での少年たちの結束や対立をはじめとして、主人公である"僕"の幼い弟の振る舞い、疫病で死んだ母とともに残された紅一点である少女と"僕"の関係、朝鮮人集落の少年との交流、脱走兵の存在、村人たちの帰還など、盛り込まれた数々のエピソードと人物描写で、長編としては長くはないこともあって無理なく読み通すことができました。少年たちが共同体を形成する期間については、予期したより短く終わりました。
表題の意味については「仔撃ち」は序盤、「芽むしり」は最終盤で明示されます。終り方については好みが分かれそうですが、個人的には好感を持っています。
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ノーベル文学賞作家、大江健三郎さんの初長編。
難解。
太平洋戦争末期、感化院の少年たちが疎開した先の閉ざされた山村で疫病が流行る。村民が避難をして、少年たちは束の間の自由を得て…という物語。
感化院とは、少年犯罪者を感化(考え方や行動に影響を与えて、自然にそれを変えさせること)する施設。
今の少年院みたいなものか?
少年院の少年たちが疎開する、という状況がそもそも想像することが難しい上に、疎開先の村の村民が疫病から逃れるため少年たちを宿舎に閉じ込めたまま避難してしまう、という設定もなぁ…
戦時ということもあるのだが、昔の人っていい加減だなぁと。
人権なんてない。
この本も伊坂幸太郎さんが選書した一冊。
伊坂さんは、大江さんの小説に出会い「小説を読むとこんなにヤバい気持ちになるものなのか、と教えてもらった」と言う。
ヤバい気持ちに浸りたい人におすすめ。
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太平洋戦争末期の感化院の集団疎開のお話。もちろんこれは小説で、本当にこんな世界があったとは思いたくはないが、情景描写が生々しく、ノンフィクションとしてさせ感じられた。孤立は自由を与えてくれるが、不安や恐怖がその大半を占めていると感じた。ただ、孤立の不安や恐怖を乗り越えてとった行動によって、新しい世界が広がるように思えた。