紙の本
天災は忘れないうちにまたやってくる
2023/11/21 07:00
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「天災は忘れた頃にやってくる」というのは
科学者で随筆家の寺田寅彦による言葉といわれる。
しかし、最近では天災は毎年のようにやってくるといいたいくらいだ。
特に夏になると必ず起こる水害。
日本全国どこで起こって不思議でないくらいに、
毎年水につかった街や田畑の映像を見ることになる。
直木賞作家門井慶喜さんの『天災ものがたり』は
過去のさまざまな時代と場所で起こった6つの天災を
物語にした短編集だ。
昭和38年の裏日本豪雪(いわゆる三八豪雪)を描いた物語の最後に
こんな文章が書かれている。
「現代は、天災でないものを天災にしたのだ。」と。
「人類がますます進歩するにつれて、また新たな種類の天災が生まれ出るかも」。
最近の天候異変は、まさに地球温暖化という
人類の進歩が生んだものかもしれない。
この短編集には、
ほかにも天文11年の甲府洪水、明治29年の三陸沖地震、寛喜2年の大飢饉、
宝永4年の富士山噴火、明暦3年の江戸大火といった天災が描かれている。
描かれた災害は事実だから、その意味では歴史小説でもあるが、
登場する人物などは門井さんの創作によるものだから時代小説ともいえる。
フィクションをあえて組み入れることで、
天災によって生まれた悲劇やそれに対応した人々の苦しみなどが
より実感できたように感じる。
紙の本
災害を捉え直す
2023/11/30 14:30
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投稿者:怪人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
新聞の書評欄で本書を知り、しばらくぶりの図書購入。鎌倉時代から昭和に至る7百年余りの期間、洪水、地震津波、大飢饉、富士山噴火、大火事、豪雪という天災に見舞われた日本各地域の様々な断面を捉えまえて人間模様を見事に描いている。災害という切り口からこのような人間模様、時代の姿を映し出す物語は初めて読む。堪能できる小説集である。
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様々な時代の様々な“天災”を題材に、硬軟取り混ぜた短編が6篇収められている。のちの信玄、頼りない武田晴信を変えた治水事業はコミカルでもあるし、冷害による飢饉から派生する人身売買に巻き込まれる商人など、様々な見方で天災というものの影響を考えさせられる。今年は関東大震災から100年ということもあるし、南海トラフ地震(前回のに関連した短編もあり)も身近に迫っている今だからこそ、読めてよかった。
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武田信玄の治水の話を読みたくて図書館で借りました。本当に偉大な功績だったと思います。ただ、自分の中では晴信と板垣信方との関係は忠義に基づいたかけがえのないものだと言う思いがあるので、そこは別の物語だと思いながら読みました。テクノロジーの発達した現代でさえ災厄の被害は甚大なのに、昔はもっと壊滅的だったのでしょうね。
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日本史上に幾多とあった天災。それらを題材に災害から立ち直ろうと奮闘する人々を描いた連作集。
信玄堤、三陸沖地震、飢饉、宝永の富士山噴火、明暦の大火、三八豪雪。
天災と人災の境目について考えさせられる一冊。
氏の作品には外れがない。
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久しぶりに三陸に。田老の巨大堤防は予想以上。田老もだが、三陸あちこちの立派な球場に違和感…メディアでは伝わらない復興の現実。高台移転の失敗にも歴史があるんだ。「要するに誰も彼も百年の計より目前の便宜を取ったってことだ」「人の暮らしってのは頭の中で考えるようには行かないもん」「お金というものはタダでもらうなら単なる数字だが、労働の対価として受け取れば人間の肯定そのものなのである」考えさせられた。
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門井慶喜さん初読み。歴史的大災害の数々をモチーフにした短編集という、ありそうでない切り口が興味を引いたので。描かれるのは天文甲府洪水vs信玄、明治三陸大津波vs漁師、寛喜大飢饉vs京商人、富士山宝永噴火vs馬引き、明暦江戸大火vs囚人、昭和38年豪雪vs教師。災害そのものより人間心理に重きが置かれていた。いくら文明が発達しても、災害との向き合い方は根本的に今も昔も変わらない。「人のいるところに天災がある。逃れるすべはなく、あるのは逃れかたの上手下手だけ。または運だけ」である。
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洪水、地震、噴火…6つの物語の主人公が突然の災害に翻弄され、苦渋する姿は最早他人事とは思えなかった。災害の爪痕は後世に範例を残す。日本が災害に強い国になるには、未だ遠く長い道程だと感じた。
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歴史の小説は確かに現代からの歴史だ。人買いの話とかとても強く感じる。明治には明治の、江戸には江戸の人買いの見え方があって、それがそれなりに記録されて伝わっていて読めるってすごいことだ。
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2018年に「銀河鉄道の父」で直木賞を受賞した著者が過去に実際に発生した歴史的大災害をモチーフにした短編集。あくまでも大災害はモチーフで、実際に描かれてるのは人間。この方は人を描くのはうまい
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川の氾濫,津波,飢饉,富士山の噴火,江戸の火事,新潟の大雪を題材にした短編集6編
災害とそれに立ち向かう人々の姿,運や巡り合わせも含めて,天災後の対処の仕方にも一捻りあって面白かった.
武田信玄の信玄堤は有名だが,この信玄の姿はとても素敵だ.
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いろんな時代の天災を描いた短編集。
「一国の国主」天文十一年甲府洪水
「漁師」明治二十九年三陸沖地震
「人身売買商」寛喜二年大飢饉
「徐灰作業員」宝永四年富士山噴火
「囚人」明暦三年江戸大火
「小学校教師」昭和三十八年裏日本豪雪
6編収録。
時代が変われど天災は起こる、時代が変わると天災も変わる。
天災に対して人力は如何に無力であるか、天災に対して人は如何に強かであるか。
天災をテーマにしながらも直接天災を描くのではなく、それに翻弄された人を描くことで、天災に対する人としての心構えに共感しました。
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タイトルが示す通り天災~洪水、津波(地震)、冷夏(飢饉)、噴火、大火、豪雪~を舞台にした6つの短編。時代も鎌倉時代から昭和38年(豪雪)まで、場所も様々です。
門井さんはこれまで5作品読みましたが、短編は今回が初めてです。
長編では軽快な語り口でサクサク読める作家さんという印象が強かったのですが、この作品はやや重く、しっかり書き込んだ感じがあります。短編のせいでしょうか。
天災を乗り超えて行く話ですが、いずれもかなりの苦みを含み、味わい深く仕上がっています。
強いて言えば、「大火」は前振りをもう少し、例えばキリシタンの妻の想いなどを書き込めば良かったように思うし、「豪雪」の最後の天災の解説は無い方が余韻が残ったような気がします。
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日本史上に起こった大災害を6編から描く。
「一国の国主」
暴れ川の治水工事を行なった武田晴信(後の信玄)。
人間味あふれる一面が知れておもしろい。
人は、津波・大火など天災の前では無力。
P288
〈人のいるところに天災がある。逃れるすべはなく、
あるのは逃れかたの上手下手だけ。または運だけ〉
「除灰作業員」でも書かれている。
富士山の噴火により降灰で村が覆われた。
幕府により、一方の村は見捨てられ、もう一方の村は『焼け太り』。
たった一里の差が村の運命を変えた。
大飢饉による飢えから、村人が次々と流れてくる
「人身売買商」も辛い。
どの話も人々の悲痛な思いが胸に迫りくる。
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『銀河鉄道の父』の著者による、戦国時代から昭和に至るまで日本を襲った災害にまつわる人間ドラマ集。〈小説現代〉に2020〜22年に発表された。
『一国の国主』天文十一年(1542)甲府洪水(「信玄堤」構築物語)、
『漁師』明治二十九年(1896)三陸沖地震(ある漁村の高台への移転の試み)、
『人身売買業』寛喜二年(1230)大飢饉
京の都で「問丸」=都住人に物資を輸入する商社〈柿鍋〉を営んでいた滝郎は、寛喜元年からの異常気象に「これは不作になる」と見て米の先物を「値段に構わず買い付けろ」買い集め同二年の収穫期には平年並の地方からの米供給で巨利を得た。彼に関係する流通業者から請われて飢饉で食い詰めた男女を引き取り、京の富裕者に屋敷の雑事をこなす人員として斡旋することで「人助け」をしたが、翌年、袖の下をはずんでいた甲斐もなく「人身売買で荒稼ぎした」との咎でひっとえられ、(人身売買は御法度の一罰百戒のモデルケースにされたか?)顔に焼印を捺され追放された。
『除灰作業員』宝永四年富士山噴火(1707)
噴火は時代劇などでは悪役だが現在では再評価されている田沼意次の失脚の一因にもなった。(須走村の焼け太り)、
現在では、天災は“為政者の人徳・福徳とは無関係”と一応は認識されているが。2011年に民主党政権シンパが、石原都知事の「震災は天罰」との発言に、過剰に否定したのは、戦後初めて“靖国の英霊”に政府関係者の参拝がなかったことで祭神地神天照大神に申し訳無いとの日本民族の情動が動くのを恐れたためだっただろうか?
『囚人』明暦三年(1657)江戸大火(解き放たれたキリシタン囚人の物語)、
『小学校教師』昭和三十八年(1963)裏日本豪雪(帰省した教諭とその代理教諭の物語)。