彼らが立つは現代社会の縮図か
2023/12/11 13:30
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投稿者:とる - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者の卓越した脚本能力に、特に終盤にかけて戦慄が止まらなかった。
霧に包まれてぼんやりとした外郭が、読み進めるにつれて明瞭となっていくような感覚は太田氏の著作を通じて見られるものだが、この作品については殊に強調すべき点だろう。御伽話のように柔らかな語彙を用いながら、街を蝕む歪みを抉り出す鋭い視点に感嘆する。
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投稿者:nekodanshaku - この投稿者のレビュー一覧を見る
祭りの日の楽し気な広場での写真に納まる人々の姿から、一人ひとり舞台から消えていく。とある時代の、とある場所でのディストピア社会を描いて、現代社会を、日本社会を風刺する。ディストピアを支配する政府は、芸術・学術への弾圧、リテラシーと知識の抑制、妊娠・出産・子育てへの介入、により、人々は国への愛と忠誠心、従順さの強化へと向かう。子供たちは常に、大人達によってあらかじめ形作られた世界に生まれてくる。大人が見たいものだけを見て消費した歳月の負債は、常に次の世代が支払うことになる。戦慄する現実が、物語にあった。
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投稿者:みるちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ファンタジー作品かなと思いきや良い意味で裏切られた。テーマは重く深い。なかなかストーリーに入り込めなかったが、涙が出た。
ファンタジーではありません
2023/10/10 22:34
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投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
最初、人間が消える話だからファンタジーかな、と誤解。祭りの四日後に最初の一人が消える、始まりの町、というからてっきり……。違ってました、怖いです、少なくとも自分は合いませんでしたが、合う人にはいいかと、読んでみてください
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ファンタジー調に描かれているが、一つ一つのエピソードは現実世界のどこかで起こっている悲劇を風刺している物語だと思う。
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太田愛の3部作とは全く異なる、若干ファンタジーじみたドラマ。舞台は中世の海外のイメージで、主に身分差による差別や迫害が描かれる。裏には現代への警鐘が流れていて、描写が辛いのでメッセージとしても強い。とは言え相性が悪く、とても読み進め難かった。4部に分かれてそれぞれ語り手も違うが、特にカタルシスもなく、まあまあ淡々としている。作品としてはとても意義があるとは思うんだけど……。
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ファンタジーでなければ辛すぎて最後まで読めなかった。
陰鬱な中にも、こころ優しい登場人物がいて、なんとか悪い方向にいかないでほしいと願いながら読みました。
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いつもの太田愛作品のつもりで読み始めたが、様子が違う…どこかで軌道修正されるかと思ったら、そうでもなく…これはなんなんだとずっと思いながら、最終章。
何かがわかった訳でもなんでも、謎が解けた訳でもないけれど、号泣だった。
今まで読んで来た本の中でベストに近い。
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古く歴史のある街。差別が平然と行われている。
中央集権になり、独裁になり、戦争に巻き込まれて、全てが失われる。どこがで、今起きてるかのような物語。
力作。
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『天上の葦』で過去の戦争から、今度は遠い未来から作者が現代に鳴らす痛烈な警鐘。
このディストピアは紛れもない今私たちが生きている世界が辿るであろう運命の物語だ。
第一章のトゥーレの母親の失踪をきっかけに〈始まりの町〉の様々な“顔”が炙り出されていく過程はスリリングで、結末を見届けたくなる興奮が止まない。
多様性を認めようとなりつつあるこの社会、考えることを大きな力に明け渡していないか怖くなる。
奇跡を願う世の中になった時にアレンカやコンテッサ、4人の語り部たちのような先を見て屈しない生き方を引き継げるだろうか。
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これまで読んだ著者の作品のイメージとは、全く異にする小説なので、戸惑いながら読むことになった。
序章から始まり、4章で構成され、トゥーリ、マリ、葉巻屋、魔術師と、それぞれ異なる語り手が話を始める。
彼らの名前からはどこの国とも想像が付かず、彼らの住む町も「始まりの町」と呼ばれ、SFか寓話か、なんとも捉えきれなディストピアの世界が広がる。
この世界では、中央府の印が入った推薦本一色となり、その他の本は認められず、地下出版した秘密の印刷所は警察に急襲され逮捕されるという。逮捕者は中央府の矯正施設に送られるなんて、まるで北朝鮮か中国を思い起こされるが、この日本でもいつかはあり得るか。
政党間の憲法改正で、緊急事態条項とかが論議されている。こういった法律の危険な側面は、松岡圭祐著『高校事変』で語られていた。
底流にあるのは、やはり著者らしい現代への警世であり、話が進むにつれ、著者の警句というか現代及び将来を見据えた言葉が綴られる。
「強大な力の独占は災い以外なにものも生まない。だが人間は富も力も分け合うことを嫌い、可能な限り仲間内で独占しようとする。なかでも最も恐ろしいのは、力を持った悪人ではなく、力を握った愚か者たちだ」
「他者の尊厳のために闘わないと言うことは、自分の尊厳をも手放していくことよ。個々の尊厳は貧しく痩せたものとなり、おのずと命の単価は安くなる。それがどんな事態を招くのか、この町はいつかきっと知ることになるわ」
著者がこれまでの書で危惧する事態が、現実となる日が来るのだろうか。
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★★★★★+
少年、怠け者、葉巻屋、魔術師4人の視点で綴られる、ある街に起こった悲しい出来事
これはディストピア?歴史?現実?
読む人によっていくつもの感じ方がある
過去に学ぶための作品なのか?あるいは現在の我々に対する警鐘なのか?
解き明かされる少年の母に起きた真相はとても深い
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この小説の舞台となる国も時代も明らかではないが、その中央集権的な統治が進んでいくところは幾つかの実在の国を思い起こさせる。氏名や地名からは東欧のような感じも匂わせるが、いつの時代だかの日本のようなところもあるし、あるいはこれからの•••
太田愛の痛快エンタメ作品とは趣きの異なる寓話のようなファンタジックな小説だが、独裁、腐敗、謀略、癒着といった闇の世界が見せて夢か現実がわからないような恐ろしい社会を描いた社会派空想小説といったところ。すでに発刊から数年を経ているが、今だからこそのリアリティーもあってスリリングな展開にドキドキした。政治に無関心だと今にこうなるよ、という警鐘が聞こえてくる。
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はじまりの町で起こる余所者羽虫差別と事件とその後の話。章ごとに語り部が変わり、進むごとに謎が解けていき、各々の葛藤が伝わり辛い。町の人から羽虫への接し方に腹立つ。人ではなく物だという扱いにこちらが耐えれなくなる。そして町の洗脳に気付かず良いように支配される、無関心ほど怖いものはないと感じる。先の章に行くにつれ未来が見えなくなり息ができなくなる。
にしても、ファンタジーと割り切れない圧倒的既視感。他所の国で、この日本で、起こりそうで他人事には思えない。
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テレビドラマの脚本を手がけ、「犯罪者」シリーズのノンストップエンターテイメントで唸らせてくれた太田愛さんによる、これまでの作品とは大きく変わった寓話小説。
ただし、そこはさすがにこの作者。寓話の根底には、現代社会が抱える課題が描かれています。
社会派エンターテイメントへと流れていく過程で書かれた作品なのでしょう。
とっつきにくいけど、2回読むと、この小説のプロットが実に巧みであることに気付かされます。きっと。自分は一回しか読んでませんが(笑)