播磨の国衆から筑前の国持大名へ
2022/10/17 16:26
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書名が「官兵衛」でも「如水」でもないところに、確かな史料を基に実像を描くんだという意気込みを感じたり。「軍師」ではないのは当然だが、その虚像がなくなっても、なお優れた武将の姿が残るのは流石。個人的には秀吉との緊張感あふれる関係が読みどころで、毛利家との交渉などで抜群の信頼を得ながらも、朝鮮の役ではスケープゴートとして猛烈な叱責を浴び、失脚寸前なのが印象に残る。またその毛利とのパイプや政権内での位置が、関ヶ原での去就に繋がったのも面白い。播磨の国衆から筑前の国持大名へ。激動の時代を懸命に生きた姿がある。
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九州大学大学院教授による黒田孝高の伝記です。
当時の一次資料から追い、それをもとに人物像を再構築されていて、良い本だと考えます。
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黒田官兵衛あるいは黒田如水の名で知られる有名な戦国武将の生涯を歴史家が丁寧に記述した歴史書。私は以前直木賞と受賞した『黒牢城』という小説を読んだことがあり、その小説の主要人物の一人である黒田官兵衛(黒田孝高)に興味を持ち、本書を読むことにした。
この本は、小説ではなく、歴史家が信用に足る史料を用いて書いた物なので、この本の中で記述される黒田孝高は、小説の中で、しばしば書き手の想像力に基づいて描写される人物像とは必ずしも一致しない。例えば、この本の冒頭で著者は孝高が歴史小説の中では「稀代の軍師」として描かれることがあることに関して、「このような評価は必ずしも学術的な裏づけをもつものではない。(p.5)」」と指摘する。著者によると前近代の日本には「軍師」という職責は確認されておらず(p.5)、「今日、「軍師」として語られる人物の多くは、江戸期に隆盛した軍学(兵学)の始祖に位置づけられている。(p.5)」とのことである。つまり、歴史学的な観点からは、「軍師」としての孝高像は後世の創作であると考えるのが妥当であるということだろう。
ただし、本書を読むことで、黒田官兵衛(孝高)を主人公にした様々な歴史小説の時代背景を学んだり、小説では詳細に描かれない彼の実像に迫ることはできる。一例をあげると、『黒牢城』ではあまり描かれていなかった、孝高が有岡城の荒木村重を説得に向かうことになった経緯や、彼が幽閉されている間の黒田家の状況、また孝高と毛利家との関係が本書では述べられている。特に毛利家との関係に関する記述は詳細であり、始めは敵対関係にあった毛利家と信長(のちに秀吉)配下であった孝高が徐々に親交を深めていく様が詳細に記されている。
この本の特徴として、著者は孝高や秀吉など様々な人物の手による書状などを多く引用し、彼らの行動や彼らの間の交流を克明にかつありのまま記述しようとしている。知行の充て行いに関する史料などは本書を手に取るまで見たことがなかったので、とても興味深かった。(本書では孝高や息子の長政及び黒田家の家臣達の知行高に関する情報が詳細に示されている。)また、筆者の記述の関心は必ずしも政治的なものには限定されず、孝高と茶道や連歌との関わりや彼のキリスト教信仰についても、限られた史料を駆使して可能な限り描きだそうとしているので、孝高という人物を様々な角度から知ることができたと思う。
引用される史料は当然ながら言葉使いが古く、私のような一般人には解読が難しいものが多かったが、著者は史料を引用するたびにその内容を簡潔に説明してくれるので、歴史学が要請する厳密性を損なわない範囲で、分かりやすさも確保されていると感じた。黒田孝高あるいは戦国武将一般が好きな人、戦国時代を扱った歴史小説の時代背景を知りたい人は勿論、歴史家がどのように歴史上の人物を研究し叙述するのかを学びたい人にも薦められる本だと思う。