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著者が加田伶太郎のペン・ネームで発表したミステリ作品八編と、「素人探偵誕生記」というエッセイを収録しています。なお「解説」は、ミステリ作家の都筑道夫が執筆しています。
伊丹英典という古典文学の研究者が探偵役となり、研究室の助手である久木進がワトソンの役目を務めて、二人がさまざまな難事件にいどむ連作短編集となっています。純文学作家がミステリの枠組みをとりこんで書いた小説ではなく、福永武彦名義の小説作品とはべつに、本格ミステリとして読まれることを志向して書いた小説といえるように思います。
とはいっても、「解説」で都筑が「謎と論理が二本の足であって、トリックは自然で奇抜なものが出来ればあってもいいが、不自然なものならばないほうがいい、いわばしっぽのようなものだ」と述べているように、トリックそのものに眼目があるのではなく、限定された登場人物と状況を用いてミステリ作品として厳格な世界を構築することに、著者のねらいがあるように感じられます。