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投稿者:くみみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
新卒一年目で退職したみなとと、不登校の高校生あすか。隠れた郵便箱を通し文通を始めた二人が、ありのままの”できない自分“から新しい事を見付けていく、気付きと成長の働き方アップデート物語。
未だに蔓延る古くからのハラスメント問題と、昨今の過剰なハラスメントハラスメント問題。線引の難しい問題を、どちらか一方に寄らずに描いた点と、みなとの潔さとメタ認知能力の高さが卑屈さを感じさせない点がとても良かった。
みなとが会社では出来なかった心配りを、友人と居る時には自然と出来ている矛盾。当たり前に固定観念を押し付けられる鬱陶しさはありながらも、こちら側にも確実にある落ち度。細かな部分が徐々に浮き彫りにされ、それに気付いていく過程を丁寧に掬い上げた作品。
距離を保ったまま新しい視点で、“できない”から始める、という感性にとても惹かれた。
仕事と捉えるか、モラトリアムと捉えるか。文通をきっかけに意気投合した二人が始めた「文通屋」。
二人の、文通屋を利用する人の、生き辛さはどこなのか?可視化出来ないものを少しずつ紡ぎ出し、昇華していく。新しい働き方と、生き方の形。
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2024年上半期に読んだ本の中で、一番好きかもしれない。
「会社が燃えないかなぁ」と思うくらいに嫌だった会社を辞めて、毎日実家で焦りと共に休職しているみなと。
散歩中に、公園の茂みの中に古い郵便ポストを見つける。中をのぞいてみると、なんと手紙が!差出人は「あすか」さん。
そこから二人の往復書簡が始まる。
手紙の相手が意外な人物で驚きもあり、開始45ページくらいで怒涛の展開に惹き込まれる。
飛鳥の提案で、文通屋さんを始める二人。
自分の「好き」や「得意」を活かした新しいお仕事は、見ている側もワクワクする!
でも現実は楽しいことばかりではなくて…
理想とのギャップや想定外の問題に、四苦八苦しながらも、お互いに思いやって、手を取り合って進んでいく二人の姿に励まされる。
社会の厳しさの中に光る、人の優しさを感じる。
「私も何かを始めたい!」と思わせてくれるお話。
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著者の作品は4作目ですが、個人的に本作が一番好きでした!
新卒入社の会社を退職し、なかなか次の一歩を踏み出せないみなとと不登校の飛鳥。
息苦しい日々の中でたまたま出会い、見つけた安らぎと新しい居場所。そこから始まる新たな試み。
これからの働き方について描かれていますが、穏やかで優しくて読んでいてホッとする。
ちょっとした会話シーンも、どこを取っても楽しくて微笑ましくて、読みながらニコニコしてしまう。
先が気になってワクワクする読書が楽しい!
そして温もりのある手紙が素敵でした。
立ち止まり、もがきながらも、ゆっくり前に進んでいくみなとと飛鳥が愛おしい。
登場人物が魅力的で読めば読むほど好きになりました。
ずっと「鳥と港」を見守っていきたい。
穏やかでとても満ち足りた気持ちになれる素敵な読書時間。
是非シリーズ化して欲しい!
こちら「再生物語」でもあり「人生応援小説」でもあると思う。
『心をことばに。ことばをあなたに。』
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文通、この心ときめく響きの言葉を私は久しく忘れていました。
手紙を書くなんて時間も余裕もない、そんな人がたくさんいるタイパなんて言葉が飛び交う世の中で、「散らばった言葉や感情をゆっくり拾い集め」「自分の心の形や動き方をなぞる」行為のもつ柔らかさや暖かさは、まどろみのような幸福がお腹の中からしゅわしゅわと湧き上がってくるような心地がしました。
言葉を大切に、大事にしたいと思い出させてくれます。
始めることも続けることも、道を見失わないことも一人では難しい。みなとと飛鳥が出会えたこと、二人が助け合ったりぶつかり合ったりしながら二人で道を作っていく過程がとても羨ましく思いました。
自由でいて、時には孤独で奔放で、でも帰ってくる場所がある。「鳥と港」というタイトルもとっても素敵で好きです。
#NetGalley
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現時点で今年読んだ中で一番好きな小説です。
自分の場合読んでいて面白い小説は面白いから小分けにして何日かかけて読もうというのとページを捲る手が止まらず一気に読んでしまうのと2種類あるのだけど、本作は最初は小分けにして4日位かけて読もうと思っていたのに結局2日で読み終えてしまいました。
みなとも飛鳥もミノルも柊ちゃんも下野さんも、そして福崎先生でさえもみんな愛おしい。田島課長だけはダメだけどあれはそういう役回りなので仕方ない。
本作は佐原さんがSNSなどで発信されていたことと重なるような内容もあって本作を書き終えるまでにものすごく苦悩したのだろうと想像もした。
そして本作は何よりも言葉の言い回しが好き。再読したら好きだと思った箇所を全部抜き出していつでも見られるようにしておきたい。
その中でも一番好きな箇所が『大事なことはいつも二択の間にこそあるのに。』自分は家族や子どもとそれを理解できるのに何年もかかったから本当に心に響きました。
本作が今後もずっと佐原ひかりさんの代表作でエバーグリーンな作品になることを心から願います。
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大学院卒業後、新卒で入社した会社を9ヶ月で辞めたみなと。仕事内容に対する不満以上に、会社という組織に属することが向いていなかったのか。悩み続ける彼女はある日、公園の草むらの中に隠された郵便箱を見つける。中には不特定の誰かに宛てた手紙が入っていた。その手紙の送り主・飛鳥との文通が始まり、やがて新たな挑戦に繋がっていく……。
主人公のみなとの行動や考え方がいちいち気に障り、なかなかにいらいらさせられた。反面、自分を振り返ってみると、多かれ少なかれ当てはまる部分もあるなと気づいた。
読み進むにつれ、みなとは自分の欠点に気づき、成長していく。その姿がとても好ましく思えた。
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佐原ひかりさんの書く文章、やっぱり好きだなあと改めて。
じめじめした6月に読んでいるとは思えないほど、読んでいると気持ちの良い海風を感じるような小説でした。
みなとの経歴や職場や仕事に対する考えに自分が重なるところがとても多くて、ものすごく身近で現実的な話に感じる一方、
あすかくんのようなまぶしい男の子の存在は非現実的に感じる。
そのバランスがとても心地よくて、楽しく読むことが出来ました。
自分のことをなんとかごまかしながら、意味があるのかよく分からないような仕事をこなし、漠然と辞めたいなあ、と感じる毎日。
でも常にお金の不安が後ろを付きまとってきて、結局のところまた毎日出勤してなんとかこなしての繰り返しで。
もっと自分の不快感としっかり向きあって、きちんとことばにして、環境はすぐに変えられなくても考え方や向き合い方から変えてみて、
気持ちに蓋ばっかりする毎日をやめたいな、と思いました。
わたしの近くにはあすかくんはいないので、やっぱりちょっとみなとが羨ましい。笑
面白いと思って、誰かのためにと思って、心をこめて。
そういう仕事のことを非現実的だと考える前から諦めてしまうのは勿体ないよね。
私も文通したい。お手紙出したい。現実にも鳥と港があればいいのになあ。
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こういう関係性って素敵。
温かくて誠実な、「文通」をテーマにした物語。
優しいからこそ、不器用な2人を応援しながら
共感したり、グッときたり。
佐原さんの作品は毎回「読ませてくれてありがとう……!」とじんわり幸福になるので、大好きです。
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誰かのために紡ぐ言葉、誰かのために綴る文字、その優しさをずいぶん前に手放してしまっていた。
1人ぼっちの部屋に届く一通の手紙、その温かさにずっと救われていたのに。
九か月で仕事を辞めてしまったみなとと、学校に行かない高校生あすかの、二人が始めたビジネス、文通屋。
いいねぇ、その発想。
日々流れていく大量の情報や、瞬時に交わされるその場だけの文字たちに、それでもすがりたいほどには私たちは何かを求めている。
今すぐ返事をしなきゃ、読んだらすぐに!という呪いのような関係の中で、便箋を選び、切手を選び、ペンを選んで一文字ずつ文字を書く。ポストに出してから返事が戻ってくるまで一週間かかるのが当たり前。
そんな、手紙が生み出す時間のラグさえ愛おしい。
自分が書いた手紙はコピーでもしておかなければ自分の中には残らない。
書いたことを忘れてしまう。でも、それでいいんだと、記憶を預け合う相手がいればいつかそれが必要なときにきっと届けてもらえるんだから。
働くことの意味って何だろう、と読み終わった後も考えている。好きなことを、得意なことを、やりたいことを仕事にする。そんなのほんの一握りの人にだけ赦された特権なのかもしれない。
それでも、生活のためと割り切って、やりたくないことも、やる意味のないことも、誰かがやらなきゃいけないことをただやり続ける。それも必要なこと。
そう思うと、今の自分がすごく恵まれているって気付いた。
2人のビジネスがこの先どうなっていくのか、そして二人の関係はどんなふうに変化していくのだろうか。それを想像するのも楽しい。
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新卒で入社した会社に馴染めず、9ヶ月で辞めたみなとと、不登校の高校生・飛鳥が、ひょんなことから知り合い、文通屋を始めるという物語。
主人公のみなとや飛鳥を通して、会社や学校といった社会で馴染めず、苦しい思いをしている人の心情が丁寧に描かれていました。
タイムパフォーマンス重視のこの世の中で、手間をかけて手紙を書くという行為が、とても高尚なことのように感じました。
学生のとき、毎日顔を合わせる友達に、授業中手紙を書いて渡したり(作中にあるようにハート型に折りました)、遠くに住んでいる友達に手紙を書いたりしていたのに。今では年賀状ですら通話アプリのメッセージで済ませてしまっていることに少し反省しました。
自分の思いを会話や手紙で伝えることの難しさ、だけどとても大切なことだと改めて気付かされた作品でした。