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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
いつも思うのだが、桜木紫乃さんはどうしてこうも巧いのだろう。
まるでおいしいお酒を呑んでいるかのようで、
透き通っていて、それでいてとろり感があって、辛口でも甘口でもなく、
何杯でも呑めそうで、これはきっと酔うだろうという予感があって、実際酔うのだけど、
二日酔いにはならない、そんないいお酒。
桜木さんの文章を借りれば、「夢か現かわからない時間」を味わうことになる。
「本」というワードで描かれた、5つの短編を収めたこの『青い絵本』もまた
そんな時間を体験する。
表題作の「青い絵本」はかつて義理の母であり、今は絵本作家となった老女から
絵本の挿絵を頼まれる主人公。
老女には死期が迫っていて、主人公に託されたのは青を基調とした絵。
これから生まれてくる「青い絵本」を仲立ちにして、老女と主人公が過ごしてきたほのかな交わりが描かれる。
死の気配が濃厚なのは、もう一篇「いつもどおり」もそうだ。
作家のもともかつての編集者から連絡がはいる。編集者もまた死に向かう大病をわずらっている。
人は死期が迫っても、何かをなそうと懸命生きる。そんな姿を見つめる、桜木さんの目はやさしい。
そのほか「卒婚旅行」「なにもない一日」「鍵key」の3篇ともに、いい味わいの口当たりだ。
こんな短編集に酔うのもいい。
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2024/11/01リクエスト 1
『じっと耐え、晴美の内側で煮詰めて冷凍した
解凍さえしなければ永久に出てくることはない』
さすが桜木紫乃だと思うフレーズ。他にも言葉のひとつひとつが吟味されているから何度も行きつ戻りつゆっくり読んだ。
最初の卒婚旅行、最後の青い絵本、が特に好き。本にまつわる人が出てくる、そして年老いたり病を持っていたり人生の終盤に向かう人。絵本という赤ちゃんから読めるものを死にゆく人にも、どの年代の人にも必要なときに手に取れる、人生のラストは本や絵と過ごしたいと思った。
とても美しい装丁でうれしくなる。いい読書時間を過ごせました。
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絵本って言葉が少ない分、心の奥にすっと入ってくる気がする。だから、大人になってから絵本を読むのも、子どもの時とはまた違った楽しみ方があって良い。
そんな大人の絵本にまつわる短編集が5つ。好きだったのは「卒婚旅行」と「青い絵本」。
「卒婚旅行」はひたすら晴美の気持ちに共感。
「青い絵本」は美弥子の描いた青い絵を想像しながら…青って、確かに喜びも悲しみも表現できる色なのかもしれない。
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好きな話は「卒婚旅行」、印象が強かったのは表題作の「青い絵本」だった。卒婚旅行はその後の2人の生活、関係が気になる。青い絵本は読んでいる最中にいろいろな青をイメージした。
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表紙のイラスト窓からそそぐ光の美しさテーブルとイスが映えて見えて素晴らしいと思いました。5編の短編小説でしたが、心に沁みいるお話ばかりでした。中でも気に入ったのは卒婚旅行でした。離婚はせずお互い卒婚して自由にふるまうとのことが印象に残りました。私たちの夫婦も今そのような状態あるかも知れないと思っています。卒婚旅行してみたいです。あなたもこの深い話を読んで考えてみてください。
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絵本をモチーフにした短編。
どのお話も 静けさを感じました
「何もない1日」「いつもどおり」
が本当は大切で幸せ何事なんですね
どれも良かったですが私は「青い絵本」が好きです。
「あお」絵本として読みたくなりました。
他のお話に出てくる 絵本も読んでみたくなりました
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絵本を通じての短編小説
短くわかりやすい絵本
絵本の読み聞かせや絵本作家
それぞれの人生や分かれ道
でもそれぞれが絵本を通じて歩きだす
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自分自身を切り刻み血まみれのまますさまじく美しい笑顔で前へ前へと進んでいくような女性を描く桜木紫乃の作品に少しなじめなさを感じていた。
そんなに自分を傷つけなくても、と、そんなに無理に頑張らなくても、と。
でも、そういう女性を描いてきた桜木紫乃だからこそ描けた優しく温かい物語なのだろう、これは。
深紅のイメージだった桜木作品が、こんなに透明で優しくて温かい青に染まるなんて。
5つの物語。5つの人生の岐路。夫との、姑との、息子との、編集者との、そして母との関係の、新しい一歩を踏み出すための分かれ道。
それぞれの物語が深く深く心にしみてくる。自分の物語じゃないのに、自分がそこにいるような気がする。
物語の中に、一冊ずつ絵本が登場する。読んだことのないその絵本が自分の本棚のすみっこに並んでいる気がする。
心が柔らかくほぐされていく。
優しくて温かくて透明ななにかが心にそっと触れていく。
あぁ、こういう物語が欲しかったんだ、と気付く。これは、自分の知らない自分の物語なのかもしれない。
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p101 乗りたがる一行は危険で、それこそが余計だったりする。
なにが余計かー小夏の未練である
p117 年を取るということは、言葉を得るということでもあるのだろう。
言葉で納得できるし、言葉になる。だからーー言葉にしないことも覚えたのだった。
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それぞれのストーリーの中に思い出の絵本が出てきます。
本の題名の「青い絵本」は思い出となる絵本
青い絵本のエピソードに波します。
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〈作家、編集者、セラピスト、書店員――さまざまな形で絵本に関わる人々が、絵本を通じて過去と対話し再生する姿を、静謐な筆致で紡ぎ出す〉
タイトルが気に入りAmazonポチっと
うーん、買うほどではなかったかな
と思いかけていたところ
短編5話のラスト、表題の「青い絵本」が
心にじんわり沁みこみました
買ってよかった(笑)
〈この物語は、あなたの明日をやさしく照らす〉
帯のようにはいかないけれど
≪ 振り返り あれでよかった あの岐路は ≫
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「卒婚旅行」
「なにもない一日」
「鍵key」
「いつもどおり」
「青い絵本」
絵本をモチーフに綴られた五話収録の短編集。
桜木作品に時に見られる激しさは鳴りを潜め、心地良い静けさを感じる作品だった。
「卒婚旅行」は『Seven Stories 星が流れた夜の車窓から』に収録されていた「ほら、みて」を改題したもの。
再読になったが、離婚に怯える夫と卒婚を希望する妻の姿が生々しく情景が浮かび上がった。
表題作の「青い絵本」は、北海道支笏湖の碧、月の青、月に照らされる人達の青、さまざまな青を感じながら、静謐な世界観に浸った。
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たくさんの経験をして人生の終わりについて考えるようになった頃に読むとまた違う印象を持つのだろうなと感じた。若い人にはまだ早すぎた気がする。
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様々な絵本をモチーフにした少々ほろ苦い5篇の小説。
ある程度の年齢を超えた者には切実であったり、痛みを想起させたり、悔恨を味わうようなじっくり味わえた小説だった。
離れがたいとは思わないけれど、一緒にいたいとも思わない、無理して一緒にいたくない卒婚夫婦。
病院の姑と嫁、そして上手に嘘のつけない息子。
老々介護しながら3個の動脈瘤を抱える夫。
50年続いた書店を閉める寿々の夫は投身自死していた。
末期の病を患った妻は「いつもの生活がしたい」と今際の望み、日常へと戻りたがる。
死期を悟った継母からの絵本の挿画依頼から、残された者の生きていく意志を描いていた。
短い小説だったが、それぞれ内容の深い沁みる小説だった。
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人生も後半にさしかかった女たちの短編集。
苦しかったことも嬉しかったことも時間とともにその人の一部となる。喜びばかりではない人生だからこそ、彼女たちのそばに『絵本』があるのかなと思った。
おとなの絵本というのがあるけれど、子どものための絵本でも、人と出会うと心に深く残る作品であったりする。
それぞれの短編は静かな語り口だ。初めて読んだ作家さん、とても優しい。彼女たちの未来と、北海道の寒さに思いを馳せる。冬に読めてよかった一冊。
本作に付録として入っていた、たかしろこうこの『青い絵本』は、作品を読んだ後に読むのをおすすめしたい。いつ読んでも差し支えはないけれど、じんわりと心に沁みてくる。