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投稿者:とめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「何を言うか」と「意見形成」の刺激が重要と考える著者が、日本語の特性の不思議と奥深さや言葉の衰退は知の衰退に言及し、言葉の貧困化や言葉の破壊という一種の栄養失調を憂て、窮屈と規律の区別や反軍国主義の落語に教養を求めている。
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言葉の貧困の諸症状と対応策:
コミュニケーション能力の低下: 語彙の貧困化、文法力の低下、相手に適切に伝える能力や理解する能力の低下などが指摘されています。「一般に、外国語で話すためには、発音や語彙、文法などの学習がまず必要であると思われています。しかしこれらは間違いです。最も重要なのは、母語の場合と同様に〈何を言うか〉であり、そのために自らの意思を形作り、」と述べ、内容の重要性を強調しています。
カタカナ語の氾濫と曖昧な表現: カタカナ語の多用が思考の表層化を招き、具体的なイメージを伴わない曖昧な言葉が増えていると指摘しています。「ヤングケアラー〉〈エッセンシャルワーカー〉などカタカナ語の安易な横行。責任ある言動を放棄し、心地良い〈ポエム〉ばかりを口にする政治家たち。〈ご高察ください〉〈見直し〉といった言葉の決まり文句化……。」と例を挙げて批判しています。
思考力・読解力の低下: 言葉の貧困化は、論理的な思考力や文章読解力の低下に繋がると警鐘を鳴らしています。
対応策の必要性: 言葉の貧困化の現状を認識し、教育や社会全体で対策を講じる必要性を訴えています。
社会の変化と言葉の変容:
ウォーカマンからスマホへ: スマートフォンの普及によるコミュニケーションの変化が、直接的な対話の減少や短文でのやり取りの増加を招き、言葉の深さや質を変化させていると分析しています。
授業中の私語と万物の商品化: 教育現場における言葉の軽視や、あらゆるものが商品として扱われる現代社会の風潮が、言葉の価値を相対化させていると指摘しています。
気分・欲求の肯定と消費主義: 消費主義的な社会においては、個人の気分や欲求を肯定する言葉が氾濫し、深く考えることを避ける傾向があると分析しています。
教養主義の変容と教育:
戦前・戦後の教育制度: 戦前と戦後の教育制度の変化が、言葉の教育に与えた影響を分析し、教養教育の重要性を改めて提唱しています。
「教養主義」とは何か: 本来の「教養主義」の意味を再定義し、現代社会における教養のあり方を問い直しています。「『教養』は人格的完成を目指す思想・生活態度(ヘピタス)」と定義づけています。
大学までの学校と入学選抜社会: 大学入試制度が、表面的な知識偏重に陥り、言葉を用いた深い思考力や表現力を十分に評価していないと批判しています。
日本軍と言葉と軍学校教育:
旧日本軍における言葉の役割: 旧日本軍における命令伝達や意思疎通における言葉の重要性と、その特殊なあり方を分析しています。「軍隊においては、上意下達が絶対であり、作戦計画から末端の兵士に至るまで、価値観や倫理観などを共有することが不可欠でした。」と指摘しています。
軍学校教育と言葉: 軍学校における教育が、画一的な思考や忠誠心を育むための言葉の使い方を重視し、多様な意見や批判精神を抑圧する傾向があったと分析しています。
現代社会への示唆: 軍隊組織における言葉のあり方から、現代社会の組織やコミュニケーションにおける課題を考察しています。
言葉の「質の充実」に向けて:
対話の重要性: 言葉の質を高めるためには、表面的な���報交換だけでなく、深いレベルでの対話が不可欠であると主張しています。
読書と思考の重要性: 書物を読み込み、深く思考することを通じて、言葉の理解力や表現力を高める必要性を説いています。「書物を読むということは、他者の思考や感情、経験などを疑似的に経験することであり、そこから深い理解や共感が生まれる。」と述べています。
社会全体の取り組み: 言葉の質の向上は、個人の努力だけでなく、家庭、学校、地域社会全体での意識改革と取り組みが必要であると訴えています。