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投稿者:hid - この投稿者のレビュー一覧を見る
作中の手記は、実は手紙だったのか。
微妙にズレてるなと思いながら、なんの疑問も持ってなかった。
実際、紙媒体はなくなっていくんだろうな。
でも、書籍はなくなったら嫌だけど。
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主人公の安田は夫や父親としては、いただけないけれど、ジャーナリストとしてはプロフェッショナルなんだろうと思う。
週刊誌のフリー記者で、ここまで真剣に記事を書いている人がどれだけいるだろう。これがネットニュースになると内容もさることながら、誤字脱字は普通にあるし情報元も怪しかったり…
誹謗中傷を受けながらも、自分のやり方で書き続ける姿に執念みたいなものを感じた。
安田目線で読み進めていたせいか、気がついたら犯人の深瀬の心の内を理解したいという気分になっていた。
「もしも理由があるとしたら、それはあいつ一人に背負わせたらあかんのちゃいますか」
というメッセージが、知らず知らずのうちに届いてしまっていた。
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無差別殺傷事件が発生、犯人は死刑になりたいと供述。犯人の深瀬の人生を追う事件記者安田の物語。
深瀬とかかわりあいのあった人たちにインタビューしていくうちに、安田の過去と現在が事件と交錯し、安田の心が動き始める。
深瀬の人生を追ううちに安田自身が、夫にも父にもなりきれなかった原因のようなものも見え隠れし、切なくなった。
安田も深瀬も本来救いの手を差し伸べられなければならない過去があった。自らの感情を無にしなければやっていけない時があった。
そして深瀬は、耐えることの限界を超えてしまったように思えた。
必要な時に手を差し伸べられていたら事件は起きなかったかもしれない。
他人事と言い切れないものを感じながら読了。
重厚感のある小説だった。
初読みの作家さんだったのだが、作品を追っていきたいと思わされた。
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無差別殺傷事件とそれを追う記者の話。こういう事件が起きるとマスコミは被害者加害者問わず取材に明け暮れ、そのハイエナのような行動は世間の人の反感を買ったりしている。仕事だから彼らだってやるしかないのだが、気持ちをかき乱される被害者サイドの人達からすれば、たまったものではないだろう。
事件記者の安田は、離婚したので子どもと離れて暮らしているが、子どもに対して自分は愛情を持っているのかとしょっちゅう自問自答している。もし自分の子どもが無差別殺傷事件の被害者になっていたら自分はどう思うんだろう、と普通の人なら即答できるような問いに悩むのも、安田自身の育ってきた家庭環境ならば理解できる。
最初は報酬目的だったが、徐々にそうではなくなってきたのは、自分と向き合うために事件を追っていたからなんだろうな。
「人を殺したいという衝動は、暴力的な手段によってしか相手との縁を断ち切れない、幼稚な感情なのだと今では思っております」
この言葉が、これまでの安田の集大成な気がする。人を殺したいと思う人は何を考えているのかを安田は今まで考え続けてきたんだろう。自分自身の感情に整理がつかないまま。
事件を通して、安田は多少なりとも、過去の自分の感情と折り合いをつけることができたのではないだろうか。
それにしても、「死刑になりたいから人を殺した」という供述からは想像もつかない真相があったことには驚かされた。決して犯人を擁護する訳ではないが、犯人もまた、被害者なのだ。
殺したいほど人を憎むということが、その人自身の心をどれほど蝕むのか。そんな経験はしたくないものだ。
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けっこうえげつない手段を使う大手紙記者が出てくる。
さすがにこういう人物はフィクションだと信じたい。
雑誌記者の取材活動の一端が垣間見えて興味深かった。
事件現場で名刺交換をしているのを見かけたことがあるが、
こういうやりとりをしていたのかな。
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完全なる善人がいないように、完全なる悪人もいない。この世に全き善も全き悪もないように。
猟奇的事件や、大量連続殺人事件が起こると、誰もがその理由を知りたがる。加害者の生まれ育ちを、人となりを、そしてなぜ事件を起こしたのか、という動機を。
事件を追うのは警察だけではない。「報道」という名のもとにマスコミも全力で事件を追う。警察とは違う角度で、違う目線で、違う温度で事件を解き明かそうとする。そして私たちはその情報を欲しがる。加害者と自分は違う、という、根拠を求めて、あるいは、似ているという保証を求めて。
東京のホコ天で起こった通り魔殺傷事件。三人が死亡。現行犯逮捕された犯人は「死刑になりたかった」という。
聞いたことがある「死刑になりたかった」という言葉。一時的に世間を騒がせた同じようなあの事件は、その後どうなっただろう、とふと思う。
狂乱的な報道合戦。被害者や、加害者家族を執拗に追うマスコミと、ドヤ顔で流れる憶測。消費される証言たち。
そこに正義はあるのか。
事件を追うフリーの記者安田が、憎むべき連続殺人者である深瀬を一方的に断罪できない理由。
フリーという不安定な立場で、事件を追い続ける彼の自分でも気づかない動機はどこからくるのか。
犯人のことを語る「知り合い」たちの誰も彼もが彼を攻撃し、彼の死刑を望む。死んで当然の人間だ、と。
けれど、本当にそうなのか、それでいいのか。深瀬という人間そのものがまったくの悪の塊なのか。
世界は悪と善が入り混じっている。同じようにひとりの人間の中にも善と悪とが混じっている。どこからどこまで、とくっきり分かれているわけではない。
それは川が海へと流れ出る河口付近のようだ。淡水と海水が入り混じる区域のように、世界にも人間にも汽水域があるのだろう。
岩井圭也は問う。あなたは深瀬に死刑を望みますか、と。あなたには汽水域がありますか、その汽水域は全き善で染められていますか、と。
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死傷者七名を出した無差別殺傷事件が発生。
事件記者の安田は犯人の男について調べるうちに、
執着とも言えるほどの興味を抱いていく。
男は社会から見捨てられた被害者か、
凶悪で卑劣な加害者か。
やがて辿り着く、犯人の真の「動機」とはーー
この犯人は、何かが違う。
直木賞候補者の著者が放つ
慟哭の社会派サスペンス。
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好きな作家さんのお一人です。
新刊発売を知り、Amazonでお急ぎ便で購入しました。
歩行者天国で発生した、無差別殺傷事件。
逮捕された深瀬は、
「死刑になりたかった」と語る。
主人公の安田は数少ない情報を頼りに、
深瀬について調べ始めます。
記者って厳しい世界だなと思う反面、
マスコミの発する記事について、
ここ最近は色々思うこともあり、
SNSも見ていて気分が悪くなることもあったり。
本作でも登場するSNS内の所在のない言葉や、
マスコミの影響を感じる場面も多々あります。
ジャーナリズムと言うけど、
出世や成績を上げたい人や、
売上てなんぼの世界という感じで、
最後まで矜恃や責任を持ってる人は
どれだけいるんだろうと思わされます。
無差別殺傷事件という、
ショッキングな事件に対して
犯人の周りから、
犯人の形を浮き彫りにしていく展開に、
とにかく読み進める手が止まりませんでした。
最後にどんな答えが待っているのか。
気になった方にはぜひ手に取っていただきたいです。
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★5 無差別殺傷事件の記事を書くライター、ひとりの人間として事件にどう向き合っていくのか #汽水域
■あらすじ
東京は江東区亀戸で無差別殺傷事件が発生。犯人は35歳無職の男性、現場で捕まるも死者が三名もでる大事件だった。フリーの記者である安田のもとに、かつての出版社勤務時代の同僚から事件に記事執筆の依頼がされる。
家庭を顧みず仕事に明け暮れ、離婚歴もある安田だったが、大きな事件の記事を書くチャンスに興奮していた。しかし彼が関係者や被害者家族に取材を進めるうち、加害者の悲運な背景や、生真面目な性格を知ることになり…
■きっと読みたくなるレビュー
力作★5 今まさに世間で発生している事件を描いてる、パワフルな社会派小説です。岩井圭也先生は何作か読んできましたが『楽園の犬』と同じくらい大好きですね。個人的には今年の社会派ミステリーの読むべき一冊として推したいです。
本作の筋立てとしては、フリーライターの安田が無差別殺傷事件の記事を書くため、人脈やSNSをきっかけに取材をしていく。獲得した情報をもとに記事を書くうち、犯人の過去や人間性に徐々に心を通わせ、安田自身にも気づきや変化が訪れるという内容。
展開自体は探偵小説にありそうな流れですが、プロットひとつひとつの密度がめっちゃ濃いんです。まずメディアの視点、記者側の視点、世の中の視点で事件が描いているところが興味深かったです。
本作は犯人はどんな人物なのか、動機はなんだったのか、という無差別殺人の謎だけで読ませるのではないのです。凶悪事件に対し、プロの記者としてだけではなく、ひとりの人間としてどう向き合うのかを描いています。まさに探偵小説で、事件に向き合ううちに心情が変化していく様子が鬼アツなんですよ。
そう、本作はもはや記者のお仕事小説なんです、世間の目なんか超リアルですよ。今まで週刊誌の記者っていうと毛嫌いしてたんだけど、読んでいくうちに苦労が身につまさちゃって、なんか同情しちゃうんですよね… この仕事は責任感、野心、プライドがないと無理ですね。すごいわ
また安田にはバツイチながらも家族がいる。7歳の息子、別れた妻、自身の父。それぞれとの会話も、ほんと人生のワンシーンを切り取った場面のようで画になるんです。登場人物から漏れ出る言葉ひとつひとつに、彼ら自身の後悔、そして教訓が深々と沁み込んでいるです。
そして本作はミステリーとしても読みごたえがある。物語の終盤、遂にっ! えぇっ!? って展開になるんですが、ここからさらに人間ドラマの解像度があがるんですよ。いやもうね、マジ素晴らしいミステリーでした。
本作のような無差別殺傷事件は現代でも度々聞きます、あまり思い出しくもないですがホント悲しくなりますね… 被害者の方には言葉もなく、心からお悔やみ申し上げたいです。
今回の安田がやってきたことにはどんな意味があったのか、そして息子に語った言葉は… 過去、現在、そして未来へ、より皆が幸せで安全に暮らせる社会になるよう願うだけでした。
■私と物語との対話
安田が取材を続けていくに、犯人がどういった人間で���ったかが浮き彫りになっていく。確かに自分本位で甘えもあるんですが、総じてどこにでもいそうな人間なんですよね。
いや、むしろ… 私に似ていると思った。
真面目だからこそ不幸の渦から抜け出せず、社会に溺れてしまったひとりの人間。ひとつ間違えば、私自身がそうなっているような気がして恐ろしい、まさに本書のタイトル通りの場所にいたのです。そして自分の周りを振り返ってみて、ただ感謝したいと思ったのです。
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はじめて読んだ作家さん。
亀戸の歩行者天国で起きた無差別殺人事件を取材しているフリーの記者の葛藤。
社会派小説ながら切なくなる場面もあり、のめりこんで読んだ。
安田はだめな父親で突っ込みどころはあるけど共感できるところもあって、読んだ後はジャーナリズムとはと考えこんでしまった。
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またまた新作ですよ∑(゚Д゚)
岩井さん
本当にコンスタントに新作が出てて
しかもいつも全然違ったテーマで書かれていて驚かされます!!
岩井さん3人くらいいるんかな、、、
今回は通り魔事件を追う記者の話です
亀戸の歩行者天国で起きた通り魔事件。死傷者は複数にわたり、現行犯逮捕された犯人は「死刑になりたかった」と供述しています。
事件を追うのはフリーの記者の安田
書ける媒体が確定しているわけでもなく、警察などへのツテもコネも弱い。それでもSNSを頼りに細い線から手繰り寄せ記事を書いていきます。
取材を続ける中で安田が執筆した記事によって模倣犯まで現れます。
作中では、さまざまな社会問題にも触れていきます。
紙媒体が弱っていく中での記者という仕事の難しいさや、
簡単なネット記事が出回ってる中での新聞や週刊誌などのメディアの意味、
スピードも拡散力も圧倒的な上、匿名でやりとりできるSNSの怖さなど
とても考えさせられる内容でした
少しずつ明らかになる犯人の素顔と、安田の事件に対する執念に惹きつけられページをめくっていました。
この安田が、バツイチ子持ちなんですが親としてはひどい。本当にひどい。
いろいろやらかすんですが、事件を通して変化も見られます。ラストどんな変化が見られるのか是非読んで欲しい。
そして題名の汽水域という題名の意味がわかると
ラスト数ページが一番岩井さんが伝えたかったことなのかなと思いました。
またしても面白い作品!!さすがです!!
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人は自分と社会との繋がりのなかで生きることができ、その繋がりがある故に善と悪がせめぎ合う汽水域に流されずに身を置いている。
死刑になりたい為に無差別殺人を起こした深瀬を記事にした安田は、事件の背景に自らの生い立ちと重なる深瀬の過去に固執するのだった。
凶悪な殺人事件とそれを報道する事の意味を問うように取材を続ける安田。犯罪者を糾弾する世間の流れに抗う安田の真意は…。
後半から差し込まれる親を殺害しようと決意する子供の手紙の存在が、読者に染み入る説得力をもっていた。
夫や父親としては失格者でありながら、記者としては拘りを持ち続ける安田もまた、汽水域を漂う人間であった。
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それにしても岩井圭也さんの最近の多作ぶりには目を見張るものがある。
ここでふと立ち止まる。
本当にそうだろうか。
自分の印象とあやふやな記憶だけで記事を書いてしまっていないだろうか。
重要なのはファクトだ。常にファクトを明らかにすることが、ジャーナリズムに携わる者の務めではなかろうか。
あらためてファクトチェックをしてみよう。2023年からの出版状況をネット検索してみた。
2023/02/17『完全なる白銀』
2023/04/14『横浜ネイバーズ』
2023/05/15『飛べない雛 横浜ネイバーズ(2) 』
2023/09/05『楽園の犬』
2023/11/15『凪の海 横浜ネイバーズ(3)』
2023/12/20『暗い引力』
2024/03/15『人生賭博 横浜ネイバーズ(4)』
2024/05/15『われは熊楠』
2024/06/28『科捜研の砦』
2024/07/11『ディテクティブ・ハイ 横浜ネイバーズ(5)』
2024/09/11『舞台には誰もいない』
2024/10/23『夜更けより静かな場所』
2025/02/19『汽水域』
この2年間でなんと13冊となっている。元々多作な作家ではあったのだが、近年はさらに刊行ペースが上がっていると言える。
横の比較もしてみよう。
岩井圭也さんと言えば『われは熊楠』で第171回直木賞候補に選ばれ知名度を上げたわけだが、そのとき直木賞を受賞した一穂ミチさんの同時期の刊行数についてインターネットで調査した結果4冊であった。
2人しか調査していないが、少なくとも一穂ミチさんと比較して圧倒的多作と言っていいだろう。
ここで再度立ち止まる。
インターネット上は誤った情報の宝庫でもあるのは周知のことだ。インターネットの調査のみをファクトとすることは、果たしてジャーナリズムに携わる者の正しい態度と言えるだろうか。
ならば、直接刊行物を当たるのはどうだろうか。これは十分に信頼性の高いファクトチェックと言えそうだ。
私は本屋にて調査を続行すべくコートを手にとり、外に出た。
寒いのでやめた。
繰り返しになるが重要なのはファクトだ。
茨城県の県央地域の今朝の気温は0℃というのがファクトだ。
以上で調査を終了する。
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汽水域という意味を恥ずかしながら初めて知った。
このタイトルがまさに深く関わってくるし、読後も考えてしまう。
かなり重めの話ではあるものので、なぜか止められず引き込まれていく。犯罪者を養護は出来ないものの、おかれた環境による影響は否めない。
事件を起こさないためのジャーナリズムの在り方、SNSの成否を問われる提言でもある。
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最近気になっている岩井圭也さんの本ということで、本作を手に取りました。奇しくも、この作品を読む前に読んでいた本と設定が少し似ていたこともあり、少し既視感はありましたが、本作は記者の取材の 描写がうまく描かれており、主人公と共に謎を探求する感覚があって、そこが面白かったかなと思います。
本作は大量殺人を犯した犯人の動機を探るサスペンスであり、少しノンフィクションっぽさを感じる作品でした。特に、過去の知り合いや恋人、会社の元同僚などに取材しながらコツコツと、殺人犯の人柄に迫る展開は物語にうまく緊迫感を持たせており、ストーリーにうまく引き込ませるような効果があったように感じました。
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無差別殺傷事件を題材に、犯人の動機を追うフリー記者の苦悩を描く小説です。社会の歪み、ジャーナリズムの在り方、親子の関係性など、多くを考えさせられました。テーマが重く辛い読書でもあり、レビューも難しさが拭いきれません。
「死刑になりたい」の犯行供述で始まる物語。どんなに恵まれない境遇であっても、犯罪を正当化する理由にはなりません。頭で分かっていながら、私たちは少ない情報から表面的な理解に偏って日常生活を送ってますね。確かな取材に基づく報道の必要性、責任ある発信と選択の重要性を痛感します。
岩井さんは、よくぞ「汽水域」と秀逸な表現をしてくれました。曖昧な領域を指す用語として、発達障害に限らずグレーゾーンは身の回りに多々あります。海水と淡水、黒と白、正誤…。取り分け善悪については、一線を超えなくとも誰もが心の中に悪の芽を持った経験はあるでしょう。
どこまでも追及していく過程、犯人と次第にリンクしていく構成、手紙の活用など、ぐいぐい読ませる展開に引き込まれました。フィクションとして面白く、上手いなあと感じました。
ただ、結末の救いは別にして、元妻や息子への主人公の言動や辿り着いた動機解釈は、少々モヤモヤが残り妙な読後感でした。この原因は、既読の『死刑のための殺人ー土浦連続通り魔事件・死刑囚の記録ー』(読売新聞水戸支局取材班)かもしれません。
逆に、危うい多くの「汽水域」の中で暮らす自分が、平穏の中で過ごし読書している有り難さを感じさせてくれる一冊でもありました。
ブクトモの皆さんは、友だち以上恋人未満の「汽水域」ですね(キモっ)