朝ドラ「あんぱん」を見ながら
2025/04/09 16:38
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この春から始まった第112作めとなるNHKの「連続テレビ小説」(通称 朝ドラ)は、
漫画家やなせたかしさんとその妻の暢(のぶ)さんをモデルとした「あんぱん」で、
このタイトルはもちろんやなせさんの代表作である「アンパンマン」からとられている。
もっともドラマはやなせさん夫妻をモデルにはしているが、事実と創作をうまく組み合わせている。
脚本を書いているのは、中園ミホさん。さすがにうまい。
ドラマの開始とともに、本屋さんにはやなせさん自身の作品だけでなく、多くの関連本も並んでいる。
梯久美子さんの『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』もそんな一冊で、
文春文庫のオリジナルとして書き下ろされた評伝だ。
梯さんはやなせさんが編集長をつとめていた雑誌「詩とメルヘン」で編集者だったこともあり、
やなせさんと交流があり、実際暖かい指導を受けた人でもある。
そういう関係から、すでにジュニア向きにやなせさんの伝記『勇気の花がひらくとき』を刊行している。
今回の書き下ろしは大人向けにより詳細にやなせさんの生涯を追っている。
特に、戦時中にやなせさんが兵士としてどういう部隊に属していたか、戦地での業務など
あまり知られていないエピソードにも多くのページを割いている。
また、妻である暢さんの家族のことや結婚前の経歴など朝ドラとは違う真実も貴重だ。
やはり大人向けの評伝といえるだろう。
それでも、文章の合間あいまに、やなせさんの詩が組み込まれていて、
やなせさんの世界観は大事にされているのは、
やはりやなせさんに学んだことであったのだろう。
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【NHK朝ドラ「あんぱん」放送目前! 「アンパンマン」作者の本格評伝
】高知での子供時代、戦争体験、詩人としての軌跡、妻や仕事仲間との秘話等、やなせたかしの生涯と人物に迫る渾身の書き下ろし作品。
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やなせたかしさんは、まず何をするにしても、自分の利益などは後回しで、他の人がどう良くなるかなどを考えて動く人だと感じた。それが最終的に良い結果につながって、名声を得ていると思った。
また、やなせたかしさんの周りには後に有名になる方や歴史に名を残す方など、やはり何かを持っている人は、自然とスゴい方が寄ってくるものだと感じた。
とても面白かったです。
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わかりやすかったけども、ほとんどがやなせたかしさん視点で、できればいろんな人から見たやなせたかしさんも聞いてみたかったな、と思います。
第三者からの聞き書きは、やなせさんの話の補足に終わっていて、ちょっともったいないような。
佐々涼子さんの著作の方がすきです。
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1. 幼少期の喪失体験(アイデンティティの裂け目)
父の早逝(中国広東での急死)、母との別離(再婚による預け入れ)、弟との分断という三重の「別れ」により、やなせは幼くして「居場所のなさ」「根の喪失」を経験。
それが**「孤独の感受性」と「弱い者へのまなざし」**を育み、のちの創作活動の出発点となる。
2. 伯父の家での少年時代(知的好奇心の芽生え)
父方の伯父の家で、形式的には家族として育てられるも、実子である弟との格差を感じる。
精神的な逃げ場として本と詩、絵の世界に没頭し、表現することで孤独を癒すという習慣を獲得。
「自分は何者か」という問いを抱き続けながら、文学的・芸術的感性を養う。
3. 戦争体験(飢えと正義の逆転)
入隊と中国戦線への派遣により、極度の飢餓と死の恐怖を体験。
仲間の死、自決の選択、行軍中の自然の美しさに触れ、「なぜ人は殺し合うのか」という哲学的問いを抱える。
戦争の終わりに際して、「戦う正義よりも、与える正義のほうが尊い」という認識が生まれる。
4. 弟の死と「他者のために生きる」決意
終戦後に再会した弟・千尋の早すぎる死は、やなせの中で「自分だけが生き延びた意味とは?」という問いを再燃させる。
弟の無念を背負い、「自分は芸術を通して誰かの役に立ちたい」と誓う。
この想いが、やがて「アンパンマン」という自己犠牲型ヒーローの原型を形づくる。
5. 創作活動の模索と成就(アンパンマン誕生までの道)
グラフィックデザイナーとして三越での仕事に就きながら、詩、イラスト、演劇と幅広い表現活動を行う。
多くの才能との出会い(永六輔、いずみたく、立川談志など)により、創作の幅と自信を得る。
『てのひらを太陽に』や『詩とメルヘン』の編集長として、人々の心に寄り添う言葉を届け続ける。
6. アンパンマンという思想(自己犠牲と優しさ)
「正義の味方が空腹の人に自分の顔を与える」という常識外れのヒーロー、アンパンマンの創出。
アンパンマンは強くないが、優しさによって人を救う存在。暴力でなく共感と献身によって悪を乗り越える。
当初は否定的評価が多かったが、アニメ化とともに、現代社会に必要なヒーロー像として評価されるようになる。
7. 晩年の哲学:「絶望の隣に希望を」
『絶望のとなりに』という詩に象徴されるように、「人生には苦しみや孤独がつきものだが、そこには希望も必ずある」という信念を貫く。
戦争や病気、死といった「喪失の体験」を通して、「人は他者を思いやることによって癒される」ことを確信。
彼の人生そのものが、「他者のために生きる」実践であり、それが子どもたちへのメッセージとなって今も広がっている。
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やなせたかしさんの人柄や信念が素直に伝わってきました。こういう人がいた、というだけで、何か救われる気がします。すごい人の伝記はしばしば「書いている自分もすごい!」という自慢みたいなものが貼り付いているように感じることがあり、それは見ないようにして読むのですが、梯さんの文章からは全くそういうことがなく、すてきだな、と思いました。
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朝ドラ「あんぱん」なので読んでみようかなって思って選んだ一冊。「天才であるより、いい人であるほうがずっといい」と言う帯に惹かれて。それにしても朝ドラの子役はいい感じの子ですね。
アンパンマンのマーチは、当初は
そうだ うれしいんだ
生きる よろこび
たとえ いのちが終わるとしても
だったらしい。このことひとつとっても、やなせたかしさんのそれまでの経験からくる価値観がアンパンマンに繋がっていくことがよくわかります。アンパンマンって深いって感動した一冊。
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本人ではなく、身近にいた人が客観的に描いた「やなせたかし」は、リアルに感じられた。小さい子供向けの絵本、アニメなのに、関連する多くの歌の中にぎょっとする表現があるのは、戦争の体験があったからだということは知っていた。しかし、その意味がこの本を通して垣間見えた気がする。やなせたかしの生き様が、哲学を示してくれている。たいへん興味深く読むことができ、勉強になった。
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やなせたかしという人物の優しさが、伝わってきました。印象に残ったのは、「正義は逆転する」「空腹が苦しい」の考え方。これは戦争を経験したからこそ出てきた、深い実感なのだと思います。私自身も、お腹がすいた時のつらさを思い出すと、その「苦しさ」がどれほど人の行動や価値観に影響を与えるかが、少しわかる気がします。
やなせたかしは、そうした苦しさを経験させないために何ができるかを真剣に考え、アンパンマンという存在にその想いを込めたのだと思います。生きる喜び、生きがいの大切さ、そしてそれを周囲と分かち合いながら生きていくことの意味。その優しさが、周囲にも伝わり、人々に支えられながら、そして、また人を支え、アンパンマンという物語が生まれたのだと感じました。
「生きるとは、さまざまな経験を積むこと。それが後に必ず何かの役に立つ」というメッセージが伝わってきます。日々をどう生きるか、何を大切にしていくかを改めて考えさせられました。まずは、人にやさしくからはじめたい。
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ドラマ「あんぱん」を見て、やなせたかしの生涯について興味を持ったので購入。
やなせたかし氏は1919年に高知県で生まれる。ちなみに手塚治虫よりも9つ年長になる。
やなせたかしは、戦争中、徴兵された後、暗号解読の下士官として終戦を迎えている。手塚治虫や水木しげるなどの同世代の漫画家同様に強烈な戦争体験があり、それが作品の根底にある気がする。
戦前から終戦後にかけて、これまでの自分の正義が何であったのか?100%価値観が逆転してしまった中で普遍的な正義とは何なのか、その問いかけがアンパンマンにつながっているのではないだろうか。
その人生を振り返ってみると不思議といろいろな人物がやなせたかしが世に出るように大なり小なり手助けをしている。手塚治虫もそうだ。
手塚治虫は、虫プロの大人アニメ第1作「千夜一夜物語」の芸術監督に招聘し、その後手塚治虫のポケットマネーで短編映画「やさしいライオン」の制作費用を出している。
おそらく、「あんぱん」でも重要な人物としてキャスティングされると思うが、いったい誰が扮するのか興味のある所である。
1975年にアンパンマンの第1作が出版された後、アニメ化されたのは、昭和も終わろうかというとき。
うちの甥っ子たちはリアルタイムで見ていたのかな。
そして、子どもたちや孫もいつの間にかアンパンマンの虜となっている。長女はロールパンナのファンでよくローローと真似していたのを思い出した。
「お腹を空かせた子を食べ物を与えることが最後の正義」というのは、衣食足りて礼節を知るという故事成語と繋がる気がする。今、コメ不足となっている日本で、この国の正義はどこにあるのだろうと思ってしまう。
やなせたかしが残した言葉はこれから先、もっと大事な言葉になるのかもしれない。
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著者の梯氏は以前、児童むけにやなせたかしの伝記を書いている。今回のは文春文庫かきおろし。各種資料や関係者の聞き取りにより、簡潔にまとめられた伝記となっている。やなせ氏の父母や千尋のことについても詳しい。
本書はノンフィクションであり、内容は事実にもとづく。各エピソードややなせ先生の心情、会話の内容などは、先生の著作や各種インタビュー記事、梯氏自身が先生からうかがった話をもとに記述。
経歴や事実関係は、柳瀬家、やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団、やなせスタジオ、高知新聞社、フレーベル館をはじめ関係者から提供を受けた資料を参照した、とある。
梯氏
小学生の時映画「やさしいライオン」に感動し、中学生で詩集「愛する詩」に出会い、高校生になると「詩とメルヘン」に詩を投稿。大学卒業後、「詩とメルヘン」の編集者になりたい一心で北海道から上京し、発行元のサンリオに入社。最初に辻信太郎社長室に配属。秘書の一人として働いた後、念願かなって「詩とメルヘン」の編集部に配属。
2025.3.10第1刷 図書館
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やなせたかしさんの人生が記されたノンフィクションです。本文に入る前に、やなせさんの幼少期から、ご両親、奥様などの写真ページがあります。やなせさんの詩も載せられています。読み終えて泣けました。朝ドラになる理由が分かります。
やなせさんの生い立ち、軍隊での生活、漫画家として独立後の困難、これらの経験の一つひとつがアンパンマンの誕生に結びついているのが分かり、胸が熱くなりました。
「てのひらを太陽に」が最も辛いときに書かれたものとは、知らなかったです。そして、手塚治虫さん向田邦子さん等の著名人との関わりも。
私は「詩とメルヘン」の雑誌が大好きでした。その編集のお仕事と並行してアンパンマンを描き続けていたということ、やなせさんの生と死の哲学がアンパンマンに込められていることもこの本を読んで知ったことです。
「詩とメルヘン」創刊25周年の年に、中学1年生が授業で作った詩を投稿しました。100以上の数になるにもかかわらず、全てに目を通してくださり、そのうちの5編をコメントつきで掲載してくださったこと。そのときの感激は今も忘れることのない思い出です。
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NHKラジオ「放送100年 保阪正康が語る昭和人物史」を聴いて、本書を購入。やなせたかしの伝記とも言える1冊。
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2016年春(震災5年後)に、初めて陸前高田の「奇跡の一本松」を訪れました。巨大な防潮堤、高田松原津波復興祈念公園もまだ未整備の頃でした。
震災遺構モニュメントとなった一本松の足元には、やなせさんが描いた「ヒョロ松君」を基に製作されたモザイクスタイル(この存在は知りませんでした)が。やなせさん没後2年半でした。
思えば我が子の幼少期、レンタルビデオ店から繰り返し借りた「アンパンマン」。アンパンチを喰らうバイキンマン役を何度やったことか…。被災者、やなせさんのご冥福をお祈りし合掌しました。
長い前置きになりました。本書はやなせたかしさんの評伝です。やなせさんが雑誌『詩とメルヘン』の創刊者・編集長。著者の梯(かけはし)久美子さんが編集者の間柄でした。やなせ先生へ敬愛をもちつつも悪戯に自分の筆に酔ったり、感動を押し付けたりすることのない冷静な筆致で、やなせさんの生涯を教えてくれます。
世に受け入れられなかった元祖アンパンマン登場が54歳のとき。アンパンマンが国民的キャラクターとなったのが69歳のときという事実だけで、頭が下がります。お前は何をやっているんだと、叱咤されている気にもなります。
何よりも、挫折、愛する人たちとの別れと死、それでも誰かのために希望を与えようと歩き続け、人生哲学とともにヒーローを生んだのですね。大人が疑問視する中で子どもたちに受け入れられていったアンパンマン。子どもの感性、絵本の深さを見くびってはいけませんね。
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言わずと知れた国民的アニメ.その根底にはやなせたかし氏の哲学がこねられていた.
アンパンマン.顔がアンパンでできていて、お腹を空かせている子がいれば自分の顔を食べさせてやる異質のヒーロー.このヒーロー像は単なるウケ狙いなどでは決してなく、生みの親であるやなせたかし氏の美学が込めれている.
歳を若くして家族と離れ離れになってしまう.元来、内気で繊細だった彼はこの性格に、より拍車がかかる.
大きくなってから徴兵されると、戦争の悲惨さに衝撃を受け「正義とは何か」を考えるようになる.その中で核としてあったのが「ある日を境に逆転してしまうような正義は正義とは言えない」という哲学であった.
また、戦時中に体験したことがアンパンマンというキャラクター性へつながっている.空腹で苦しんだこと、避難所での創作活動を通じ音楽に元気付けられたことなどである.
アンパンマンは究極の自己犠牲ヒーローだ.お腹が空いている人に対し、自分の顔をちぎって分け与える.アンパンマンは顔が濡れたり変形したりすると力を失ってしまうので、顔を分け与える行為は純粋な利他心に基づく.
しかし、やなせたかしの中には「犠牲を厭わない勇気はすなわち愛である」との考えがあった.そしてこれが彼の考える普遍的な正義だったのだ.どれだけ自分に不利益があろうとも他者のために行動することができる.アンパンマンほどに極端な自己犠牲ではないとしても、アンパンマンを通じて相手を思いやることの大切を子供達に知ってもらいたかった.
アンパンマンにはこれほど深い哲学が込められているのだ.
ただの子供向けヒーローと侮る勿れ.無価値だと切り捨てたモノの中には、大抵、綺麗な宝石が眠っているのだ.それがたとえアンパンのヒーローであったとしても
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