- みんなの評価
6件
死者の奢り・飼育(新潮文庫)
著者 大江健三郎 (著)
死体処理室の水槽に浮沈する死骸群に託した屈折ある抒情「死者の奢り」、療養所の厚い壁に閉じこめられた脊椎カリエスの少年たちの哀歌「他人の足」、黒人兵と寒村の子供たちとの無残な悲劇「飼育」、傍観者への嫌悪と侮蔑をこめた「人間の羊」など6編を収める。“閉ざされた壁のなかに生きている状態”を論理的な骨格と動的なうねりをもつ文体で描いた、芥川賞受賞当時の輝ける作品集。
死者の奢り・飼育(新潮文庫)
ワンステップ購入とは ワンステップ購入とは
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
2019/01/26 01:06
「他人の足」がおすすめ
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
大江氏の昭和32年から33年にわたり発表された、初期の短編集。「他人の足」予想に反して(大江作品は小難しいという先入観があった)、すらすらと読めた。その中でもこの作品は人間の醜さを如実に描いた秀作だった。自分が不治の病ではないとわかってからの彼の行動は、ひどい男だな思わせる反面、よく気持ちも理解できるとも思ってしまう。「あなたたちと私とでは生きていく世界が違うんです」と言っているかのように、外の世界への帰っていく男と外部との連帯を夢見て、実現したかに思えたその夢をひっくり返された少年たちの絶望感。後味最悪だが、最高の作品。「飼育」「戦いの今日」など4篇は米兵と日本人を扱った作品であるが、この当時の戦勝国である米国人に対しての敗戦国である日本人の惨めな敗北感と屈折感は、この時代の作者の作品を読まないことには簡単には想像すらできないことのように思われる
死者の奢り・飼育 改版
2016/09/28 15:41
閉じ込められた人間たち
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ポージー - この投稿者のレビュー一覧を見る
大江健三郎の作品は初めて読んだ。たまにおもしろい/つまらない、理解できる/難しいなどはちょっと置いといて、とにかく作者の才能のようなものがびんびん伝わってくる作品というものがあるけど、死者の奢り・飼育もその一つだった(素人がノーベル賞作家に何言ってるんだということだけど)。
乾きながらも粘り気ある空気が停滞していてそこに病院の古い蛍光灯のような安っぽく重い光が差している、そういう閉塞感が全体にわたっている。登場する人間たちは変化の無い壁の内側に閉じている。そこから出るのが自由になるということだが、それには矛盾が伴う。なぜならどうにか壁の外に出る(または連れ出される)にしても、そこもまた別な壁の内側だからだ。彼らはそんな状況に圧迫され静かな無力感を覚えるわけだが、逆に言えばそのような壁は人間に必要なものでもある。内と外とに隔てられていない世界にひとりでいる(他者もひとつの壁だろう)ということは、それはもう死者みたいなものなのでは。
死者の奢り・飼育 改版
2016/02/03 19:15
非日常のなかの日常
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:狂人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
死者の奢りは、特異な環境にありながらも最後は現実を目の当たりにして、死と生について考えさせられます。大江さんの作品は暗くて深くて個人的に好きです。