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4件
辺境・近境(新潮文庫)
著者 村上春樹
久しぶりにリュックを肩にかけた。「うん、これだよ、この感じなんだ」めざすはモンゴル草原、北米横断、砂埃舞うメキシコの町……。NY郊外の超豪華コッテージに圧倒され、無人の島・からす島では虫の大群の大襲撃! 旅の最後は震災に見舞われた故郷・神戸。ご存じ、写真のエイゾー君と、讃岐のディープなうどん紀行には、安西水丸画伯も飛び入り、ムラカミの旅は続きます。電子版特典!『辺境・近境《新装版》』に掲載された、松村映三カメラマン撮影のカラー口絵写真を追加収録!
辺境・近境(新潮文庫)
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2023/08/11 15:11
誰でもどこでも旅行に行ける時代に、旅行記を出す意味。 自分の中にまだ辺境があると信じることこそ旅行の意義の一つだと。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mitu - この投稿者のレビュー一覧を見る
Audibleで聞く読書。
散歩をしながら、家事をしながら、30年以上も前の旅行記を体感した。
7つの旅の記録が綴られている。
・ニューヨークの作家たちの住む町。
・無人島・からす島の滞在記。
・メキシコ大旅行。
・讃岐うどんを食べ続ける旅。
・ノモンハンの戦地後を巡る。
・アメリカ大陸を横断しよう。
・阪神淡路大震災から2年後に歩いた神戸。
計画通りにいかないのが旅。
映画に出てこない、パッとしない現実。
下痢と嘔吐。
共同体の夢。
「隠し撮りに飽きた」松村カメラマンの流儀。
旅の途中で、恐怖の正体は自分自身だったのではないかと思い当たる。
神戸を歩きながら、大震災と地下鉄サリン事件に思いを馳せる。
「アンダーグラウンド」を書いたのは、社会の足元に潜む暴力性を書きたかったからだと。
あえて加害者でなく被害者をインタビューの相手に選んだのだと。
旅先では、メモは記録程度にしか取らない。
しっかり目に心に焼き付ける。
そしてじっくり自分の中で寝かせた後に、文章にする。
誰でもどこでも旅行に行ける時代に、旅行記を出す意味。
自分の中にまだ辺境があると信じることこそ旅行の意義の一つだと。
辺境・近境
2023/06/27 15:43
この本ではうどん紀行が一番好き
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:a - この投稿者のレビュー一覧を見る
例の如くどの辺境もとても興味を惹かれた、し面白い旅行記でした。村上春樹のこの手の文章ですごいなと思うのは、例えば香川うどん旅行やからす島の内容なんかは、特に読み応えのあるわけではないのだけど、その分しっかりとユーモアでもって細部を補填するような書き方がされていて、全く飽きませんでした。
辺境・近境
2007/06/13 16:23
ほっとする7つの旅行記
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あわ はちすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る
アメリカ、日本、メキシコ、中国国境の読みやすい、しかも面白く著者の優しさがにじみ出ている旅行記である。面白いといってもこれらの旅自体が半端な観光旅行や、何か一般受けするものだけを探して歩く旅の類ではない。まず文章からしてありきたりの熟語で簡単に概念付けたりはしない。丁寧で示唆に富んでより具体的で自分の皮膚感覚での言葉を使う。ムラカミ独自の文体といってしまうとそれまでだが。
旅の内容も命がけでとは言わないまでもムラカミ的にいえばけっこうむむむむむ!というようなスリリングな旅内容である。市民マラソンをやっているようにアウトドア派のラディカルなようすが文章の合間に浮かんでくる。同じノンフィクションの「アンダーグラウンド」では聞き役に徹した静なるムラカミというイメージがここでは動のムラカミに変身する。少なくとも私にはそうみえるがオーバーな表現かな!
「イ・ハンプトン」は人間の群れる習性への皮肉なのかもしれない。「無人島」はムラカミエッセイの軽妙なおもしろさ(虫や鳥たちとの交流?)が満喫できる、心が休まる一文。「メキシコ」は最後の「辺境を旅する」と同様、旅というものへのこだわりとインディオや、変らない風土への共感が感じられた。「讃岐うどん」はそのものずばり、うどんと讃岐礼賛の文。この文章が地元ではPRになってたりしている。「ノモンハン」は幼少からムラカミがこだわった事件。この取材から国家という得体の知れない象徴の実態を永く記憶にとどめておきたかったのだろう。
「アメリカ大陸」はアメリカという国の本質に迫っている紀行文。広漠とした“ハートランド”もよりアメリカなのだと。「神戸まで歩く」は思索的な長歩記。行程は半日だが内容は広く深く、阪神大震災あり阪神タイガースあり、故郷喪失感あり。青春のムラカミが甦ってくる。同時代に同地域でよく似た青春をおくった一人として郷愁を禁じえない。音楽、小説、映画、旅行のエッセンスをちりばめた良質なムラカミワールドが味わえる一冊。