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35件
満願(新潮文庫)
著者 米澤穂信
「もういいんです」人を殺めた女は控訴を取り下げ、静かに刑に服したが……。鮮やかな幕切れに真の動機が浮上する表題作をはじめ、恋人との復縁を望む主人公が訪れる「死人宿」、美しき中学生姉妹による官能と戦慄の「柘榴(ざくろ)」、ビジネスマンが最悪の状況に直面する息詰まる傑作「万灯」他、「夜警」「関守」の全六篇を収録。史上初めての三冠を達成したミステリー短篇集の金字塔。山本周五郎賞受賞。
満願(新潮文庫)
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満願
2018/10/17 18:26
光るミステリー小説の腕前
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
米澤穂信の連作短編小説6編である。つい最近NHKで放映されたので、ご覧になった方も少なくないであろう。放映されたのはそのうちの3編だけである。いずれもミステリーに相応しく、なにかしらの仕掛けがある。いずれも6つの短編相互には何の関連もない。それがかえってミステリーの面白さを助長しているかのようだ。
『夜警』は交番勤務の警察官の物語である。その言動からみて警察官の適性が問われる人物がいたが、案の定死亡事故を起こしてしまう。『万灯』は商社マンが主人公である。インドネシア駐在で資源開発の仕事をしていたが、異動でバングラデシュに勤務地が変更になった。習慣の違いから様々な変化が襲ってくる。
『満願』は苦学して司法試験に合格した若き弁護士の物語である。勉強中はある夫婦宅に下宿をしており、世話になったのだが、弁護士になった後、妻に殺人の疑いがかかってしまい、解決に乗り出した。
テレビドラマの方は、『満願』しか見ていないが、実際に小説を読んでみると、なかなかの出来であった。放映されていないものもかなり練れている。むしろ、テレビドラマの『満願』は、主人公のミスキャストもあって、ストーリー自体の骨組みが弱く、肝腎のドラマの筋がよく伝わらなかった。ミステリー作家として米澤の腕が光っている小説であった。他の短編も読む価値は十分にある。
満願
2017/08/24 17:57
まるで長編を読んだかのような読後感のある短編集
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:touch - この投稿者のレビュー一覧を見る
地味なタイトルなので、普通であれば手に取らないが、帯に「このミステリーがすごい」「週間文春ミステリー10」「ミステリが読みたい」の3冠で、山本周五郎賞も受賞とあったので購入。
連作短編でもない、まったく異なる六篇の短編集。
それなのに、まるで長編を読んだかのような読後感がある。
それぞれが、長編作品にしてもいいような設定やストーリーで、一捻りも二捻りもあるミステリー。
作品に合わせて、文体までも変えているので、より話にのめり込んでしまう。
最近読んだミステリーでは、抜きん出て面白かった。
満願
2019/01/17 16:43
動機はなんだ!?
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
6つの作品を収める、ミステリーの短編集である。
この作品で米澤穂信は2014年に第27回山本周五郎賞を受賞しただけでなく、「このミステリーがすごい!」「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」の国内部門ランキングにて1位に輝いた。
つまり、2014年の読書界では大きな話題となった作品なのだ。
それぞれの作品には殺人事件が描かれているが、それがどのような手口で行われたということではなく、ここではその動機がたまらなく読者をひきつける。
何故、彼は、あるいは彼女は人を殺めなければならなかったのか。
表題作の「満願」は、主人公である弁護士が貧しい学生時代に世話になった下宿の大家の奥さんの起こした殺人事件の動機が謎解きとなっている。
苦学生だった彼の面倒をよく見てくれた女性が金融業の男を刺し殺した事件の本当の動機は何だったのか。
弁護士の思い出の中に散りばめられた彼女への淡い思い、そしてそんな淡い日々の中にひっそりと潜む、思いもかけない彼女の動機。
それさえも確かではないが、それは作者から読者への挑戦状のようなものかもしれない。
あるいは「夜警」という作品。
迫ってきた凶暴な犯人を射殺し、自らも殉職した若い警官は本当に勇敢な職務遂行であったのか。その謎に迫る主人公は、もしやの動機に呆然とする。しかし、それもまた、作者の読者へ突き付けた問いかけだ。
あなたはそれを信じるか、と。
6つの作品の中では、やはりこの2つの作品がいい。