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3件
彼岸過迄(新潮文庫)
著者 夏目漱石
誠実だが行動力のない内向的性格の須永と、純粋な感情を持ち恐れるところなく行動する彼の従妹の千代子。愛しながらも彼女を恐れている須永と、彼の煮えきらなさにいらだち、時には嘲笑しながらも心の底では惹かれている千代子との恋愛問題を主軸に、自意識をもてあます内向的な近代知識人の苦悩を描く。須永に自分自身を重ねた漱石の自己との血みどろの闘いはこれから始まる。(解説・柄谷行人)
彼岸過迄(新潮文庫)
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彼岸過迄 改版
2020/10/08 21:52
タイトルの意味
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルの「彼岸過迄」は漱石が序文でことわっているように、彼岸すぎまで書く予定という意味から来ている。漱石のことだから、もっと深い意味が本当はあるのかもしれないが私にはわかる由もないが、彼岸という言葉がでてくるのはいわゆる「修善寺の大患」ともいわれる療養中の大量の吐血が関係しているのかもしれない。「自分は又自分の作物を新しい新しいと吹聴することも好まない。今の世に無暗に新しがっているものは三越呉服店とヤンキーとそれかた文壇に於る一部の作家と評家だろうと自分はとうから考えている」と当時の文壇について手厳しいことを書いている、自然主義派やネオ浪漫派の連中とは一緒にされたくないという矜持を感じる
彼岸過迄 改版
2024/04/07 00:20
「まとまり」はないが
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:H2A - この投稿者のレビュー一覧を見る
作品としてまとまりが良くないが、須永市蔵という帝大法科を卒業しながら職につかず、思いを寄せる千代子にも煮え切らない態度をとる意志薄弱と言われそうな男が主軸の小説。でも「須永の話」の章は非常に充実して、須永の語る無間地獄のような自意識が重く、千代子という女の存在が感じられてこの小説のコアであった。こうした男女の関係性を小説の中で立体的に描き出した手腕は流石。
彼岸過迄 改版
2021/08/09 18:21
漱石は自意識を掘り下げるのが上手い
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:キクチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
夏目漱石といえばその緻密な心情と精神性の描写が特筆されるべきところだと思いますが、特にこの作品はそれがよく出ています。「こころ」で漱石が描いた「先生」のエゴイズムは当人をして自殺をさせるほど追い詰めるわけですが、「彼岸過迄」で描かれる須永の「内へととぐろを巻き込む性質」は最後に一種の回復を見せます。これは登場人物を苦しめる自意識からの逃避と考えられると思います。真反対の結末を辿ったように見えるこの2つの物語はどちらも読んでこそ本当の魅力というものが見られるでしょう。こころ、または他の漱石の作品を読んで響くものがあるなら、この作品もまた特別なものに感じられるでしょう。