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21件
用心棒日月抄
著者 藤沢周平 (著)
用心棒が赴くところにドラマがある――。故あって人を斬り脱藩。己れの命を危険にさらし、様々な人の楯となって生きる浪人青江又八郎の苛烈な青春。江戸は元禄、巷間を騒がす赤穂浪人の隠れた動きが活発になるにつれ、請け負う仕事はなぜか浅野・吉良両家の争いの周辺に……。凄まじい殺陣の迫力と市井の哀歓あふれる十話。
凶刃―用心棒日月抄―
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孤剣 用心棒日月抄 改版
2010/07/28 18:51
藩主毒殺に関わる文書を巡る争奪戦。文書を持つ大富静馬。それを狙う大富家老一味と公儀隠密。文書奪還の密命を帯び用心棒で糊口を凌ぐ青江又八郎の、孤独の闘いが始まる。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
【あらすじ】
間宮中老の召還により国に戻った青江又八郎は、大富家老と侍医村島による藩主毒殺の証言をし、旧録の馬廻り組百石に戻され、祖母と許婚由亀と暮らし始めた。
ところが藩に異常事態が起こった。大富家の処分を終えたものの、藩主毒殺の企てに加わった一味を処分するための連判状と手紙類、大富の日記が消えていたのである。
その書類一切を持ち出した者は大富静馬。大富家老の甥にあたる。彼は脱藩の際、襲ってきた公儀隠密を斬っていた。
大富静馬の持ち出した藩主毒殺を証拠立てる書類一切が、公儀隠密の手に落ちれば、藩の取りつぶしは必定。
藩政を掌握した間宮中老は、いまだ蠢動する大富家老一味の目を欺くため、又八郎に再び脱藩と書類の奪還を命じた。
少ない当座の金を渡されたのみで仕送りはなし。静馬捜索の藩の支援もない。
又八郎は、江戸で再び暮らしを立てるため用心棒となる一方、大富静馬と書類を狙う大富家老一味、公儀隠密との孤独の闘いを始めた。
【書評】
用心棒日月抄シリーズ第二弾。
前作「用心棒日月抄」で、国に帰藩を果たし旧録に戻された青江又八郎だったが、一安心したのも束の間、本作品で再び脱藩者として、江戸に舞い戻ることになる。
本作品では、前回につづき又八郎に厳しい境遇が与えられる。
藩命でありながら間宮中老からの支援は一切なし。自力で暮らしを立てなければならず、藩主毒殺の証拠書類を狙うのは、又八郎の他に、藩主毒殺と関わった証拠消したい大富家老一味と、藩の落ち度を掴みたい公儀隠密。そして書類を持つのは東軍流の剣客大富静馬。
またしても用心棒で稼ぐ羽目になりながら、孤立無援の状況でいかにして書類を奪還するのか。
この本流とともに、例のごとく、全八話に変わり種の用心棒稼業が描かれている。
前作での忠臣蔵が関係してくるような趣向はないものの、随所に見られるユーモアは健在。
長い間の用心棒稼業で疑り深くなった又八郎と、書類奪還を命じておきながら一切支援をしない間宮中老との掛け合いに始まり、変わり種の用心棒を斡旋する口入れ屋吉蔵、用心棒仲間の細谷源太夫らのコミカルな交流が楽しめる。
さらに吉蔵の口入れ屋に新しくやってきた貧相な風貌の米坂が用心棒仲間に加わり、前作で国へ帰還する又八郎を襲った女刺客佐知が、動きのままならない又八郎の密命を助け、交情を深めるという、新しい登場人物の活躍もある。
そういう訳で、前作同様、夢中になって読み終えることができる作品だが、次はいったいどういう『災難』で用心棒に舞い戻るのか、意地悪な気持ちで第三弾「刺客―用心棒日月抄」に手が伸びている。
ところで巻末に、『藤沢周平の文体』と題して向井敏氏の解説が掲載されている。
剣客小説において、藤沢周平の張りつめたような端正で切れの良い文体が、いかに望ましいかを述べているが、転じて、この用心棒日月抄シリーズで試みられた、のびやかで柔軟な描法の結実を語り、例文を用いたそれらの丁寧な解説がとても印象に残る。藤沢作品の面白さの一端を窺える解説である。
そういう向井氏の解説は、淀みなく流れる川のように自然で、一つの読み物として受け入れられるのは、向井氏が『文章読本(文春文庫)』で文章の表現をまとめていることと、無関係ではないだろう。
自分もこういう文章が書けるようになりたいものである。
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第一弾:用心棒日月抄
第二弾:孤剣―用心棒日月抄
第三弾:刺客―用心棒日月抄
第四弾:凶刃―用心棒日月抄
用心棒日月抄 改版
2010/07/27 18:48
国元からの刺客を迎え討ちながら、江戸で糊口を凌ぐために始めた用心棒。随所に見られるユーモアや個性的な登場人物によって得た明るさと、幾重にも凝らされたサスペンス的趣向が魅力の時代小説。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
【あらすじ】
青江又八郎は、国元で偶然に筆頭家老大富と藩主侍医村島の、藩主毒殺の密談を聞いてしまった。
又八郎は、許婚由亀の父で徒目付の平沼に、大富家老の陰謀を打ち明けたが、斬りかかられ、反射的に平沼を斬った。その夜、ただ一人の身寄りである祖母を残して脱藩し、江戸にやってきた。
又八郎は、糊口を凌ぐため口入れ屋でさまざまな用心棒の斡旋を受けながら、国元からの刺客を迎え討ち、やがて父の仇と現れるかもしれない由亀を待つのだった。
【書評】
用心棒日月抄シリーズ第一弾。
多くの評論家や著者自身が『明るい基調を見せ始めた作品』と言っているとおり、ユーモアと個性的な登場人物たちによって明るい雰囲気に包まれいて、哀しい結末を描かないことで爽やかな印象を残す作品となっている。
本書の明るさは、哀しい境遇にもかかわらず主人公又八郎の開き直った自嘲的な様子、変わり種の用心棒、情もあり律儀な口入れ屋吉蔵との交流、職の斡旋には抜け目がない吉蔵との割の良い仕事を巡る掛け合い、口入れ屋で知り合った豪快な子だくさん浪人細谷源太夫との交流、などによって創り出されている。
それも初めて訪れた口入れ屋で、細谷に割の良い仕事を攫われたあげく、犬の用心棒しか残っていないと無慈悲に言う吉蔵と、それを受けて犬の用心棒につくという奇抜な第一話から、何やら面白そうな空気が漂い始め、ページをめくる手が止まらなくなる。
ユーモア溢れる作品「獄医立花登手控え」シリーズは、その反面、シリアスで暗い部分もあり、明るさと暗さが対照的に描かれていたが、本作品では、その暗さの部分を自嘲的に描くことで、全体的な明るさを獲得しているように感じられた。
本書の魅力は、その明るさだけではなく、幾重にも凝らされたサスペンス的趣向にもある。
全十話に別れた用心棒又八郎の活躍を軸に、用心棒又八郎の周囲に見え隠れする赤穂浪士と吉良方の影、思い出した頃に襲ってくる国元からの刺客との剣闘、国元に残してきた祖母と許婚だった由亀の様子、などサスペンス的趣向が二重三重に凝らされ、物語と読者の読進欲を力強く牽引している。
変わり種の用心棒の他に人足もこなす主人公だが、定職のない生活は楽ではない。何日か雇われたあとは、また新しい仕事を探さなければいけない。
たびたび空になる米櫃、近所の住民達との飯の貸し借り、割の良い仕事の切望、用心棒先での飯の心配、そういった食に関わる挿話は、又八郎の生活臭を生々しく漂わせ、ヒーロー然としていない主人公をどうしても応援したくなる。
その反面、今度はどんな変わり種の用心棒が……と意地悪な気持ちも湧いてくる。
本書は、主人公にそんな気持ちを抱かせる良作なのである。
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第一弾:用心棒日月抄
第二弾:用心棒日月抄―孤剣
第三弾:用心棒日月抄―刺客
第四弾:用心棒日月抄―凶刃
刺客 用心棒日月抄 改版
2010/08/01 16:05
前藩主毒殺の黒幕の宿望が膨れあがる。江戸の藩隠密組織嗅足組に放たれた五人の刺客。江戸嗅足組助勢の密命を帯びた青江又八郎は、再び江戸に舞い戻り、用心棒を続けながら刺客との対決する。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
【あらすじ】
藩主毒殺に関わる文書を狙う幕府隠密、その文書をもつ大富静馬との闘いに勝ち、文書奪還に成功した青江又八郎。
辛苦の働きにも関わらず例によって褒美もなく、旧録の馬廻り組百石に戻された不満はあったものの、帰国して半年、妻由亀との暮らしは平穏で幸せだった。
ところが又八郎に再び『災難』が降りかかる。
前藩主毒殺の黒幕は、藩主の座を狙い、藩隠密嗅足組の抹殺するため、江戸に五人の刺客を放った。
昨年の文書奪還で江戸嗅足組に助けられた又八郎は、今度は借りを返せとばかりに江戸嗅足組助勢の密命を受けたのだ。
かくして又八郎は、再び藩を脱藩。用心棒で糊口を凌ぎながら、刺客との対決を始めるのだった。
【書評】
用心棒日月抄シリーズ第三弾。
今作も、前作「孤剣―用心棒日月抄」同様、密命で脱藩する羽目になり、藩からの支援は一切なし。青江又八郎は、用心棒で暮らしを立てながら、命を果たすため奮闘する。
例のごとく、しもた屋のような店構えにもかかわらず江戸第一の格式を誇るような口振りで、割の良い仕事を紹介したときには、胸を反り返らせる口入れ屋の吉蔵や、酒好きで六人の子がいる豪快な用心棒仲間の細谷源太夫との交流はユーモアに溢れ、用心棒や密命に関わる緊迫の場面が読進欲を誘う作品となっている。
こう書くと、これまでの作品と変わり映えのしない内容かと思われがちだが、五人の刺客との緊迫した闘い、死地を共にくぐり抜けた佐知との深まる交情、これまで又八郎が経験してきた辛苦に一区切りがつく驚愕の展開が用意され、満足度はこれまでで最高。
続く第四弾にどのような展開が待っているのか、非常に期待させる内容だった。
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第一弾:用心棒日月抄
第二弾:孤剣―用心棒日月抄
第三弾:刺客―用心棒日月抄
第四弾:凶刃―用心棒日月抄