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24件
君たちに明日はない
リストラを専門に請け負う会社に勤めている真介の仕事は、クビ切りの面接官。昨日はメーカー、今日は銀行、女の子に泣かれ、中年男には殴られる。はっきり言ってエグイ仕事だ。そんな中、いつも通りにクビを言い渡すはずのターゲットに恋をしてしまった――。 笑って唸って泣かされる、恋と仕事の傑作エンタテインメント!
迷子の王様―君たちに明日はない5―(新潮文庫)
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君たちに明日はない
2005/06/06 21:42
サイトデザインが変わって、書き溜めた書評を出すのを躊躇っていたら、この作品、第18回山本周五郎賞をとってしまった。失敗した、読んですぐ騒いどきゃよかった
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
装画 井筒啓之、装幀 新潮社装幀室。井筒は池永陽『殴られ屋の女神』、日明恩『そして、警官は奔る』、伊集院静『ぼくのボールが君に届けば』といった小説にカバー画をつけている人。白地に人物をスックと立たせるのが井筒の画風らしくて、どの本も白いです。
で、こういった書き方は世の書評家からは馬鹿にされますが、面白いです。冒頭、いきなりヤクザ風のあんちゃんが出てくるので、どうなるのかなと思っていたら、至極まっとうに展開。リストラという、それこそ暗くなりそうな話を、ここまで未来があるように描く?目の付け所のよさと人物設定が、うまいなあとしかいいようがありません。
全体は5つの短篇からなる連作で、垣根は、文章の順番を上手に入れ替え、視点を上手に移動させながら、全体の核となる人間関係や主人公の職業を、それこそストリップ・ティーズのようにチラチラと紹介していきます。
建材会社に乗り込んだ真介が面接したのは、とかく噂のある支店長と、気がきつそうな、きりっとした顔つきの女だった ACT1.怒り狂う女。東証第二部に上場する玩具メーカーの人員削減計画の最終年、クビ切りを依頼された真介の前に現れたのは、離婚歴のある開発課の研究主任 ACT2.オモチャの男。
合併で人減らしを計る銀行の標的となったのは、優秀な成績を残しながら派閥の力学で冷や飯を食わされている同窓生だった ACT3.旧友。日本を代表する自動車メーカーのコンパニオン、美女ぞろいの彼女たちも年齢が上がればリストラの対象に ACT4.八方ふさがりの女。音楽プロダクションの社長が専属プロデューサーの二人の内、一人をクビ切らねばならない。ともに優秀な成績を残す二人は ACT5.去り行く者。
主人公は村上真介、33歳。オートバイに惚れこんで人生ちょっと曲がっちゃったかな、といった印象の二枚目。うまくバランスをとりながら広告代理店で営業をしてきましたが、28歳の時、今、勤める会社『日本ヒューマンリアクト㈱』の社長 高橋に、彼の絶妙な勤務振りを見抜かれ、転職します。
『日本ヒューマンリアクト㈱』は資本金1500万、従業員15名の極細零細企業ですが、主要取引先は日本の超一流企業で、その業務はリストラと称するクビ切りのための査定を、それらの会社の人事課に成り代わって行ないます。事後のトラブルにおびえ訴訟や社内派閥間の争いを回避し、人事部への風当たりを弱めたいという企業のニーズに応えた会社です。
で、真介は相手の会社に乗り込んだり、或は他の場所を借りるなどして、対象となる部署の人員カットの査定や勧告をし、目標数値を達成することを求められます。ボケと突っ込みというわけではありませんが、彼とコンビを組むのが人材派遣会社からの派遣社員で23歳になる、やや白痴的な美女 川田美代子です。この二人、いいコンビですが男と女の関係にはなりません。
何故かというと、真介くん、マザコンです。いや、違うかな、年上の女性に弱いというのがいいかもしれません。しかも、ちょっときつめの女性がいい。歳の差なんて20歳くらいは全く問題なし。むしろ、相手のほうが真介に気を使うくらいです。ただし、ただ年上だけではだめで、やはりいい女であることは条件です。
で、第一話で怒りまくるのが、建材会社『森松ハウス㈱』の営業企画推進部の課長代理で41歳になる芹沢陽子。28歳で旧家の御曹司と結婚、でも相手の浮気に嫌気がさして31歳で離婚、5年前府中市内に1LDKの新築マンション購入、ま、仕事は出来ます。
もう、これだけで十分でしょう。私は、ACT3.旧友 で泣きました。夫婦って、こうじゃなくちゃと思いました。無論、ありふれた展開かもしれませんけど、いいです。かなりエロい場面もあって、ちょっと娘たちには早いかなと思わせますが、これだけ面白ければ十分。今のところ垣根のベストでしょう。
勝ち逃げの女王
2020/11/18 13:59
未来の働き方のヒントに満ちていた
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タオミチル - この投稿者のレビュー一覧を見る
リストラ請負会社「日本ヒューマンリアクト」に勤める会社員・村上真介のシリーズ。彼が、さまざまな企業から依頼され、リストラ対象部門の社員を面接、早期退職希望に誘導してゆく…を柱にした物語の4作目である。
ちなみに本シリーズの紹介コピーには、主人公村上真介に「首切り請負人」というキャッチコピーをつけるけれど、正確には全然違う。
逆に、リストラに関する深いノウハウの宝庫のようにも思える。
被面接者に徹底的に寄り添い、会社から「もう要らない」と烙印を押されかかっているヒトの新しい未来を一緒に考えるイメージで物語は展開する。
特に本作では、会社から辞めさせないようにしてほしいと依頼された相手が面接対象。その結果も清々しい。
張り込み姫
2020/09/05 22:11
本シリーズのテーマがよりリアルになった。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タオミチル - この投稿者のレビュー一覧を見る
単行本が2005年発行のシリーズ1と比べると、リストラされる人々の感覚がずいぶん違うなぁ...というのが、まずは素朴な感想。続けて読んだのでその変化が新鮮だった。主人公のリストラ代行会社面接官の活躍により、ほとんどの人が会社を去って行くのは同じだが、本書の登場人物は、揃いも揃って会社への期待は希薄、たぶんゼロに等しい。会社にしがみつくこととか収入が途絶えてたのちの生活よりも、自分の好きな仕事をいかに続けてゆくかで悩む。そして、ここではもう好きな仕事はできないと、会社を去ることを決意する。いい感じだ。
”このまま居れば=例えば会社に残れば、「君たちに明日はない」”...という、実はそうゆうシリーズを通してのテーマがよりリアルになった。