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12件
グロテスク
著者 桐野夏生
光り輝く、夜のあたしを見てくれ!
女たちの孤独な闘いを描いた最高傑作。
名門Q女子高に渦巻く女子高生たちの悪意と欺瞞。
「ここは嫌らしいほどの階級社会なのよ」
悪魔的な美貌を持つニンフォマニアのユリコ、競争心をむき出しにし、孤立する途中入学組の和恵。
ユリコの姉である“わたし”は二人を激しく憎み、陥れようとする。
圧倒的な筆致で現代女性の生を描き切った、桐野文学の金字塔。
解説・斎藤美奈子
※この電子書籍は2003年6月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
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グロテスク 上
2006/11/07 17:48
総理そして人の親である皆さま方お願いです
12人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hisao - この投稿者のレビュー一覧を見る
名門学園高校に存在する貧富・家柄・頭脳・美貌での戦慄の序列差別・悪意。
怪物的美貌を持った妹ユリコは自ら身を売ることで学園での優越と享楽の地位を確保する。
同級生の一人はそれなりの天分備えた優等生ミツル、一人は高級サラリーマンである父親譲りの“努力”を信条とし脳天気なガリ勉を恥じない和恵。
妹の美貌を嫉み恨みを引きずって生きなければならなかった私。
階級社会に勝ち抜くため藻掻きながら転落する4人の女性の物語である。
美貌のユリコは校内売春が露見、退学、お水の世界、美貌見る影もない街娼となり、ついには死に魅入られた如く絞殺体となって発見される。
優等生ミツルは東大医学部に進学するが新興宗教と言う名の階級社会で栄達を求める。
そして努力家・和恵は当学園の最高府を卒業、大企業のエリート社員の身の傍ら夜の女として街に立つ。
“性交することだけが男を支配する事を可能にする”
学園での階級序列、大企業での階級序列、娼婦での階級序列が彼女を狂わせたのか?
醜悪な体で街を彷徨い男を求めてやまない和恵の完全な崩壊。彼女も又絞殺されて街に捨てられる。
作者はこれでもかこれでもかと人間の“グロテスク”を描ききる。
しかも これは“お話し”ではないと言う事が読む人の辛さ・悲しみをかき立てます。
和恵のモデルは1997年に起こった“東電OL殺人事件”として実在する。
優等生ミツルが新興宗教にのめり込んだ理由が目下法廷で裁かれている某教団事件に肉薄する。
さらに ユリコ・和恵殺害犯として描かれる中国人の密入国・殺人に至るまでの半生の告白。
何故かウソの告白だと言うことが逆に(かっての)中国共産社会の実体を語っている様で空恐ろしい。
そして劣等と羨望の対象である妹を失った私はどうなったのか?これは“本”を読んで下さい。
ところで安部総理は教育基本法改正に意欲的です。大まかな所は“美しい日本”への“愛国心”を育てる教育に改定したいそうです。
“愛国心”も結構ですが今“教育”で何が緊急問題になっているのでしょうか?
最近どこかの末端自治体で小中学校の予算配分に学童のテスト結果を取り入れることにしたと言うことが新聞に載っていました。各学校のペーパーテストの結果向上、進学率向上、に関する先生や生徒への締め付けがかなりのものだから偶々その様な動きになったのだと思います。
その様な環境の中では先生や生徒の“いじめ”も日常当たり前の事として起こっているのではないかと思います。
格差社会をもろに反映する学校格差、生徒格差、いじめ、夢を失った子供達、教育の荒廃。
勿論一昔前の“ゆとり教育”が良いとは思いません。
総理そして人の親である皆さま方お願いです。
“学業成績”や“愛国心”より一つの価値基準では決めつけられない“人間”を守り育てて頂きたい。
この小説を読んでつくづく思いました。
グロテスク 上
2020/07/22 16:03
アイデンティティ
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ジミーぺージ - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本の主人公は、ユリコの姉、ユリコ、同級生の和恵とミツルの4人です。
彼女たちは超名門校の出身者です。
彼女たちは、お互いに嫉み・ひがみを持っています。
この嫉み・ひがみは、自分にないものを他人が持っている時や仲間外れのような
差別を受けたときに発生します。
また、人は生まれ持った才能と、努力によってのみ獲得できる実力とで生きています。
ユリコの姉(名前は示されていません)は、利己主義者で、ユリコへの嫉み・ひがみが強く、
ユリコは、生まれ持った美貌武器に姉に対して高飛車に生きて行きます。
和恵は負けず嫌いで、努力・努力によって一流を勝ち取ります。
少し鈍臭いイメージがあります。
ミツルは、優等生で周りから天才肌と思われていますが、その裏で努力をする苦労人です。
この本には、東電OL殺人事件の背景があります。
(慶応大学を出て東電に入社し、エリートだった現役OLが売春をし、
そして渋谷の円山町で殺害された事件。)
そして、この本の中ではこれに類似した事件を発生させ、彼女たちの心の寂しさを描いた
ものになっています。
長編小説ですが、是非読んで見て下さい。
グロテスク 下
2011/04/09 21:51
「あんたはからっぽなのよ」その意味と結末を見逃さないでください!
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:カフェラテ愛 - この投稿者のレビュー一覧を見る
悪意、悪意、悪意。こんなにも悪意に満ちた世界があるのか、身体を震わせながら読んだ。美とは醜いとは心とは身体とは男とは女とは混沌としたストーリーが展開されていく。昼はOL、夜は娼婦をする和恵。生々しい女の心内があぶり出されていて読んでいて苦しい。
あぁ、こんな生活じゃなくて良かった。優越感に浸ってる訳じゃなく、安堵として読みながらホッとしている自分がいる。もう読むのはやめよう、何度も思ったがやめられなかった。誰の心にもある劣等感や卑下する心(多分、あるんじゃないかと思う)が上手く書かれてあって、読んでいて暗く陰鬱な気分になる。
女の価値はお金出来まるのか・・・。セックスに意味はあるのか?素晴らしい名のある会社で働くことに意味はあるのか?和恵は言われた「あんたはからっぽなのよ」そう、名のある会社で働いても、娼婦をしても、結局のところからっぽなのだ。出来ればこのような、世界が消えてなくなりますように。女の幸せとは一体なんなのか、考えさせられた作品でもありました。