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24件
壬生義士伝
著者 浅田次郎 (著)
小雪が舞う一月の夜更け、大阪・南部藩蔵屋敷に、傷だらけの侍がたどり着いた。貧しさゆえ南部藩を脱藩し、壬生浪(みぶろ)と蔑称された新選組の隊士になった、吉村貫一郎であった。その剣の冴えは“人斬り貫一”と京の都で恐れられ、一方、極度の倹約のため守銭奴と蔑まれた男には、まったく異なる貌もあった。元新選組隊士や教え子たちが語る非業の隊士の生涯から、血なまぐさい時代にひとすじに生きた「誠」の人生が浮びあがる。2003年映画公開。浅田次郎、渾身の名作!
壬生義士伝(下)
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壬生義士伝 上
2007/10/23 06:31
時代の大きな流れの中で真っ当に生きた貫一郎
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ポカ - この投稿者のレビュー一覧を見る
人というのは、時代に流される。
社会といのも、時代に流されていく。
そのなかで、一人一人の人間も流されていく。
全てが大きな流れに流されていく。
その流れに乗るも、逆らうも、
つまりはその潮流のなかでのもがきであるから
どちらも同じような気もする。
善悪などの人の価値観までもが、
そのときの立ち位置によって大きく変わってくる。
まさしく「勝てば官軍」で、
勝ったほうが善、負けたほうが悪。
正義や守るべきものや、行くべき道が
時代の大きな流れの中で混沌としている時代。
だからこそ、
違う角度から見ると、全く違った一面が見える。
別の角度では見えなかった違った光を放つ。
それは、いつの時代や社会でもいえることなのかもしれないが、
明治維新の大きな転換期であるこの時代においては
極めて顕著にあらわれることなのかもしれない。
維新の頃の日本について、
新撰組や薩長、そして幕府が語られるとき、
その語り手の立ち位置によって、英雄と悪者の語られ方が異なる。
薩長側からすれば、会津や新撰組は敵(悪)になるし、
会津、新撰組からすれば、薩長は敵(悪)になる。
薩摩と長州との間には、また別の関係があり、
幕府とのそれぞれの関係、
近藤勇や土方やそれぞれの人間、
そのひとつひとつの関係にひとつではない物語がある。
一方的ではなく色々な立場から語られているのが、
この物語に深みを増している。
色々な人に、吉村貫一郎を語らせて、
様々な立ち位置から多面的に見せてくれる。
一人の人物をその多面的に見せることによって、
吉村貫一郎という人物の
人としての大切なものを貫き通し、
いかに真っ当に生き抜いたかというところが、
じわじわと沁み入ってくる。
そして、
彼の周りに居た者、一人一人もまた、
真剣に時代を生きたひとたちであったことを
深く感じさせられる。
時代に流されて、誰もが諦めかけていた大切なもの。
家族や故郷。
吉村貫一郎という人物は、それを諦めずに大切に生き続けた。
その強さと優しさに涙が溢れる。
貫一郎が想い続けた、美しき街、南部の盛岡。
岩手山、北上川、夕顔瀬橋、下ノ橋・・・
今の盛岡と変わらぬ名前が多く出てきて、
見慣れた盛岡の街が、また違って見える。
あぁ、盛岡の風。美しき街。
この美しい故郷が、貫一郎を支え、この物語を支える。
読むなら冬、のような気がする。
物語をすぐ近くで見ているような感じがする。
静かな冬の夜におすすめしたい本です。
壬生義士伝 上
2003/01/06 23:21
「おもさげながんす、吉村先生」
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:逢坂 - この投稿者のレビュー一覧を見る
泣きたければ浅田次郎を読む。天国までの百マイルを初めて読んでからの、私のポリシーなのですが、今回もやはり、泣きました。
主人公は吉村貫一郎。諸士取調役兼監察、剣術師範などをを歴任した、もちろん実在する新撰組の幹部です。それなりに新撰組の資料には目を通しているものの、詳しい人となりを知ったのはこの本が初めてでした。
物語はさまざまな人物へのインタビューという形でもって進みます。その挿話として、貫一郎の独白が入ります。とにかく切なくて切なくて、皆が皆人間臭く、だから一層物悲しい。各々の登場人物たちが、確かにあの幕末の世に生きていたのだと、翻弄されていたのだと、そして吉村貫一郎が大切に思えて仕方がなかったのだと、肌に感じることのできる、お話です。中でも斉藤一の語る鳥羽伏見の戦いのくだりは秀逸で、新撰組のすべてを凝縮した、そして吉村貫一郎という人物像を鮮烈に描き出した、非常に印象に残るシーンでありました。
また史実を感じさせるエッセンスもふんだんに含まれており、稗田利八のセリフには思わずニヤリと口許を緩めてしまいます。
貫一郎は非業の死を遂げますが、どうかラストの大野次郎右衛門の手紙まで、しっかりと目を通して下さい。家族のために、義のために、命を散らした、誠の南部武士・吉村貫一郎。表題の意味が明らかになったとき、なんともいえない感動が胸に込み上げてくるはずです。
実は映画の方も一足先に試写会にて視聴してきたのですが、原作を知っていると、より深くお話にのめり込めること間違いないです。本を読むときも、映画を観るときも、ハンカチのご用意を忘れずに。
壬生義士伝 下
2021/06/14 10:14
感動の作品でした。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kotep - この投稿者のレビュー一覧を見る
南部藩屋敷で自刃した吉村貫一郎。南部の雫石に残した妻のしづ、息子・嘉一郎、娘のみつは主の脱藩後どのように生き抜いてきたのか。家族は妻の実家に身を寄せる。
嘉一郎は秋田藩討伐に加わり、函館の五稜郭で最後まで薩長軍と戦う。みつは家老の大野次郎衛の息子・千秋と結婚し満州で医院を開業する。そして最後に生まれた子供には最高の名前が・・・。
嘉一郎の生き方にも父の武士道の精神が受け継がれていたことや、母への手紙を含めて生き方にただただ驚くばかりでした。上下巻ともに本当に感動した作品でした。新撰組の有名人ぐらいしかしりませんでしたが、少し興味を持ち始めました。次は一刀斎夢録や輪違屋糸里を読んでみようと思います。