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8件
ヴァイオリン職人
ジャンニはイタリア・クレモナの名ヴァイオリン職人。ある夜、同業者で親友のトマソが殺害されてしまう。彼は前の週に、イギリスへ“メシアの姉妹”と言われるヴァイオリンを探しにいっていた。それは一千万ドルを超える価値があるとされる、幻のストラディヴァリだった。ジャンニは友人で刑事のグァスタフェステに協力し事件を探り始めるが、新たな殺人が……。虚々実々のヴァイオリン業界の内幕、贋作秘話、緊迫のオークション、知られざる音楽史のエピソード。知識と鋭い洞察力を兼ね備えた名職人が、楽器にまつわる謎を見事に解き明かす!
ヴァイオリン職人と消えた北欧楽器
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ヴァイオリン職人の探求と推理
2015/03/26 17:59
美しい素材、美しい文章、音楽と人生の味わい
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者はイギリス人で、かなり多作な人らしいが日本では知られてなかっただろう。
それが昨年、正編続編と成す2冊のユニークな本で登場した。
ユニークというのはわざわざ翻訳者が原作の題を変えて強調しているように、
ヴァイオリン職人の老人が謎解きに挑むというものだ。
しかも主人公ほか主要人物はイタリア人で、舞台もだいたいイタリアである。
正編に当たるこの本では、
腕の良いヴァイオリン職人のジャンニが、語り手=主人公として登場、
同業の親友が殺され、若い刑事もヴァイオリンの演奏仲間で、
またどうも幻の名器にまつわる事件のようだということで、
その知識もあって、刑事を手伝って謎解きに乗り出す、という話になっている。
ヴァイオリン、しかも製作、さらには偽造やらという面を含むわけで、
クラシック音楽やヴァイオリンの曲や、
ヴァイオリンそのものに興味がある人には堪えられない素材かもしれない。
私のようにとくにヴァイオリンに詳しくない場合でも、
ストラディバリウスなどという名器があって、何やら興味深い、ときにはミステリアスな歴史があることはどこかで聞いている。
そういう背景の奥深さをうまく利用したミステリーである。
一般人が読むにはときに知識がついていかないと思う場面もあるが、
苦になる程でもないし、当然のようにすばらし演奏の描写などもあって楽しめる。
ミステリーとしては、殺人をめぐる真実だけでなく、
消えた歴史的なヴァイオリンの謎をも解き明かそうという二重構造になっているのもいい。
しかし、そうしたユニークな設定はもちろん評価すべきとしても、
またミステリーとしての質も悪くないにしても、
私が一番魅力的と感じたのは文章と登場人物だった。
とても味のある主人公が語る形だから、それらは渾然一体と言ってもいい。
ジャンニだけでなく、友人である若い相棒の刑事のほか、
何人もの愛すべき、あるいは興味深い人物が出てくる。
その辺は、質のいいイギリスの小説にしばしば見られるもので、
イギリスの作家の良さが出ていると言うべきだろうか。
ミステリーというと殺人事件を扱ったものが圧倒的に多いだろうし、この作品も例外ではないが、
そこにありがちな生々しさとか血生臭さはここではあまり感じられない。
それもやはりジャンニの人柄とそれを映した作者の筆の功績で、
殺人のおぞましさの代わりに、人生の滋味のようなものがにじみ出ているのがとてもいい。
文章だけでも楽しめる物語ではないかと思った。
そしてそれも翻訳の良さがあってのことである。
おそらく元の文章もいいのだろうが、この翻訳はいい。
注の付け方にもクラシック音楽へのこだわりが感じられるようで、その点もいいと思った。
ヴァイオリン職人の探求と推理
2015/03/23 20:35
いいです
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:パウロ - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公のヴァイオリン職人ジョヴァンニが友人、家族、過去と現在の職人や演奏家たちにそそぐ暖かい視線、音楽への愛に心があたたまる。遊びにきた孫たちに、母親(自分の娘)の禁止事項をやぶって泥んこで遊ばせたり、被害者の孫の若いヴァイオリニストをはげましたり。個人的には、ストラディヴァリの暮らしと仕事ぶりについてのくだりが印象的だった(P162)。過去の大職人に対する敬意にあふれ、一人称であることが効いている。もちろん第二作もすぐ読むしかないでしょう。
ヴァイオリン職人と消えた北欧楽器
2020/07/24 11:21
ミステリー・推理小説に求められる「再現力」
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kapa - この投稿者のレビュー一覧を見る
ヴァイオリンの名職人にして名探偵でもあるジャンニ・シリーズの3作目。5年ぶりの新作。日本の愛読者のために書き下ろしたオリジナル作品とのこと。
ヴァイオリンを扱うミステリーや推理小説は、主役でもあるヴァイオリンが名器でなければならない。そうなると、「ストラディヴァリウス」。しかし現存するストラディヴァリウスは約520挺もあり、別の付加価値が必要となる。第1作は幻の『メシアの姉妹』、第2作はパガニーニ愛用の名器『大砲』た。しかしこのプロトにも数的な限界がある。
今回はストラディヴァリウスではなくノルウェー民族楽器でヴァイオリンに似た楽器ハルダンゲル・フィドルが主人公。前作で知り合い恋人となったマルゲリータと第1作からの相棒で息子のような友人の刑事アントニオの3人の「チーム・ジャンニ」が、ノルウェーにまで遠征しての謎解きツァー(とアントニオとノルウェ-女性のロマンス)である。ただ、歴史的な価値があるものではないが、『ペール・ギュント』を想起させる悲しい秘話が隠されていた。
エピソード的にヴァイオリンの名器、グァルネリ・デル・ジェズが登場する。現存数が少なく取引額はストラディヴァリウス以上になることもあり、しかもノルウェー初の国際的スターで『ペール・ギュント』のモデルとされるヴァイオリニスト・作曲家オーレ・ブルOle Bull(1810-1880)が使っていた、という由緒ある名器。チーム・ジャンニは本筋の事件の流れの中で、この名器の盗難事件に巻き込まれるが、こちらも見事に解決。民族楽器はジャンニの専門外、ジャンニとヴァイオリンはセットなのである。今後のシリーズを予感させるプロトではなかろうか?
ミステリー・推理小説の面白さには、ストーリーは重要であるが、事件の書割である「情景の描写」というのも重要な要素である。ノルウェーに行ったことがない読者のために、街・自然・天候などを現前に再現できないと、物語の現実感がなくなってしまう。筆者がノルウェーを舞台設定にしたのは、行ったことがなかったからという理由かもしれないが、冬の破天荒やフィヨルドの光景などその再現力・筆致力には驚くばかりである(もちろん訳のすばらしさもある)。また、アントニオは高い物価への不満を口にするが、おそらく著者の取材の実体験からきているのだろう。
ヴァイオリンのミステリーは、名器と来歴という2つの条件を満たすヴァイオリンでなければならないので、作品は少ないように思う。蔵書の2冊の紹介。
ジョン・ハーシー著『アントニエッタ、愛の響き』(1993)55歳で恋に落ちたストラディヴァリウスが恋人のためにつくり上げ、《アントニエッタ》と名づけられた畢生の名器 (もちろん架空)を巡って繰り広げられる物語。実在の大音楽家も登場し、《アントニエッタ》が彼らの人生を変えていく300年にわたる愉快で感動的な愛と冒険の物語。
このプロトは、映画『レッド・ヴァイオリン』(1998)と似ている。出産で妻子を失った悲しみから、ある職人が死んだ妻の血を調合したニスで仕上げた伝説の名器“レッド・ヴァイオリン”をめぐり、17世紀イタリアからオーストリア、イギリス、文化革命時代の中国、そして現代のカナダまで、時空を超えたヴァイオリンと人々の数奇な運命がミステリアスに描かれる。
クリスティアン・ミュラー著『謎のヴァイオリン』(1999)主人公はもと麻薬犯罪捜査官。退職後に身につけたヴァイオリン鑑定の知識と技術で世に認められた変わった経歴の人物。元はドイツの作曲家で名ヴァイオリン奏者であったルイ・シュポア(1784-1859)のグァルネリを巡って繰り広げるハードボイルド風のミステリー小説。

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